南人のページ

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2014.11.08
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「片想いの輪」

 A男は、希望にあふれて、その大学に入学した。子供の頃から入りたいと思っていた大学である。
 語学の授業が始まってすぐに、A男は、B奈のことが好きになった。いかにも育ちの良さそうな端正な顔立ちに、愛くるしい笑顔。フランス語の授業中はすっかりその横顔に見とれていて、語学が得意なはずの彼もさっぱり身につかないのであった。 

 しかし、家庭的で、趣味はスイーツ作りというこのB奈は、もろ体育会系肉食系男子、マッチョなラガーマン、C剛がお気に入りだった。
「美女と野獣かよ。」とA男は嘆いたものだった。
 良家の子女が集まるので有名な私立女子高出身の彼女にとって、こんなワイルドな男は強烈なカルチャーショックだったに違いない。

 そんなラグビー部の名フォワード、C剛は、これまた華奢なバレリーナのD乃に恋をしていた。


 しかしこれも悲しい片想いで、このD乃が好きなのは、オーケストラの最前列で、透き通るような音色を黙々と奏でるバイオリニストのE輔であった。
「将来のコンサート・マスターにプリマドンナときたか。かっこ良過ぎだよ。」とA男はあきらめに近い感覚で二人を評した。

 E輔は、同じ楽団でフルートを吹く、物静かなF美のことが好きなようだった。
「ははあ、いわゆる5メートル以内の恋ってやつだな。近場で済ませるとも言うけど。」 
 長時間にわたる楽団の練習中、ずっと一緒にいられるというのが、うらやましくもあった。

 しかしこのF美が好きなのは、これまた物静かな囲碁部のG吾であることがわかった。
「ずいぶん渋好みだな、というか地味だな。」


「地味とド派手のコントラスト!そのギャップがまたいいのかなあ。」とA男は他人事なので、勝手なことを言う。

 このアルペン・スキーヤーH里は、応援団の豪快なI之介が好きなようだった。大きな声で気合いを入れることにかけては天下一品間違いなしの男である。
「あのヨーロピアンが、これまた超日本的集団の男を選ぶとは。まあ、理屈じゃないから仕様がないか。」


「これまた近場だけど、目立つからなあ。競争も激しそうだよ、あの娘じゃ。」

 この派手なJ亜がほれこんだのが、陸上部で黙々と走る長距離ランナーのK馬である。この前も、25km先の別のキャンパスまで走って行って、そのまま折り返して来たと淡々と語っていた。
「地味と派手、ここには何か法則のようなものがあるのか、それは人類の永遠のテーマである。」

 そのK馬は、同じ陸上部で砲丸投げの優秀選手であるL子のことが好きなのであった。
「性格も体型も逆、う~ん、永遠のテーマだ。」

 筋肉質でがっしりとした体格、そして社交的でおおらかな性格で、自然とムードメーカーになっているL子は、サーファーのM輝にすっかり惚れ込んでいた。彼はその真っ黒に日焼けした肌とクールなマスクで、広く人気があった。
「確かにこういうタイプの女の子は、超イケメンに流れるという法則は明らかに存在する。」A男はいつの間にか評論家気取りである。

 その波乗り男、M輝は、英語劇のサークルで活躍する、エキゾチックな顔立ちのN緒に見とれていた。どうも長い間海外で暮らしていたそうで、発音もいわゆるネイティブなのであった。
「イケメン・サーファーにバイリンガルのヒロインか・・・、はいはい、好きにやってくれよ。」ひがみも入って素直ではない。

 そんなN緒が好きなのは、学園祭実行委員で、学内で既にやたら顔が広いO司であった。
「顔が広い人と付き合いたい、いわゆる上昇志向ってやつなのかな。」

 このO司は、ラクロスとボルダリングと英会話スクールと茶道教室で忙しいというP由のファンであった。とにかくいろんなことをやってみたい、身につけておきたいというタイプなのだった。最近は手話やボランティアにも興味を持っているという。
「余の辞書に暇という文字はない、なんて言いそうだな。」

 こんな活動的な才女、P由は、なぜかアルバイトばかりしている真面目な苦学生Q太のことが好きなのであった。
「これは意外だな。ひたむきにがんばっている男の姿に心を動かされるタイプなのか。」

 このQ太は、いつも雑誌から抜け出てきたようなファッションに身を包み、原色の欧州車を乗り回し、あちこちのクラブに出入りしているという、派手で有名なゴルフ部のR恵にあこがれていた。
「バランスが悪いというか・・・。しかしこれは、自分にないものにあこがれるという、人類の潜在的な欲望を現しているのかもしれないな。」

 このデーハーなR恵が好きなのは、サッカー部の瞬足ストライカー、S斗であった。一瞬のうちに相手ディフェンダーを置き去りにして弾丸シュートを蹴り込む姿は、多くの女性たちの間で話題になっていた。
「そりゃあ、オレから見たってカッコイイんだから、仕方ないよな。まあ、彼はポテンシャルはかなり高いんで、あまり調子に乗らずに、地道に努力を重ねて、もっと上のステージで活躍できるパワーとテクニック、そしてメンタルを身につけて欲しいもんだね。」今度はまるでスポーツ・ライターである。

 そのS斗が好きなのは、ロックバンドでギター片手に機関銃のように歌いまくる、男まさりのボーカリスト、T香だった。いつも着ている黒の革ジャンがいやに似合って見えるのだった。
「プロのサッカー選手で奥さんはモデルって結構多いんだけどなあ。もっとフェミニンなタイプが好きかと思えば、人生わからないもんだ。」まるで若年寄のA男はつぶやいた。一人でつぶやいている以上、人間何を言おうと勝手なのである。

 そして、このロックンローラーT香が好きなのが、なぜかマジック研究会のホープ、A男なのであった。
「しかし、なんでオレなんだろう。」A男は不思議に思った。

 そしてここに、20人の『片想いの輪』ができあがったのである。この輪を何かいい方向に変えられないものかと、A男はいつも考えていた。
 20人が一緒にお風呂に入って、洗い場で一つの大きな輪を作り、それぞれが好きな人の背中を流す。全員が目の前の大好きな人の背中を見ながら、ゴシゴシとタオルでこする。きっとみんなが幸せを実感することだろう。
 しかしどう考えても、20人の男女が風呂で一つの輪になるという設定はハードルが高過ぎる。場所も問題だが、そもそもその企画に何人が乗ってくれるだろうか。
「ハードルというより、棒高跳びのバーぐらい高いな。」
 そこで、A男はあるパーティーを考えつき、企画した。20人が座れる大きな丸テーブルを囲み、全員が右隣りに好きな人がいるように席順を設定した。そしてみんながこの企画に乗ってくれたのだった。
 パーティーの初めに、A男が挨拶した。
「皆さん、きょうはよく集まってくれました。感謝しています。片想いは苦しいものかも知れませんが、きょうはみんなが好きな人と隣同士に座って、会話を楽しんで、幸せを感じてくれると確信しています。」
 みんながうなずいて聞いてくれている。自然に大きな拍手が起きた。
「それでは、これからパーティーのルールを説明します。まずこれから30分は、女性とその右側の男性だけが話せる時間帯とします。つまり、女性は自分が好きな人とだけ30分話せるということです。それ以外の人に話しかけることは禁止します。その後、5分間の休憩をはさんで、逆にします。30分の間、今度は、女性とその左側の男性だけが話せるものとします。それではスタートして下さい!」
 パーティーは盛り上がった。2人ずつが向き合って、活発に会話をしている。特に女性たちは、普段片想いであまり取り合ってくれない相手と、1対1で30分間話ができるのだから、目が輝いていた。
 次の30分では、自分を好きな男性と向き合って、女性たちは女神のような包容力で話を聞き、打ち解けていくにつれて、第一印象や思い込みの壁が崩壊し、素直に本音で会話ができるようになっていった。
 そして、A男がそろそろ中締めをしようかと思い始めた頃、その『マジック』は起きた。
 賢明な女性たちは、思いを寄せてもなかなか振り向いてくれない男性よりも、片想いと知りながらも尚自分に思いを寄せ続けてくれている左隣の男性に応えてあげれば、すぐに相思相愛になれることに、今気付いたのだった。そしてここに、相思相愛の10組の幸せなカップルが誕生した。
 解散後、幸せな20人のメンバーは10方向に散って行った。

 A男と肩を並べて歩きながら、B奈が話しかけた。
「ねえねえ、きょう、実はA男君、みんなに催眠術かなんかかけてない?」
「いい質問ですねえ。」とA男は余裕の表情で答えた。どこかで聞いたようなセリフである。
「実はね、一度は考えたんだよ。けどやめたんだ。」A男はあっさりと言った。
「だってこれをやっちゃうとさ、醒めてきた時にあちこちで悲劇が起き始めるでしょ。それは良くない。今回のでき事は、すべて参加者の意思によって起こったことだから、みんな幸せが長続きすると思うよ。」
「へええ、一度は本当に考えたんだ。冗談で言っただけだったのに。」
 二人は顔を見合わせて笑った。
「ただね。」A男が続けた。
「今回のパーティーの企画そのものが、マジックのような効果を生んでしまったのかなって思って。」
 B奈は少し考えてから言った。
「けどそれは構わないと思う。みんなが幸せになるパーティーなら、多少魔術が効いていたっていいわよ。」
「そう言ってくれると安心するな。」と、A男はほっとしたように答えた。
 B奈は、微笑みながら、A男の眼を真っ直ぐ見つめてうなずいた。
「それとね。」と、B奈が少しためらいの表情を浮かべながら言い出した。
「きょうのパーティーで司会をしていたA男君、なかなかイケてたわよ。」





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Last updated  2014.11.08 12:54:25
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