Laub🍃

Laub🍃

2018.03.26
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カテゴリ: 🔗少プリ
・リュウホウ視点
※微グロ描写注意


*******



炎はずっとあたたかい。

スラム街の片隅の、誰にも置いてかれるようなぼくからも、炎だけは逃げ出さない。

裕福層の人達がたまに捨てていく煙草の火が、からからのゴミ山やネズミの死骸にとろとろと燃え移り、じわじわと燃え広がっていく様子を見ているとお腹が空いたことも寂しいことも忘れられた。



何年前のことだったかな。

その夜は久しぶりに沢山の雪が降ってて、ぼくはいつもの通り路地裏の軒下に居て――……寒くて寒くて、拾った火種を絶やさないように移してた。

一瞬のことだった。
大きく膨らんだ炎はこごえた腕を呑み込んだ。
火の燃え移ってしまった服を慌てて脱ぎ捨てて、ぜえはあ冷や汗を流しながら僕はこれでもう大丈夫だと思った。
服を餌にして、目の前の火は更に大きくなった。

どうせ服が燃え尽きれば消えちゃう火だけど、今の内に温まっておこうとぼくは手をかざした。
いつも燃えさしも場所もなくて大きい火なんて燃やせなかったから、その温かさと大きさは夢のようだった。

どれだけそうしてたか。

夢から覚めた瞬間、ぼくの周りに怒号と悲鳴がやってきた。

ぼくの服があった所はもうとうに何もなくなってて、代わりにさっきまで軒下に居た家があかあかと燃えてた。

綺麗だった。

普段はぼくに酷い言葉を投げつける人達が、そこに居ると死ぬぞと叫んでくれる。



炎がぼくに、綺麗な世界と優しい声を連れてきてくれた。





その温かさがもっと欲しかった。







そんなことを何回繰り返したか覚えてない。

はじめの内は偶然巻き込まれたみたいにして、次第に、火事場からご飯や生活道具をもらいはじめて、その為に顔や姿を隠しながら火をつけ続けてたら偉い人から目を付けられちゃった。

気が付いたらぼくは、『82回の放火』の罪状で少年プリズンに送られることになってた。



初めて乗る車の中には運転手とぼく以外に2人。ぼくと同じ誰かを傷付けた人達。

ぼく以外の2人は日本人らしい。
ぼくみたいにみすぼらしくやせこけてない。
寒い思いもおなかが空いたことも殆どないだろうに、どうしてこんなところに来てるのか分からない。

温かかった時の記憶を思い出してると、口からぽろぽろと漏れてしまう。



この人達は、ぼくが死にそうになったら危ないと言ってくれるかな。

これから行くところは、温かい毛布やご飯をもらえるのかな。

怖い人や強い人にとられちゃうかな。

ねずみみたいに隠れられないかな。

怖い。
寒い。
痛い。
固い。
動けない。

どうしてここに火がないんだろう。

あの赤さえあれば落ち着くのに。




なにもできない。

臭いと汚れと生傷だけが増えていく。

ご飯を鍵屋崎からもらったのにとられちゃった。

手ぬぐいを鍵屋崎から貸してもらったのに返せなかった。

ちょっとだけ鍵屋崎が優しい声をくれたのに怯えさせちゃった。


もう駄目だ。


火があれば落ち着くのに。


臭いが取れない手で戸を開ける。
静かだ。
今日は何もない。
何もない、冷たくて、暗くて、静かで、誰にも殴られない日だ。

暗闇に鍵屋崎の顔と声が浮かんでくる。

『頼むから、僕にさわらないでくれ』

ぼくの今頑張れる理由。

鍵屋崎とちょっとだけ接した時の温かさ。

もうこれからは、そんなもの、なくなっちゃうんだろう。

ブラックワークで働けば働くほど、ぼくは鍵屋崎からあの冷たい目と痛いほど震えた声を受け取るんだろう。

それはいやだ。

寒いのはいやだ。

痛いのももういやだ。

どこかに逃げたい。

温かくて何も怖いものがない所へ。

こんな汚くてどうしようもないぼくでも、入れてくれる所へ。







消灯時間の後、仕事から帰っても豆電球は点かない。

だけど好都合だ。
冷えたままなら今度こそ、何にも頼らないで、何も燃やさないで、全部を終わりに出来る。

豆電球の鉤に借りた手拭を通して結んで、がりがりの腕に精一杯力をこめて、ぶら下がった輪の中目掛けて飛び上がる。

これで最後だ。

首に紐がかかった途端、目の前が真っ赤になって、頭が酷く熱くて痛くなって、じうじうと火がくすぶるのに体は酷く冷たくなって、自分の気持ちとは関係なく腕が暴れ出して、でも周りには何も捕まるものがなくて、段々ふやけたタバコみたいにくったりしていく。


白と赤がちかちかして、白が多くなって、少しだけ幸せな気がしてくる。

遠くに強い光が見えた。

白よりもっと明るい光。

炎よりもっと温かい光。

さっきのくったりが嘘みたいに腕が軽い。

伸ばした先から粉々になって、虫みたいに飛んで、光に吸い込まれてく。






ああ、やっと、入れてもらえる。





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最終更新日  2018.04.06 05:01:30
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