出演者:二宮和也&大野智


第三章 あなたの大きな手


―――あなたに怯えるようになったのは、いつからだろう?
     いつも繋いでいた手が異様に大きく感じた時から
     あの時から、あなたが手を上げる度に怯えていた―――


今日は遊園地に連れて行ってもらった。
半年前、海で出逢ったあの男の子に――――


名前は二宮和也という。
私より4つ年下だけど、一緒にいると安心できる人だと思った。
初めて逢った時はすごく寂しそうな顔をしていた。
悲しい目をしていた。
だから私が側にいることで落ち着けるのなら・・・と思った。
今日は全然違う顔をしていた。
目が輝いていた。

彼なら、きっと私を外へ連れて行ってくれると信じていた――――

「ただいま」
玄関で低い声がした。
帰ってきた。
彼が・・・あの人が帰ってきた。
「お帰りなさい」
平静を保ちながら彼を迎えた。
――普段通りにしていれば大丈夫――
「今日、誰か来たのか?」
彼が急に尋ねてきた。
「えっ、別に誰も来てないよ・・・」
「じゃあ、どこかに行ったのか?」
声のトーンが下がったのが分かった。
「ううん、どこにも行ってないよ。どうして?」
彼は、飽く迄平静を保ちながら答える私に怒鳴りつけた。
「鍵掛かってなかったぞ!俺は出る時ちゃんと掛けていったのに、どうして鍵が掛かってないんだ?」
彼の悪魔のような目が私を睨み付けた。
「友達と・・・お出かけしたの。ごめんなさい、ごめんなさい・・・」
「約束破ったらどうなるか、ちゃんと言ってあるよなぁ?」
そう、約束を破ったら――――


私は鏡を覗いた。
口の中が切れ出血し、目の周りは少し腫れていた。
でも痛みは感じなかった。
慣れてしまったからなのかな。
だけどきっとまた痣になるんだろうな。

今日もあの人の大きな手が降ってきた。
約束を破ったから。
これは彼の愛情表現だから。
私はあの人のモノだから・・・


あの人と出会ったのは2年前。
出会った時は全然違っていた。
すごく優しくて、すごく温かい人だった。
私のバイト先の常連さんで、贔屓にしてもらっていた。
話をする度に彼に魅かれていって、付き合うようになった。
そして、私が高校を卒業してから同棲を始めた。
それからだ――――


私が男友達と遊びに行くと怒った。
男友達を怒鳴りつけ、私から携帯電話を取り上げた。
バイトも辞めさせられ、家に閉じ込められた。
どこにも行かないようにと約束させられた。
する事なんて何にもなくて、毎日が退屈だった。
そんなある日、彼が出張で次の日の夜まで帰って来ないという事を聞かされた。
そして私はあの海へ行った。

海から帰ってくると、彼が待っていた――――


「智さん・・・」
出張でいない筈の彼が立っていた。
「出張で夜まで帰ってこないんじゃ・・・?」
「電話したら出ないから心配で帰ってきたんだよ」
そう言って私を強く抱きしめた。
「どこに行っていたんだ?こんなに冷たくなっちゃって・・・。風邪ひくだろう?」
そう言いながら、私を抱きしめる彼の力は更に強くなっていった。
「智さん・・・痛い・・・」
弱々しい声になりながらも彼に訴えた。
「俺は深雪のことを愛してるんだ。だから深雪の体を心配してどこにも行かないようにと言ったのに、
 どうして分かってくれないんだ?!」
その瞬間、私の頬に痛みが走った。
そして彼の勢いに押され倒れ込んだ。
見上げると、彼が手を振り上げ悪魔のような目で私を見ていた。
初めて彼を恐ろしいと思った。
怯える私を何かが包んだ。
彼だった。
それは何秒か前の彼とは違っていて、私を優しく包んでくれていた。
「ごめんな。痛かっただろう?」
そう言って私の頬を撫でてくれた。


朝起きると、彼はもういなかった。
テーブルの上に書き置きがあった。
『深雪へ
  昨日はごめん。
  ココア作っておいたから、温めて飲んで下さい。』

いつもそうだ。
殴った後はすごく優しくしてくれるの。
だからかな。
ずっと離れられないのは――――

私はテーブルの上に置いてあったカップをレンジに入れ、少し温めた。
「痛っ!」
ココアを口に含んだ時、昨日切れた部分が少し痛かった。
飲み終わった後、いつものように窓を開け、空を眺めた。
天気は雨――――
殴られた次の日は、いつもお天気が悪い。
まるで私の心の中を反映しているみたい。
――今日は、紙飛行機飛ばせないな――

窓を閉めようとした瞬間・・・
傘もささずにこっちを見つめて立っている人がいた――――





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