ひのあたる場所

ひのあたる場所

ある写真屋の日記


 昨日、私とマリーは汽車にゆられて半日、そこから馬車で半日かかってここまで来た。マリーの家族は私を温かく迎えてくれたが、汽車の煙がひどかったのと、荷馬車が丁寧に道の凹凸を拾ってくれたおかげですっかり疲れてしまっていたので、夕食もほとんど食べないままに床についてしまった。
 マリーにとっては久々の故郷、結婚して私の仕事を手伝ってくれるといった8年前のあの日から、何ひとつ変わっていない。変わったことといえば、まだほんの子供だったマリーの妹やその仲間たちが、今はもう立派な青年になったということだろうか。
「メアリも幸せになれるといいわね」
 小さな教会へ向かう道で、ふと振り返ったマリーがそう言った。
「ああ、なれるさ」
 私は重いカメラケースを背負い直しながら答えた。
「あの子の晴れの舞台なんだから、きれいに撮ってあげてね」
 突然の強い風にふかれて飛びそうになった帽子をおさえて笑いながら、そうつけ加えた。
「さあ、少し急ごう。遅れてしまうよ」

 式は、小さいながらも幸せに満ちたいいものだった。
 私はその幸せな姿を、フィルムに記録しつづけた。
 式も終わり、夕暮れ間近になった頃には参列者たちも帰り支度をはじめた。
 また強い風が吹いた。
 その風に乗って、今メアリに別れを告げて帰ろうとしている青年たちの声が聞こえてきた。
「とうとうメアリを取られちまったな、リュック」
「ジャン、お前だって狙ってたんだろ」
 そう言いながら前を歩く青年がまゆを上げた。
「まぁ、しかたないさ、メアリにはあいつがお似合いだよ」
「ブラン、お前にはアンナがいるもんな」
 私はあわてて彼らにカメラを向けた。
「おうい、君たち!」
 もしかしたら8年前にもあんな会話がされていたのだろうか。そんなことを考えながら、振り向いた彼らにピントを合わせてシャッターを切った。

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