Laub🍃

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2018.11.28
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カテゴリ: 🌾7種2次表
・若干打算的で弱り気味な安居独白
・涼の話→ 「青空はまだ遠い」
・NETFLIXでのアニメ化おめでとうございます。
 夏A編まで続くと信じてます



*******


 いつも隣に居る茂や小瑠璃と一緒に、素晴らしい未来に行きたかった。
 要先輩の語る、未来にふさわしい人間になりたかった。

 こんな風じゃなくて、もっとすごいことに時間をかけたかった。

 それなのに全部台無しになった。台無しにしてしまった。

 それが最終試験じゃ正しい事と言われたのに、ここでは化け物のように詰られ追い出されている。
 先生達と同じと小瑠璃は言った。
 汚い、醜いとあゆは言った。
 俺はあいつらとは違うのに、気付けばあいつらと同じことをしている。
 洞窟で幻覚を見た。
 昔の俺に詰られる幻覚だ。
 その俺と同じ目であいつらは俺を見ていた。

 俺は何をやっているんだろう。

 目的がない。支えがない。引く手がない。追っても誰の背中も見えない。
 精神は摩耗して、体力は浪費して、信用は全て潰してしまった。

 今の俺は何の為に生きてるんだろう。



 こいつがもし俺を見限ったら、今度こそ俺は誰にも必要とされなくなる。
 こいつさえ俺を仲間として認識していれば、俺はまだ、あの時なりたかった俺で居られる。

 だから余計に涼のした事を咎められない。
 俺の為と言って人を威嚇し、殺しかけた涼。
 俺の暴走を止めようとしたり、苦言を呈した涼。

 それが俺の欠損を補う正しいものなのか、それとも二人そろって泥沼にはまりこんでいるのか、それさえ今の俺には判別が出来ない。

 茂に話したら励ましてくれるのか、それともあの時みたいに喧嘩するのか。
 要先輩に訊いたら教えてくれるのか、それとも間引かれるのか。

「…教えて…」

 馬鹿々々しい、死人に答えや救いを求めるなんて無意味な行為だ。
 それでも他の奴にそんな事を言えるわけがない。
 捨てられたくない。
 捨てたくない。
 助けたい。
 助けられたい。

 だけど助けてくれなんて言えない。

 頭がおかしくなっている。矛盾している。
 だから涼もきっとこの歪みにつられておかしくなっている。
 涼は冷静な奴だ。そして小瑠璃が前言ってたように少し優しい。
 最終試験の時も冷静で、俺が出来ない判断をして、俺を助けてくれた。
 だから俺がいざと言う時の涼の判断に口を出せるわけがない。
 だけど何かが違う気はする。

 あかあかと燃える焚火。
 昔涼と一緒に逆さづりされた時の夕方も、こんな風に明るかった。

 あれはもう二度と手に入らない。

 ここは自由だ。
 もうどこにだって行ける。
 何か別のものに憧れたって殴られない。

 それなのにこんなに惨めで無様で、昔の自分が蔑む人間になっている。
 昔の自分に誇れない自分になっている。

 多分、目が闇に慣れ過ぎたんだ。心も異常に慣れ過ぎた。
 ずっと洞窟の中を彷徨う夢を見ている。それがもう当たり前で、むしろ暗闇から出る方が怖い。
 出てしまったら外の光に殺される。
 見たくないものを見なければいけなくなる。
 どうしようもない自分を殺さなければならない。

 今の俺を殺すのは夕暮れに居る俺だ。
 だがまだ夕暮れに居る俺は、綺麗ごとばかりを並べているから先生に失格にされてしまう。
 それじゃあ意味がない。この世界で生きていけないんじゃ俺達の人生の意味がなくなってしまう。あいつらの犠牲も無駄にしてしまう。

 そんな事を悶々と考えていると、いつの間にか目を開けていた涼と目が合った。

「……交代の時間だ」

 少し驚いたように目を瞬かせてから、涼はそう言った。

「ああ」

 目を閉じると、焚火の弾ける音に混じり何かが遠くに聞こえた。
 波の音だ。

 いつか船で見た夕焼けが瞼の裏に浮かんできて、溶け込むように俺は眠りに落ちた。





【終】





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最終更新日  2019.01.02 03:46:54
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