Laub🍃

Laub🍃

2020.03.19
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カテゴリ: .1次小
私は生まれ落ちた頃から運命を定められていた。
 同時に、完全に望まれる姿には絶対になれないであろうことも知っていた。
 だからある日路地裏で彼女の姿を見た時に興奮し、あの人のようになりたいと願ったのだ。

 私以外にも彼女に惹かれた人は多かった。ゆえに泥まみれの彼女をみんなで祀り上げたのだ。
 王様へと。
 彼女は満更でもない様子ではにかみ、そうして次の戦地へと向かって行った。
 スラム街は彼女の覇権だった。
 スラム街こそが彼女の縄張りだった。
 彼女は賢く、有能で、慎重だった。


 彼女は彼女の国を捨てなかったのだ。

 だからこそ私も全てを捨てて彼女のもとへ走った。
 彼女についていくことで、これまで得られなかった何かが手に入れられるような気がしたのだ。
 見返りは何も要らなかった。
 ただ彼女がそこで輝いていればそれでよかったのだ。

 彼女は人見知りが激しく、鉄や硝煙や炎や血を何より愛した。
 温かい触れ合いを怖れた。自分が触れたら壊してしまうと思っていた。
 壊してもいいものをこそ愛していた。

 だからじきに私は彼女に愛されたいと願ってしまった。

 壊されてもいいものになりたかった。頑丈で、憎らしくて、彼女の倒すべき敵になることで彼女の唯一になりたかった。
 だが残念ながら先人が沢山そうしていた。

 彼女に歯向かう者たちがみな彼女の承認を、彼女の愛を、彼女の烈火を求めていることは明白だった。
 だから私は今日も彼女の後ろで静かに付き従っている。
 彼女の踏み荒らされなかった所を見付けて、そこに染み込み付け入る為に、ただ寄添っているのだ。





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最終更新日  2021.03.07 20:50:08
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