りらっくママの日々

りらっくママの日々

2009年03月16日
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カテゴリ: オレとボク
今日の日記



「アイツとボク6」



ボクは、父親を駅まで車で送って行った後、
そのままバイト先へ行くことにした。
社員のオジさんが、今は車を使わないから、
いつでも駐車場を使っていいと言ってくれたからだ。

ボクは、雨が降った時の、あの蒸した電車内や、
人混みのベタベタした感じから開放されて、
ちょっと嬉しかった。

仕事をしながら、時々フジサワさんと目が合ったけど、
何となく、目をそらして、
何でもないことだと、自分に言い聞かせた。
フジサワさんも、何も思ってないようだった。

それでも、彼女が高い所にダンボールを載せようとした時は、
ボクはそのダンボールを代わって上に載せた。

「ありがとう!」

フジサワさんが笑顔で言う。

「いえ…。」

ボクは不自然にならないよう、ちょっと笑って、そのまま仕事に戻った。

そうして、帰る時間になった。
ボクは駐車場から車を出して、大型レンタルショップへCDを返しに行った。

いつもなら、バイト帰りに駅までの通り道にある店だったので、
今日は歩かなくて済んでラッキーだったな。
と、ぼくは思った。
それ位、雨はひどくなっていたし、
駅までの道は結構遠い。

返却して、入り口で傘を差そうとしたら、
ボクの隣で傘を差そうとしているTシャツにジーパンの女性が、
フジサワさんだと言うことに気がついた。

「あっ。」
気付いた彼女が言った。

「レンタルですか?」
と、ボクが言った。

こんなところで会えると思っていなかったので、
驚いていたのに、ボクは自分が内心喜んでいるのがわかった。

「ううん、本屋に。」

彼女は雑誌らしき大きさの袋を持っていた。
1階の本屋へ寄っていたらしい。

「雨、ひどくなっちゃったね。」

彼女は傘を差して、行こうとした。

「あの…」

彼女がボクを見る。

「ぼく、車なんです。」

彼女は、駅までいっしょだと思っていたらしい。

「あ、そうなんだ?」

彼女の顔がちょっと曇った気がした。
でも、すぐに笑顔になって言った。

「それじゃあね。」

「良かったら、乗っていきませんか?」

ボクは咄嗟に言っていた。

「…いいの?」

彼女が尋ねる。
雨がザバザバ降ってくる。

「あ、でも、初心者ですけど。」

ボクは何を言っているんだろう?
緊張からか、自分でも余計なことを言っているな、と思った。
誘ってみたくせに、乗せるのをためらうようなことを言ったり。

彼女は笑顔になった。

「ふふ、怖いなぁ!
でも、ありがたいから、お言葉に甘えちゃうね。」

彼女は、笑顔でボクについてきて、車に乗った。

雨のせいで体がベタベタしていた。
ボクはエンジンをかける。
ちょっと生ぬるくなった風が出た後、クーラーの風は冷たくなっていった。
車内には、ボクの好きな曲がかかっている。
昨日ダビングした曲だ。

二人だけになったことに、ボクは緊張していた。
出発しようと思った時に彼女が言った。

「アオくん、シートベルトが変なんだけど。
引っ張っても、伸びない。」

「え?!」

「ほら。」

フジサワさんが肩のシートベルトを引っ張るが、全く動かないようだ。
ボクは、ギアをパーキングにして、サイドブレーキをかけた。

「ちょっと…いいですか?」

ボクは、彼女の上から手を伸ばして、シートベルトを引いてみた。
でも、ベルトはロックされているのか、全く動かない。

ボクの左手が、彼女の肩越しの座席を持ち、
右手がシートベルトを引っ張った。
目の前で彼女が小さくなっている。

ボクは彼女に触れないようにしていた。
でも、彼女の息遣いが感じられて、
すぐ目の前にいて、
ボクのことをジッと見ているのがわかった。

「女の手握った。」

イグチくんの声が聞こえる。

「アオヤン、誘惑に負けんなよ!」

赤木くんの声が聞こえる。

ヤバい。このままだと…。

理性が利かなくなりそうで、ボクは焦った。
焦れば焦るほど、ロックがはずれないような気がした。
腕が疲れてきた。
汗が出てきた。

「私、降りようか?」

ボクは、乗ってから初めて彼女の顔を見た。
彼女がボクの目を見ていた。

雨の音が聞こえる。
窓ガラスは、ボクの熱気で曇ってしまっていた。

「いや、ちょっと待って下さい。」

体勢を立て直そうとして、ボクは運転席へ戻ろうとした。
が、疲れた左手がズルりと滑った。

「うわっ!」

ボクは彼女の上に崩れ落ちそうになった。
それを咄嗟に右手が支えた。
彼女の顔が目の前にあった。

「す、すいません!」

慌てて体の距離を離した。

「…ううん、慌てなくて大丈夫だから。」
と、彼女が軽く笑って言った。

彼女と目が合った。
笑顔が消えた。

彼女がジッとぼくを見ていた。
ボクも彼女をジッと見ていた。

吸い込まれるように、ボクは彼女の唇に、自分の唇を押し当てていた。

雨の音が叩きつけるように車の上で鳴っていた。



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最終更新日  2010年03月27日 15時43分41秒
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