りらっくママの日々

りらっくママの日々

2009年08月12日
XML
カテゴリ: ある女の話:ユナ
今日の日記



<ユナ35>




終点まで行けば、ヨシカワの住む駅に行く電車に乗り換えができる。
終電ギリギリで乗り換えることができた。

でも、着くまでは、ヨシカワに会うつもりでいたのに、
駅に近づくにしたがって、
だんだんそんな勇気が無くなっていった。

今更ヨシカワに会ったところで、
こういうのって、かなり重いんじゃないかな?
大体、何て言ったらいいんだろう…。

それとアオくんのことがひっかかっていた。
アオくんと体の関係を持ってしまった事実が、
ヨシカワに会いに行くことのブレーキになっていた部分もある。
それに、そんなことしていた私は、
きっと軽蔑されるに違いないだろう…。


「スパ健康ランド、最終便でーす!
乗るお客様がいらっしゃいましたら、どうぞお早めに御乗車下さい!
無料送迎バスですー!」

ロータリーで、健康ランドに行く客がバスに乗っていくのが見えた。
一度行ったことがある。
銭湯がもっと温泉アミューズメントパークみたいになった雰囲気の場所。
確か、朝までやっていたはずだ。
私はそのバスに乗ることにした。


「オマエ今どこにいるんだよ?」
健康ランドに着いてすぐに電話を入れると、
サトシが不機嫌そうに電話に出た。

「友達のとこ。」

「友達って誰?男?」

「誰か聞いてわかるの?」

サトシが黙った。

「しばらく帰らないから。」

「どういうつもりだよ?」

「離婚したいの。」

また黙る。
私も黙る。

「帰ってきて話し合おうよ。」

「この前言ったけど。
聞いてくれなかったよね。」

「アレは出かける前だったから。」

「その後も、その話は出さないで避けてたよね。」

また黙る。
何か考えてくれてるのか…。

「本気じゃないと思ったから…」

「それって、何もしなければ物事が解決するってことだよね?
もう嫌なの。
私が勝手に怒ってるみたいなのが。
嵐が過ぎるの待ってるみたいで。」

「別にそんなこと思ってないけど…。
もういいよ、勝手にすれば?」

「うん。勝手にするよ。」

「正月はどうすんの?」

「どうもしないよ。」

帰ってくると思ってるのか?
この状況で帰ってきて、どうしようって言うんだろう。

「俺、実家に行くわ。」

「うん。わかった。」

しばらくまた沈黙。

「離婚して」

「勝手に言ってろ。」

ガチャっと電話が切れた。
思い切り受話器を叩きつけたのだろう。耳が痛い。

受付で手続きをして、
更衣室に荷物を入れて、
美肌効果のある風呂を選んで入った。

大きな湯船に入るのは久しぶり。
家族連れが楽しそうに湯船に浸かってる。
子供が熱いと泣き出した。

こんな遅い時間なのに、
来てる人がたくさんいるんだな…って思った。

温まってから健康センターの中を散策すると、
ゲームコーナーがあり、隣の畳の部屋で雑魚寝してる人がいる。
シアタールームでは映画なんてやってなくて、
沢山の人がリクライニングチェアで寝ていた。
私もここで眠ろうと思った。
薄い毛布をかけて横になる。

最悪の年越しになりそうだと思った。
明日からどうしようか…。
幸い、年末で銀行が混むだろうし、
使えなくなるだろうと思っていたから、
お金だけはおろしてあった。
カードも使える。

明日から駅前のビジネスホテルにでも泊まるか、
ここでずっと過ごすか…。

私ってこんなことできたんだな。
もうそう思うのは、この街でパチンコした時からずっとだったけど。
あの時から私の何かは麻痺したままなのかもしれない。

何でもいいや。
なるようにしかならないし。
不安だけど、
怖いけど、
どうなるかわからないけど。

目を無理やりつぶっていたら眠っていたらしい、
誰かが私の肩を揺り動かしたので、
目が覚めた。

「おい!おい!」

全く知らない男の顔が目の前にあった。
驚きのあまり声が出ない。

「あ!すみません!間違えました!」

男は自分の妻と間違えでもしたのか、
さっさと他の辺りを探し始めた。

ようやく妻をみつけたらしく、
間違えちゃってさ~と報告して笑っている。

心臓がドクドクいってる。
怖い。
やっぱり何だか怖い。
一人でここにいることを誰も知らない。
何かあっても、
誰も私を助けてくれないんだ。

それだけじゃない。

私には、
こんな怖いことがあったんだって、
報告できる人がいないんだ。

独りだと思った。
これが独りになることなんだって。

間違えた男が羨ましかった。
失敗したことを報告できる人がいる。


それでもサトシのところに帰る気にはならなかった。
館内放送が入って、
もうすぐ清掃で、一度閉館になると告げていた。

出ると朝日が眩しい。
ここから出勤するらしいサラリーマンがいた。
今日で仕事納めのはず。
サトシは会社に行ったんだろうか…。


24時間営業のファーストフードに入って朝食にした。
何があってもオナカだけは減るんだな。

ここに泊まるって手もあるか。
でも、寝てる間に貴重品が無くなったらマズいしな。

そんなことを考えてたら可笑しくなってきた。
やっぱり私は帰る気なんて、さらさら無いんだ。


店から出てぼんやり考えていたら、
携帯が鳴った。

「はい。」

「俺だけど。」

「うん。」

サトシだった。
後ろから何も聞こえない。
家なのか会社なのか。

「本気で言ってるのか?」

「うん。」

「好きなヤツでもいんの?
そいつとやってくワケ?」

「そういうワケじゃない。」

好きな人がいるって言ったら離婚してくれるんだろうか?
だってそんな約束してないし。
どうなるかなんてわからない。

それに、ヨシカワは確かにきっかけになったかもしれないけど、
それが全てってワケじゃない。

もしも会ったとしても拒まれるかもしれない。
でももういいの。
誰もいなくなっても。

あの淋しい家に帰らなくて済むなら、
私は何だってする。
何だってできる気がする。

あの家にいたって、
私は独りだったんだもの。

「我慢しようよ。」

サトシが言った。

「何で?何で我慢しなきゃいけないの?」

「だって結婚ってそういう簡単なものじゃないだろ?」

私もそう思ってたよ。
だから迷った。

でも、こんなこと続けてて、何があるんだろ?
もっと早く、あっさりやめちゃえば良かったなんて、
今は思っているのに。

「ユナの話、ちゃんと聞くから…。」

「もう、聞かなくてもいいよ。
もう話したいって思うことが無いの。
して欲しいって思うことが無いの。」

サトシが黙った。

「もうサトシといっしょにいても、
何も求めるものが無いの。」

サトシはため息をついた。

「残酷なこと言うね…ユナは。」

「ごめんね。」

「謝るなよ。女が謝る時にいいことなんか何もねえよ。」

以前はサトシがそんなこと言うと、
他の女の人の影を感じて、
悲しくなったり、ヤキモチ焼いたりしたのにな…。

今は何も感じない。

サトシの女性遍歴がどうだったかなんて、もうどうでもいい。
もうダメなんだと一層感じた。

「サトシは幸せなの?」

返事が無い。
私は返事を待つ。

「考えてみる。」

電話が切れた。

ため息。

少なくとも、私は幸せじゃないんだろうな…。
そして、もうサトシを幸せにはできないだろう。

ごめんね。こんな女で。

疲れが襲ってきた。
もう後戻りできないと思った。

でも、
何とかなる。
何とかする。

どうなるのか、やってみるしかないから。









続きはまた明日

前の話を読む

目次






お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2009年08月12日 20時02分14秒
コメント(2) | コメントを書く


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

PR

プロフィール

りらっくままハッシー!^o^

りらっくままハッシー!^o^

カレンダー

コメント新着

りらっくままハッシー!^o^ @ Re[2]:アカデミー賞授賞式(03/11) ゆうけんのままさんへ 一年ぶりになってし…

バックナンバー

2025年11月

キーワードサーチ

▼キーワード検索


© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: