思想悩労。

Jan 7, 2005
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決断までには

少しだけ時間を要した。










そして。

病院の前に、立っていた。

天気は曇り。

それも、グレイの重たい雲が空を覆う

暗い、暗い曇り。

その空の下、病院の入り口に立ち尽くす。





『嫌な予感』は、外れて欲しかった。

けれども脳裏にこびりついて

離れない。





― ひょっとして、彼女は。 ―





何度も頭の中に響く『予感』が

体を鎖で縛るように締め付けていく。

体が、重い。

思う様に動かない。

けれど。

こうして何時までも

此処に居る訳にもいかない。

意を決して図書室に、足を向けた。

大体、彼女が居る病室を知らない。

彼女と会うのは図書室でだけ。

― それも、きっかり3時に。





腕時計を見る。

3時15分。

いつもなら。

いつもならこの時間、彼女は

隅のパソコンの前に座り、

キーボードを叩いている。

この時間の彼女の指定席。

そこに真っ直ぐに向かった。










そこには、真っ暗なディスプレイがあるだけだった。










呆然と、図書室の隅に立つ。

図書室は、まだ夕方だというのに

人影は全くと言っていい程無く、

静寂が耳に痛いほど響く。





と、そこに。

あの、ベテラン看護師の姿が見えた。

彼女の担当は整形外科である。

女の子は恐らく内科の患者、

けれど、あの看護師は

この病院の情報通だと、入院中に聞かされていた。





― 彼女なら知っているかも知れない。 ―





足早に図書室の横を通り過ぎる看護師を追い

後ろから声を掛ける。





『あの、いつも図書室の、パソコンのところに居た女の子・・・』





言いかけた所で看護師は

振り向く。

最初は怪訝そうな顔をしていたが

すぐに思い出したらしい。

1ヶ月前に退院した患者を。





「あぁ。あなた、この間退院した・・。」


『あそこにいつも居た、女の子は、今・・・。』





彼女の言葉を遮り、問いただすかのように

詰め寄る。

すぐに彼女は困惑した表情を浮かべた。





「あの、女の子ね・・・。」





言い掛けて口をつぐむ。





― 守秘義務、ってやつか。 ―





すぐに理解した。

が、

引くことは出来ない。





『教えて、下さい。彼女は今・・・。』





彼女は明らかに戸惑っている。

当然だろう。

尋常ではない程、問い詰めているのだ。

必死に。

やがて、黙って下を向いていた彼女は

「取り敢えず、こっちへ。」と

先に歩き出した。





後について歩く。

幾つか角を曲がったところで

彼女は足を、止めた。






着いた先は、ICU―集中治療室。





― 何も、何も頭の中に入ってこない。

けれど、良い状況ではない。

それだけが分かった。





『あの子の、容態は。』





やっとの事でそれだけ口にする。

彼女は、また少し困惑した表情で

口をつぐんだが、

「本当は、部外者には言えないんだけど。」と前置きし、

声を潜めて話し出す。





― 心臓の、病。それも100万人に一人という難病。 ―



そして、



― 恐らく彼女が病院から出る事は、無い。 ―





真っ白になった頭の中に

入ってきた言葉は

この2つ、だった。





あの子は知っていたのか。

知らされていなかったのかも知れない。

けれど。

彼女はかなり強い感受性を持っている。

周りの大人たちの反応、

そして―

何より自分の体の反応、

それらで『理解』していたのではないか。





その時、

『元気な自分』を想像し、書き綴るときの

彼女の姿が浮かんだ。





鬼気迫るような、そんな印象さえ受ける

あの姿。





恐らく『理解』していたであろう彼女は

『元気な自分』を描く事で、

自分の体に巣食う病魔と戦える。

そう、思っていたのかも知れない。

だから、あんなにも強く、生き生きとした

― そう、まるで彼女の『生命』そのものが吹き込まれた

文章が生まれたのかも知れない。










― 彼女と、話す事は出来ますか? ―










それが、

看護師の説明後の沈黙を破る

最初の言葉だった。






to be continued >>>
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Last updated  Jan 9, 2005 03:50:04 AM
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