Laub🍃

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2017.03.07
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畜生名前を奪われた。

 オレの名前を奪われた、大事なひとに貰った名前を。
 駄目だ、もう人では居られない。化け物に戻ってしまう。

 依代を。依代をくれ。化け物として扱われない為の器を。

「…様!」

 畜生その名前で呼ぶな。
 化け物の名前で呼ぶな。

「久方ぶりだな」
「「 」様、ご無理なさらないで」


 もう駄目だ、オレは戻ってしまう。


「魔王、これで最後だ!」
「魔王様!お逃げ下さい!」

 うるさいうるさいうるさいうるさい、
 お前ら全員どいつもこいつも名前がある分際でオレの事を魔王と呼びやがって。

 オレは役職の操り人形ではないのに。生まれた時から背負わされていただけなのに。

 人間の国も頭がおかしい。なんでよりにもよって勇者に魔王の名前をつけるんだ。


 唯一オレで居られるようにしてくれた『それ』まで何故奪うのだ。


「おのれ…おのれ、「 」…!」

 オレの名前を返せ。





 名も無き魔王は倒された。
 その墓はとてつもなく巨大なものだったが、そこにはやはり「魔王」としか書かれていなかった。

 彼は彼であるがゆえに魔王であったが、魔王であるがゆえに彼であるということを彼は受け容れきれなかった。
 受け継がれる名前など彼にとっては呪いでしかなかったのに。





 ……「 」。この名前は、自分から名乗ったものだ。

 どうしても、同じ名前の彼を殺したかった。


 俺は、オレを殺した。



 ……生まれ変わった。

 あの時、俺に倒されたオレは……何年も何年も前に、勇者として生まれ変わることにした。
 勇者と言う名のー魔王の生贄に捧げられる、小さな子供の身体に宿った。

 俺の目的はただ一つ、魔王を殺す事。
 『 』をその軛から解放すること。

 魔王の座はもう打ち捨てられた。目の前の『 』はただの抜け殻だ。
 中身はここに居る。
 「 」として生きている。

 もう大丈夫だ。
 そう思いながら、彼の餞として城も敵も仲間もみな燃やしていく。



 これで俺はもう勇者ですらない。
 ただの「 」だ。

 ざまあみろ。



 悲鳴はかけらも聞こえない。

 ただ歓声が聞こえる、俺の名を呼ぶあの人の声だけが空高く聞こえる。





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最終更新日  2017.04.16 15:11:21
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