Laub🍃

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2017.10.19
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カテゴリ: .1次題
「はぁっ…はぁっ…」
「ナデナデシテー」
「…」
「ファ~」

なでるとそいつは少し黙った。
だから撫で続けた。

次第に、そいつの薄汚れた毛並みに、太陽光発電の液晶に、ぽつぽつと水滴がつき始めた。

「ふぅっ…」
「ナイテル?カナシイ?」

「ボク、フアピー」
「プア」
「ボク、フアピー」
「プア」

そんな押し問答を続けて、腹が痛むくらいに減る頃やっとそいつは自分をプアと認めた。


今まで俺を庇ってくれる人なんて誰も居なかった。
母と妹が唯一そうだったが、俺は二人を売って、捨てた。

だけどそいつはきっと捨てられてもついてきて、殴られても庇い続ける奴なんだろうと思えた。

だからプアの存在は、その名前は、俺のお守りになった。

あいつなら耐えるだろうとか、あいつなら立ち向かうだろうとか思えた。

だから強くのし上がれた。







時が経ち俺は一児の父となっていた。

高額医療が必要な家族を抱えた、俺に毎日偽物の笑顔を向ける妻と、俺に懐かない、いつでもここを出て行って自分の力を試してやると宣う息子。

だが、そいつらに暴力や暴言を向けようとすると、きまってプアが邪魔をする。

そうして、庇った妻と息子にも、ぼろと罵られるプア。

やはりこいつはぽんこつだ。


子供が好きなんだろう。俺の前の飼い主もきっと子供だった。

だから俺を守っただけ。そこに特別な感情なんてない。他のロボットと同様、多少バグがあるにしてもプログラミング通り動いているだけ。


だから、俺は。


「……プア。ここで、かつての俺を救ってみせろ。お前はもうお役御免だ」


大人用フアピーを新しく生産させ、そして俺の周りにまとわりつかせた。

新しいフアピーは気持ち悪いふくろうと虫のあいのこみたいな姿じゃない、かつて俺のせいで死んだあの弱い猫と犬の姿を模している。

ボディーガード兼、盗聴器等よろしくないものへの妨害電波を出す新機能付き。
ハックへの対策も万全だし、壊れた部分は取り換えやすくしてある。


「じゃあな、…プア」
「……オヤスミ」



蓄電機能のせいか、暗闇でも寝ないバグを持ったそいつが、やっとそう言った。

……何度教えても覚えなかったくせに。


「せいぜいがんばれ、ぽんこつ」

俺が立ち去った途端、スラムと公道の境目に一人の子供が走り寄ってきた。


無駄に丈夫なぽんこつよ、せいぜい達者で暮らせ。


【終】





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最終更新日  2018.10.28 09:45:19
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