にのねぬな

にのねぬな

心の中のカジャール



 カジャールは、1つのボナン(ふたをしたおなべのような形の楽器)を1本の
ばちでたたきテンポをきざみます。メトロノームに似ていますが、メトロノームがずーっと一定の速度でテンポをきざむのに対し、カジャールはクンダンの示す速度に従い、たたく速さが一曲のなかでも変化します。カジャールは、他の演奏者からも頼りにされたり、踊り手さんもカジャールの音をよく聞いたりするので、簡単そうで実はとてもむずかしいパート。
 こぶの横を左手の手のひらで押さえながら、右手のばちの白糸が巻いてある部分のちょうど真中くらいの位置でこぶをたたきます。ばちは、水平に、こぶの頂点にあたるようにたたくと、いい音がします。左手の押さえる位置や押さえる強さによって、いろんな音がでますが、”ガーン、ガーン”という音よりも、”ポク、ポク”という丸い、かつ強い音のほうが、”ギンギン”鳴り響く楽器が多いゴンクビャールのなかでは、かえって異質で目立ち、よく聞こえるらしいです。

 カジャールは、一人でずっと1つの音ポクポクを叩きつづけて、コテカンのような対となる相手とのからみもなく、それがゆえに、かえって難しい。あっていて当たり前で、あっている時はだれもそんなに気にしていないのに、ずれてしまうと、とたんににらまれてしまうカジャールは、その席に座ると私は以前はとっても緊張しました。でも、よく考えてみたら、カジャールは本当は全員の心の中にあるべきもの、なんです。

 ある先生が、こんな事を教えてくれました。
何の曲か忘れましたが、コテカンの練習で一対一で私がポロス、先生がサンシをたたいていました。でも、なかなか合いません。先生は”ポロスがだんだん速くなってしまっている。心の中に自分のカジャールを持っていないと、サンシを聞くとあおられているような気がして、だんだん速くなっていってしまう。”と言います。確かに、私の場合、サンシだけを聞いてポロスをたたこうとすると、だんだん速くなっていきがちですが、意識して、自分の心の中でカジャールをたたきつつポロスをたたくと、サンシを聞いてたたいても、その音に飲み込まれてしまわなくなります。
 これは、一対一での練習に限った事ではなく、ゴンクビャールで大勢でたたく時も同じなのではないかと私は思います。全員が、クンダンの音をよく聞いて、自分の心の中のカジャールをたたきながらそれぞれのパートを演奏する。そして、そのみんなの心の中のカジャールと、カジャール奏者のたたくポクポクが一致していれば、演奏が1つにまとまるはず。・・・とまあ、当たり前のような話ですが、実際そこにたどり着くのはなかなか難しい・・・。
 このカジャールは”心の中”(先生は、胸を手で指しながら、ダラム・ハティと言っていました。)にあるのがポイントで、外から見えるような、例えば頭でうんうん、とか、足でとんとんとかするのではなくて、自分の体の中で感じるようです。最初は体の中で、というのが難しいと思うので、足や頭で拍子をとって、だんだんにそれをしないようにすればいいと思います。
カジャールが正確に入れられるようになるには、クンダンの音がどうやって並んでいるのかがわかっている必要があります。クンダンとカジャールと自分のパートの位置関係がわかれば、しめたものです。 
 簡単なようで難しい。でも、意識してみる価値はあると思います~。そうすれば、カジャール奏者も”一人で私はカジャールをたたいている。孤独だ。”と思わなくてすむようになります。ただ、演奏中に、クンダンを聞いていて分からなくなった時には、実際に音をだしているカジャールを、みんなが頼りにしているのは事実ですが。。。

 この心の中のカジャールは、曲の中の、テンポの変化していく部分では、クンダンよりも一音遅れのテンポでついていきます。(”イクット・クンダン”を参照)
では、テンポが安定している(キープする)部分では、どうでしょうか。
 実際の演奏の中では、テンポをキープする部分というのは、そう長い時間は続きませんが、細切れに何箇所もでてきます。この、テンポをキープする部分は、テンポが変化していく部分とは違い、クンダンとそれ以外の楽器がぴったり一緒のテンポになります。クンダンの最初は”ンカパ”で始まる事が多いのですが、この”ンカパ”はとても大事で、テンポをキープする場合、クンダン奏者はここで、それ以降のテンポを示します。クンダン以外の楽器は、ここで示されたテンポで、合図があるまでクンダンとぴったり一緒のテンポで演奏していきます。

 ・・・と、ここまで書いてくると、”じゃあ、クンダンに全てをまかせていればいいんだ。”と思うかもしれませんが、そうではありません。全員が曲の流れを理解して,ここはこうたたく、という意思を持ち、かつ、クンダンの指示を聞きながら、演奏するべきだと私は思います。でないと、演奏に勢いがでません。
 また、クンダン奏者もかみさまではなく人間。合図をまちがることもあります。バリ人でも実際間違えているところを見たことがあります。でも、そんなときは他の奏者からクンダン奏者がにらまれます。クンダン奏者は思わずにやり。でも、演奏は乱れず続いていきました。全ての演奏者が、ほかの奏者をフォローする技量ときもちがあるからなんでしょうね。

 マヌク・ラワという曲の中には、クンダンとカジャールだけが演奏する部分があり、普段は目立たないカジャールがすごーく目立ちます。その部分では結構長い時間、テンポをキープしなくてはいけない部分がありました。私は、先生のたたくクンダンに合わせてカジャールをたたいているつもりでしたが、キープするべきところで、なぜか、だんだん速くなっていってしまいます。
 先生には”カジャールが速い。”と言われ、私は、”でも、クンダンがだんだん速くなっていったから・・・”と反論してみました。すると、先生は”テンポが一定になったら、クンダンはカジャールにイクットするんだ。”と言います。つまり、最初にテンポを示したら、後は、クンダンはカジャールに合わせるから、合図があるまでは、テンポを変えないでたたかなくてはいけない、ということみたいです。こうなると、卵が先か鶏が先か、みたいな話になってしまいますが、要するに、だれかを頼ってばかりの演奏ではいけない、ということじゃないかなあ、と思いました。

 今、スアラでも、カジャールの練習をみんなで交代でしています。心の中のカジャールを持つためにも、とてもいいことだと思います。そして、もう1つの練習方法として、メトロノームにあわせて、ガンサをたたいてみるのもいいかと思います。テンポをキープする(特にゆっくりしたテンポの部分)のも結構難しい事がよく分かりますよ~。


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