りらっくママの日々

りらっくママの日々

2009年08月17日
XML
カテゴリ: ある女の話:ユナ
今日の日記



<ユナ40>



私はその日、客がもうランチに来ないだろうってことで、
先にヨシカワの家に戻った。
ちょうど宅急便が届いて受け取る。

コーヒー豆だった。
ヨシカワが好んで通販で取り寄せている。
その豆を売ってる本店がある所へ、旅行したいねって話していた。
ちょっとウキウキしてしまう。

ヨシカワは、ランチの客がギリギリ入ってしまったのかもしれない。
なかなか上に上がって来ない。

見に行こうかと思ったけど、
私はちょっとイタズラ心が働いて、
押入れの中に入ってみた。

この前、買い物から帰ってきたらヨシカワがいなくて、
まだ戻ってないのかと思ったら、
隠れてて、いきなり驚かされたから。
今度はこっちが脅かしてやろうと思っていた。

下駄箱の靴も隠す。
玄関が開く音がした。

「あれ?戻ってると思ったんだけど…」

ヨシカワの声が聞こえた。
よし!

脅かそうとワクワクしていたら、
聞いたことのある声が聞こえた。

「お邪魔します…」

サトシだ。

何となく、出るに出られなくなってしまった。

そこにどうぞ。
コレ飲みますか?
いえ、いいです、すぐに帰りますから。
そうですか。

ヨシカワが台所で冷蔵庫を開けたり、
お湯を沸かしてる音が聞こえた。

二人は何もしゃべらずに、私を待っているようだった。
どうしよう…。

沈黙を破ったのはサトシだった。

「あの…、
ヨシカワさんはこう言っちゃ何ですけど、
モテそうですよね。
どうしてユナなんですか?」

コーヒーの香りがした。
ヨシカワがコーヒーを入れて、運んできたらしい。
机に何か置く音がした。

「貴方ならもっといい人いるでしょう?」

私は少し隙間から二人を覗いた。

「そうでも無いですよ。
俺バツ一だし。」

ヨシカワがコーヒーを飲む。
しばらく考えているようだった。

「俺が彼女と初めて会ったのはパチンコ屋なんですけどね、」

「え?パチンコ?ユナが?」

「そう。初めてだったらしくて、見てて危なっかしかったんですよ。
でね、ちょうど忘れ物してったから、
渡すついでに声かけたんですよ。
俺ちょうどその頃ムシャクシャしてて、
付いてくりゃラッキーって感じで。」

ああ、そうだったんだ?
と私は思った。
同時に、そんなこと思ってたんだ…
って。

「正直言えば、人妻のくせに付いてくるなんて、
バカじゃないかと思いましたよ。
俺ね、その頃別居してたんですよ。
カミサン出てっちゃって。
だから、旦那さんには悪いけど、
上手いこと言って、やっちゃおうかって思ってた。
来る位だから簡単にできるだろうって。」

ヨシカワの内心をこんな形で聞くことになるとは思わなかった。
鼓動が大きくなっていくのがわかった。

「でもね、
話してたら、彼女面白くてね。
そんな気無くなっちゃった。
どうも危なっかしいから、店の名刺渡してね、
淋しくなったら、うちの店で飯食べるように言いました。
で、仕事の帰り週に一度位かな、
食べにきてくれるようになって…」

「それで貴方と付き合うようになったんですか?」

「いや、ならなかった。
正直、妹が、変な方向に走らないようにしたいな~
程度な気持ちだったんですよ。
でも会ってるうちに、何だかそうでも無いような気になってきてたけど。」

サトシがやっぱりコレもらいますって缶ビールを開けた。
ヨシカワも開けて、
二人で飲み始めた。

「彼女の話を聞いているうちに、
前のカミサンの気持ちが何となくわかってきたような気がして。
あのね、
貴方が飲めないくせに、
楽しそうに飲んでるのを邪魔したくないから、
淋しいって言えないって言ってましたよ。
まあ、そんなの聞いてて、
そのうち、カミサンと、ちゃんと離婚することになってね。
届出したって話したら、ユナがね、
バッティングセンターに連れてってくれました。」

「バッティングセンター?」

「そう。
何か、仕事帰りに時々来て、一人で球打ってスカッとして帰るんだって。
カラオケで叫んで、楽しそうだったし楽しかった。
そんなことして慰めてもらったのが、一番嬉しかったって言うか…。

正直ね、誘ってくる女は何人かいて、
ほら、女使ってね。
まあ、こっちは独り身だから、結構寝たんだけど、
そういうの空しくて。

そのうち、彼女が飯に来るのだけが楽しみになってて。
彼女が笑い話沢山してくれるんですよ。
元気になるように~って感じで。
食べに来るのだけを楽しみにしてたら、
そしたら、引越しちゃった。」

「それで、引越してから付き合ったんですか?
俺、何となく、誰かと付き合ってるんじゃないかって思ってたけど。」

「いや、会ってなかったよ。
来たのは年末だった。
結構近くに住んでたのも知らなかった。
でもさ、
そう思ったなら、何で彼女に聞かなかったの?」

サトシはビールをグッと飲んだ。
何か考えてるみたいだった。

サトシは気付いてたんだ…?
そのことも私の心を突き刺したけど、
それだけじゃなく、
アオくんとのことを知ったヨシカワが私から離れるかもしれないと思うと、
心臓を鷲づかみにされたようだった。
さっきから鼓動も激しい。

「ユナは淋しがりってやつだと思います。
俺は、最初の頃は、それがカワイイって思ってました。
だけど、結婚してくうちにウザったくなってきた。
自分で自分の世界を持ってくれって思ってた。
正直、
飯作って待ってられたりするのも、煩わしくなって。

俺が新しい職場に慣れなくて苦労してた時も、
呑気にテレビ見て待ってる姿が無性にハラが立ってきて。
だんだん、自分のこと話すのが嫌になってきた。
会社の人たちと騒いでる方が楽しかった。
愚痴言っちゃうと止まらなくなりそうだったし…。
アイツが悪いワケじゃないけど、責めちゃいそうで。
そういうの、イヤだった。

俺の家、両親が離婚してるんですよ。
熟年離婚ってやつ。
ちゃんと恋愛だったんですけど、
だんだんお互いしゃべらないようになって…。
親父は好きな女ができて、出て行きました。

だから、俺は恋愛はいつか冷めるものだって思ってたんですよ。
人は独りなんだって。
だから、結婚ってこんなものだろうって。
俺そんなだったし、
他の男で淋しさ埋めたとしても、
最後には俺のとこに戻ってくればいいって思ってました。」

「それ、彼女に言えば良かったんじゃない?」

「言ったって、わからないと思いましたよ。
アイツは淋しがりだから。
言ったところで、俺が埋められるワケじゃないし。」

「確かに淋しがり屋かもしれないけど、
ちゃんと戻ろうとしてたよ。」

「でももう、戻ろうとしてないじゃないですか。」

二人はその後何も言えないようだった。
何か考えてるのか。
サトシはヨシカワを睨んでいて、
ヨシカワもサトシから目を逸らさなかった。

「俺も彼女を忘れようと思ってたよ。
何人かの女と寝てみたしね。
でも、忘れられなかった。
コレってちゃんと付き合わなかったからかな?
でもね、
もう来たから帰さないと思ったんだよ。
正直、彼女がいない生活なんて、もう考えられない。
貴方には悪いけど。」

ヨシカワはジッとサトシを見ていた。
サトシは俯いて、大きくため息をついた。

「コレ…」
サトシは便箋を机の上に出した。

「貴方に頼むのは申し訳ないけど、アイツに渡して下さい。
俺は何にもできなかったから。」

「自分で渡せばいいじゃない?」

「ホントは、会って、連れ戻そうか迷ってました。
でも…。」

「でも?」

サトシは机をジッと見ていた。
多分机の上にある便箋を。

「もういいや。」

サトシは立ち上がった。

「お邪魔しました。
話したことでスッキリしました。」

「ホントにいいの?会わなくて。」

「いいです。
会うとカッコ悪い事しちゃいそうだし。」

「そんなにカッコつけてると、後でくるよ。俺みたいに。
しんどくない?」

「そうかもしれないですね。
でも、最後くらいカッコつけたいんですよ。
貴方、イヤな人ですね。
さっさと帰してくれればいいのに。」

「よく言われるよ。」

玄関で、ムカつくけど、美味しいコーヒーでしたって声がした。
でしょ?アレグロって店知ってる?
ってヨシカワが馴れ馴れしく言う。
貴方、変な人ですね。
二度と会いたくないです、って言う声は、
笑っていたけど、どことなく淋しそうだった。

ドアを閉める音が聞こえた。
ヨシカワの大きなため息が聞こえた。

部屋やトイレをバタバタ開ける音が聞こえる。
そして、押入れを開けて
「みーつけた。」
と言った。

「オマエ、バカじゃないの?
ずっとここで聞いてたワケ?」

「だって…
出るに出られなくなっちゃって…」

「どうする?
追いかけるなら今だけど。」

私は首を振った。

ヨシカワはティッシュを持ってきて、
私の顔を拭った。

「あ~あ、べっぴんさんが台無し。」

涙が後から後から流れてくる。

「いい男じゃないの?
ちゃんと愛されてたんだね?
ムカつくよ。」

ホントにムカついてるのかな。
でも、穏やかにそう言ってるのが、
本気で怒ってるようで怖い。

ヨシカワが私の体をズルズルと押入れから出した。

「ほら、これ中見てみろ」

私は涙を拭いながら、封筒を開けてみた。
中には離婚届が入っていた。


  俺が幸せにしてやれなくてゴメン。


そう一言だけ手紙が入っていた。

「追いかけなくていいの?」

私は頷いて、ヨシカワに抱きついた。
ヨシカワが私を抱き締めて、私がヨシカワを抱き締め返す。

ごめんなさい。
ごめんなさい。

できれば神様、

できることなら、

もう誰も傷つけたりしないで済みますように。

もう、悲しい想いを誰もしないでに済みますように。


離婚届を出した後、私はサトシにショートメールを打った。


  ありがとう。
  どうか幸せになって下さい。


半年待って、
私はヨシカワと結婚した。

同じ間違いを繰り返すかもしれない。

それでも、

それはその時考えよう。

何もしないよりいいよ。

って、
ヨシカワが言った。










次が最終回です

前の話を読む

目次






お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2009年08月17日 20時33分48秒
コメント(2) | コメントを書く


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

PR

×

プロフィール

りらっくままハッシー!^o^

りらっくままハッシー!^o^

カレンダー

コメント新着

りらっくままハッシー!^o^ @ Re[2]:アカデミー賞授賞式(03/11) ゆうけんのままさんへ 一年ぶりになってし…

バックナンバー

2026年09月

キーワードサーチ

▼キーワード検索


© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: