りらっくママの日々

りらっくママの日々

2009年07月29日
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カテゴリ: ある女の話:ユナ
今日の日記



<ユナ24>




「ここって、スッキリするんだよ!」

「女がバッティングセンター行くかなぁ?」

そう言いながらもヨシカワは、楽しそうにボールを打った。

「いつもこんなとこ来てんの?」

「うん。体動かしたくて!帰りに時々ね。」

私もバットを振る。
当たった!
気持ちいい!

「ユナちゃんは不健全にバーで飲んでばっかいないんだ?
パチンコにも行かないんだ?
コンパにも?」

「これが一番スッキリしたんだもん。
お金も無いから時々ですよ。
ヨシカワさんの店でだって、カクテル一杯とご飯だけでしょう?
主婦のささやかな楽しみ!」

今度は空振り。次は当たる。
やるねぇ~。
ヨシカワは、私を見て笑う。

「じゃあさ、今日は二人でできることしようよ。
アレはどう?」

ヨシカワは卓球の看板を指した。


その日は学生時代に返ったみたいだった。
卓球をして、疲れたのに、まだ帰りたくなくてカラオケをした。
大きな声を出して、
歌ってるんだか叫んでるんだか。

ゲラゲラ笑った。
いいじゃん、こんなんで。
変に体を求めるより、よっぽどいい。

性欲はスポーツで発散しろ!
先生が男子に職員室で言ってたっけ。
健全だな。
そう思った。
でも可笑しい。
それでいいんだと思ったんだから。

この男の腕に抱かれたいと思いながらも、
ただ、笑ってる顔が見れたらそれでいいなんて、
私は嘘つきなのかもしれない。
でも、嘘を突き通すしかない。

こうしていっしょに笑えるだけで、
私は嬉しいんだから。

楽しかった。
とても。
今日だけは、いいよね。

もうすぐ終電だった。

「ユナちゃん、今日はありがとな。」

ヨシカワが私を見ていた。
優しい声。穏やかな視線。
手を差し出してきた。
私も手を出して握手した。

温かい手のぬくもりが伝わってきて、
胸がしめつけられた。
体がジワッと痺れた気がした。

「さよなら。また来いよ。」

「うん。またね。」

駅前の道で手を振って別れる。

これでいい。
これで良かったんだと思う。
ヨシカワの手の感触が私の手に残る。

触れた右手を眺めて、左手で包む。

これから先も、私のヨシカワへの想いを出しちゃいけない。
悟られてはいけない。
そう思った。
今は側にいたい。
私がいられるだけ。

気持ちに気付いた日。
気持ちに封印した日。


次に行った時は、ヨシカワはいつものように元気になっていた。
私は彼を笑わせたくて、
面白そうな話をなるべく沢山仕入れておいた。

私が話す。
ヨシカワが笑う。
彼の笑顔をずっと見ていたい。
そんなこと思っちゃいけないのかな?


私の誕生日前の休日。
サトシと私はホテルのレストランで夕食を食べることになっていた。

予約の電話を入れた時、
「どなたのお誕生日ですか?」と聞かれたので、
「私です。」
と答えた。
電話の向こう側で少し苦笑いがあった。
「かしこまりました。」

そうよね、自分の誕生日を自分で予約…。
我ながらちょっと空しくなった。
サトシにやってもらえば良かったと後悔した。

ホテルに行こうとしたら、道に迷った。
もうタクシーで行っちゃおうってことになって、
レストランにお詫びの電話をかけると、

「さっきから待ってるお客様がいらっしゃるんで、
空いてる席を見て文句を言われてるんです。
早く来て下さい。」
と言われた。
道に迷って、すみません…と謝る。

自分の誕生日の祝いに、何やってるんだろう私は?と思った。
ようやく店に着くと、
「ああ良かったです。
来ないかと思って、他のお客様に座ってもらうところでした。」
と真っ先に言われた。

申し訳ありませんでした。と、またお詫びをした。
疲れた。
もうこの店には来ないだろうと思った。
サトシはワインがバースデーサービスでもらえたから、
そんなに怒らないでいいじゃん、楽しもうよ。
と言っている。

道に迷って遅れたのが悪いのかもしれないけど、
怒りっぽくて、嫌な女になったように思った。
せっかくの誕生日だからと、無理に忘れる努力をした。
美味しい。
それでも、何だか楽しくなかった。

サトシが少しでも、店の言い方にいっしょに怒ってくれていたら、
そうじゃなくても、電話をサトシがかけて対応してくれていたら、
私の気持ちも少しは和らいだんだけどな。
そんなことを思った。


本当の誕生日は平日。
サトシはすっかり忘れているらしくて、
いつも通りに出かけていった。

夜に母から電話が来た。
今日は私の誕生日だったんだな。
母に言われて、自分でも忘れてたことに気がついた。

「もう子供じゃないよ~。
でも嬉しいな。ありがとう。」

「サトシさんいないの?大丈夫?」
母が心配そうに言った。

「うん、大丈夫よ。忙しいの。」

「まあ、仕事があるうちが花だからね。」

母と電話を終えると、サトシがしばらくしてから帰ってきた。
そう言えば、今日ユナの誕生日だったね。
休みに誕生日したから忘れてたな。
そうでしょ?私もなのよ。
そしていつも通りに一日が終わった。


週末にヨシカワの店に行くと、
カクテルといっしょに包み紙が渡された。

「誕生日だったでしょ?水曜。」

私は驚いていた。
雑談に紛れてそんな話をしたかもしれないけど、
まさかヨシカワが覚えていたとは…。
中を開けると、CDが入っていた。

「この曲が好きだって言ってたでしょ?
俺からささやかだけど、気持ちだけ。」

多分今店でかかっている曲が入ってるらしい。
それから食事の最後に、
コーヒーとロウソクを立てた小さいケーキを出してくれた。

「ありがとう。」

参った…。
気付くと涙が出てしまったらしい。
慌ててハンカチで拭って笑顔を作った。

心配したヨシカワが、見なかったフリをして、
同じように笑顔を作ってくれた。

私は幸せだ。
私の誕生日を覚えていてくれた人がいる。

心の全てを持っていかれた気がした。
この人が好き。
一体この気持ちをどうしたらいい…。

それでもこのまま、こうして過ごせるといいな…。
そう思っていた。
いつまでも平和に。


でも、数ヶ月して、
無常な言葉がサトシの口から出た。

「ユナ、来月転勤になった。
今度はそんなに遠くないよ。
あ~、ようやく慣れたのに、また引越しかよ。
めんどうだな。」

私の人生はサトシが握っている。

それが結婚なんだと私は思った。





続きはまた明日

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最終更新日  2009年07月29日 20時37分23秒
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