第６話ーあんたには負けないから！
「―この方角って・・」
あたしの故郷、春宵命ゾーンにつくわよね・・このままだと。
「・・面倒くさいかも」
「なぁ、シエル」
「何よ、デミアン」
「お前の故郷の春宵命ゾーンって、女ばっかって本当か？」
デミアンが大変わくわくした様子で聞いてきた。
「まあね・・。男子よりは女子の方が圧倒的に多いわね。・・ま、だから私もたまに外の世界に遊びに行くんだけど」
「！！やった～！」
「そんな事言って、フシールにばれても知らないわよ」
「大丈夫大丈夫」
「・・本当に知らないから」
シエルは呆れ顔だ。
ちょうどその時、フシールがデミアンの後ろから現れた。
「デミアン」
やけにゆっくりなその声にデミアンが身体を思いっきりびくつかせた。
「フ、フシール・・」
恐る恐る振り向いてみると、すばらしく穏やかな笑顔なフシールが立っていた。
「楽しそうね・・」
「は、はい」
―機関室。
「あれが、春宵命ゾーン？雲に囲まれてる島みたいなの」
タカトとスバルの目の前には、雲に囲まれ色とりどりの花々が咲く島みたいな物が見えていた。
「なんか、夢を見てるみたいだな」
「ええ。春宵命ゾーンは有名なリゾート地としても有名なんです」
来兎・兄がコントローラーを扱いながらタカト達に丁寧にそう言った。
「楽しそうですね、スバル様」
クロノが喫茶室から持ってきたココアを皆に配りながらニコニコと笑いながら言った。
「あ、ああ。そうだな」
・・何回見ても猫だよな・・。
「お嬢様、また来ましたわよ」
近づいてくる飛行艇を彩愛天使リオメイに仕える過去見雉が手を上げて言った。
「あら、本当」
黒く美しい髪を結い上げ、ティアラをつけ、高級な着物式の衣服に羽衣をつけた気の強そうな少女だ。
そして、タカト達が乗った飛行艇が港に着いたのを見るとリオメイは何を思ったのか駆けつけた。ちょうど、その瞬間、入り口が開いて、「い～ちばん！」と嬉しそうに叫ぶタカトが一番先に来た。
その後ろには、シエルの姿があった。
シエルとリオメイの目がばっちり合った。
「あ」
「あ」
「シエル、何動き止めてるんだよ。さっさと歩けよ」と、スバルが後ろからシエルを押した。
「あ、ごめん」
「お久しぶりですわね、シエルさん」
リオメイがニッコリと微笑みながら階段を下っているシエルに向けて言った。
「・・久しぶりね、リオメイ」
その瞬間、シエルとリオメイの2人の間に冷たい空気が流れた。
シエルとリオメイの対面にシエルの後ろにいたデミアンが身体をびくつかせた。
「デミアン様？」と、ひょことクロノがデミアンの顔を覗きこんだ。
「き、気のせいかな・・あの2人の周りから暗雲と雷が見えたような・・」
「―確かに、凄まじいものを感じるな」
「スバル」
「リオメイ、誰じゃ？」
アロハシャツを着て片手にウクレレを持った前・ヘッド・ゼウスがニコニコと笑いながら近づいてきた。
「ゼウス様」
ゼウス、と名を聞いてフシールの顔色が一気に変わった。
「ま、ま、まさか今のヘッド様の以前に長くヘッドに君臨したというスーパーゼウス様じゃ・・？」
フシールが手を震えさせながら目の前のゼウスに恐る恐る聞いてみた。聞かれたゼウスはフッと髪をかきあげ、
「・・そう、わしこそが全ての女性のあこがれ、永遠の美少年、スーパーゼウスじゃよ」
―うそくせ～・・と、デミアンとスバルとタカトが疑わしそうな白けた顔で心の中で同じ事を思った。
「何じゃ、その視線は！あっ、嘘だと思ってるじゃろ！本当だぞ！」
―アマテラス神殿―
霧に包まれた螺旋階段を先に歩く灯りを持った過去見雉とリオメイの後についていくようにタカト達は昇っていた。
「ここもあいかわらずエラそうに建ってるわね～」
「でも、何でこんなに霧が出てるんだろ。歩きにくくないか？」
「リオメイ様はアマテラス神殿の司祭様だからね。だから、神殿の皆の命やマガタマを管理する義務がある」
「・・ふーん。マガタマを守ってるのか～」と、タカトが軽く笑いながら言った。
「ん？」
フシールとスバルの後ろを歩くデミアンがふと横を見てみると霧が一瞬途切れ、稲妻を秘めている黒い雲の姿が見えた。
「・・いやだなぁ、雨を降るのかなぁ」
「何してるんだよ、デミアン。行くぞ」
「あ、ああ」
デミアンが視線をスバル達の方に戻した瞬間、その黒雲の姿がうっすらとなり姿が見えなくなった。
再び、そっちの方をデミアンが見ると黒雲の姿がなかった。
「？あれ？？」
「―それにしても、シエルさん」
「何よ」
「運命の戦使様とやらには会えまして？」
リオメイがニッコリと微笑みながら、嫌味交じりにシエルを見下ろしながら言ってきた。
「確か、背が高くてハンサムで紳士的な方とかいってらしたわよね」
「・・うっ」
なぜか、リオメイのその言葉がシエルにぐさりと刺さった。
「それで会えたんですの？」
「・・うっ！」
またまたぐさりとシエルの胸に刺さった。
「・・うう・・」
「あら、どうしましたの？まあ、私には必要ありませんけど♪」
くそぉ・・・～、あいっかわらず嫌味な女～・・。言い返せないのが悔しい～。
シエルがわなわなと身体を震えさせた。
「ああっ、何でよりによってこんな頼りなさそうで能天気なお子ちゃまがあたしの戦使さまなのよ～！！」
「・・それって、オレの事ですか？シエル」
「当たり前でしょ！！」
「・・・」
「リオメイ、あんたには負けないからね！」
「はいはい、負け惜しみですわね」
「ゼウスのおじさん、あの2人っていつもああなんですか？」と、スバルが聞いた。
「・・まあ、そうじゃな。大体、いつも喧嘩してるとこしかわしも見とらんし。本当に嫌い会ってるわけではないようだがナ」
「そうなんだ」
「さあ、着きましたわよ」
ガシャ！
アマテラス神殿の副司祭・玉宰スリプーがボロボロになってリオメイ達の前に倒れこんだ！
「スリプー！！」
「スリプー様！！」
「リオメイ様・・早く逃げて・・・」
「誰がこんな事を・・・、ひどい」
リオメイがそっとスリプーの身体に触れようとした瞬間、ボールがリオメイの横を跳ねて薄暗い回廊廊下から現れた角を生やした尖った耳の少年の手に吸いこむように乗った。
「以外とあっけなかったな。千卓鬼、僧時鬼」
『御意』
『御意』
「何者！！？」
「へえ、あんたが彩来天使リオメイか。結構、可愛い顔してるじゃん。あっ、そっちの女の子も」
「私は貴方に質問してるんです。スリプーに一体何を・・・！」
「そのジジイだけじゃなくて、あんたご自慢の符士達もやったよ。って言ってもスピリットだけだけど。―ついでに、このマガタマも貰おうと思ったんだけど強力な結界が張ってあったんでね。解き方教えてもらおうと思って♪」
「質問に答えなさい！」
「オレは、西煉魔ゼロス様だ。覚えておけよ」
ニコニコと笑いながら、タカト達に気付かれないように千卓鬼達に目配せをして、デミアンとスバルの周りだけ僧時鬼に呪符を張り、デミアンとスバルの身体をロープで縛った！
「「！？」」
「なっ！」
「おっと、近づくなよ！近づいた途端、お前の身体が地獄の雷で消し飛ぶぞ」
「・・くっ」
タカトとゼウスは踏み止まった。
『時空キャッチ・・小さめの次元の入り口なら放り込めます』
千卓鬼がカタカタと音を立てて、自分の回りにいろんな記号や数字を具現化していった。
「・・・何やってるんだ？あいつ」
「さあ・・」
「よーし、じゃあ、早速お前らを次元の穴に落とすぞ。お前ら、オレ達の計画にとっては邪魔な存在になるからな」
「はぁ？！何言ってるんだ？お前」
「・・デミアン、・・オレ、何か眠いや・・」
スバルが急にうつらうつらと眠そうになって、身体もだらけてきた。
ロープに染み込まれた眠り薬がスバルに効いてきたようだ。
「ス、スバル！？お、おい！」
『フィールド展開』
僧時鬼がそう言った瞬間、デミアンがさっき見た黒雲がデミアンとスバルの頭上に出てきて、雷の楔が二人の周りに突き刺さり、スバルとデミアンの足元が急に感覚がなくなり、床がなくなり次元の穴へと落とされていった・・ッ。
「う、うわああああああ！！」
「デミアン、スバル様！！！」
「「「スバル、デミアン！」」」
「スバル様！デミアン様！」
「なっ！！？」
「さーて、ゲームでも始めようかな」
ゼロスはボールを跳ねらせながらニッコリと微笑んだ。
「て、てめえ、スバルとデミアンをどこにやった！」
タカトが天星剣を取り出して、ゼロスに差し向けてゼウスと一緒に睨みながら言った。
「・・さあ、どこだろうね。あれ？ゼウスのおっさんもオレと戦う気なんだ」
「・・・っ」
「楽しくなりそうだ」
ゼロスが嬉々揚々と戦闘体勢を取りながら言った。
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