Laub🍃

Laub🍃

2017.08.26
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カテゴリ: 🌾7種2次裏
ーあのこをころしたくなかったんだ。

だから私は、私を忘れた。



ーあなたをころしたくなかったんだ。

だから俺は、再び会ったあなたがそうなっていることに絶望した。



み゛ぃん、と声がした。

俺達の暦ではもう11月だが、未だ異常気象に見舞われているここでは季節と暦が合う筈もない。

じわじわとその声は大きくなる、段々と高ぶる蟲の声に俺は、俺達は、置き去りにされていた。



「…かなめ、さん」

先輩と呼ばなかったのはせめてもの意地。




顔が半分崩れている。左手の先はない。
ほかにも色々な場所がぼろぼろで、けれど残った片目は奇妙に澄んでいた。

何故だか、遠い昔、初めて会った頃よりなお幼い気がした。

「要さん…生きていたんですか」

「どうして何も言わないんですか」

「喋れないんですか」


茂みから現れ、俺と遭遇してのちぴくりとも動かない要さんに恐る恐る近付く。
油断したら、以前のようにナイフを構えられるかもしれない。
銃の弾がまだ残っているかもしれない。


そう警戒して近づいたが、予想に反して要さんはびくりと肩を震わせ、勢いよく反対方向に逃げていってしまった。


「!?ま…っ要さん、待って!待ってください!!」




「要さん!?」

用心深い要さんらしくもない失態。
駆け寄ったところ、要さんは気絶していた。

「……」

頭に水筒の水をかけたり、軽く頬に手を当てたりもしたが、要さんは目を覚まさなかった。








「お前なあ…」
「悪い、涼」
「いつもそうやって軽く済ませやがって」

反対しても無駄だと思っているようだ。
当然と言えば当然かもしれない。こういう他人が関わる時、俺は意見を基本曲げない。
涼はあきれた顔でいつもの溜息をついた。


「……要さんが起きてお前がまた殺されかけたら困るからな、俺もここで見張ってる」
「涼…」
「……おーい、ナッちゃんが来たよー!……って、あれ?百舌さん!?」
「……百舌さん…!?」


にわかに小屋の中が騒がしくなる。
けれど要さんは未だに目を覚まさず、濡れ布巾の下でわずかに眉を顰めるだけだった。





……誰が分かるだろう。

要さんが、4歳以降の記憶を失っていると。





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最終更新日  2018.08.19 19:21:05
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