日本顎関節症リハビリ研究室 /より安定した快適咬合を求めて

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<歯周病は体の黄信号>






朝日新聞 2004年6月21日より


 岡山県の主婦、川上敏子さん(52)=仮名=が、「血糖値が高め」と指摘されたのは20年以上前。特に苦痛はなかったので、放っていた。40代後半になって体のだるさに耐えられず、岡山大医学部付属病院を受診した。

 「歯の具合はどうですか」。内科医から聞かれて驚いた。奥歯がぐらついて硬い肉が食べられなくなっていた。紹介された同大学歯学部付属病院で診てもらうと、重度の歯周病だった。

 口の中にはびこる細菌を抗生物質で減らし、手の施しようがないほど傷んだ奥歯を10本抜いた。歯肉(歯ぐき)を切開し、残った歯の根元をきれいにする手術を受けた。

 治療が終わると、血糖の傾向を示す検査値が改善し、健常な人に近づいた。今は服薬で血糖をコントロールし、2~3ヶ月に一度、歯周病の検診に通う。「歯の状態は良好で、気分もいい。もっと早く治療を受ければよかった」と振り返る。



 歯周病を治療することで、糖尿病の状態が改善する。そんな海外の研究が97年に発表された時、同病院で歯周病を担当する西村英紀・助教授は「まさか」と思った。でも、これまで同病院で十数人が川上さんと同様の経過をたどった。重い歯周病が糖尿病を悪化させでいたと考えられている。

 西村さんによると、歯周病を起こす細菌が血液中に入ることがきっかけになり、インスリンの働きを阻む物質が体内で増える。逆に、糖尿病があると歯周病にかかりやすいことは以前から知られていた。「歯周病は全身の病気とも深くかかわっている」。そんな考えが徐々に広まってきた。

 九州大の斎藤俊行講師らは、95年から福岡市健康づくりセンターが実施する健康診断に参加して、希望する受診者を対象に歯の様子を診ている。症例が増えるうち、肥満な人ほど歯周病になりやすいことが分かった。

 脂肪がたくさんあると、その組織から血中にある種の信号物質が流れる。それが歯肉での血液の流れを滞らせたり、歯を支える骨を壊れやすくしたりするらしい。この仕組みは糖尿病とも共通している。

 「初期の歯周病は痛みが伴わず、自覚しにくい。糖尿病も同じ。気づかないうちに進行し、お互いの病気の進行を促進させていることがある」。斎藤さんらはそう考えている。

 歯周病が心臓病を起こしやすくするともいわれる。口の中の細菌がもとで、心臓に栄養を送る血管を詰まらせてしまうのだという。最近は「歯周病が直接心臓病に結びつく確実な根拠はない」という説も出ていて、関係はまだよく分かっていない。ただ、心臓の手術を受ける場合は事前に歯周病の有無を調べ、術中に口の中の細菌が感染しないようにすることが、ほぼ常識になっている。

 歯周病があると、体の炎症を示すCRPというたんぱく質の値が高まることも分かってきた。 CRP値が高い状態が続くと動脈硬化を招き、心筋梗塞のリスクを高めると言われている。

 糖尿病や肥満、高血圧といった生活習慣病は、複数の病気が同時に起こることで心臓病や脳卒中のリスクを加速させる。歯周病もそうした生活習慣病の一つと考える専門家は多い。

 「歯周病の治療は糖尿病や心臓病を治すのが目的ではない。でも、ほかの病気を改善できる可能性もある。全身の健康を保つという観点から、歯周病にもっと関心を寄せてほしい」と、大阪大歯学部の村上伸也教授は話す。



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