出演者:ニ宮和也&大野智


第四章 雨に濡れた二人


―――雨が嫌いだなんて、そんなこと一度も言っていない
     ただあの人が雨に当たらせてくれなかっただけ・・・
     本当は雨に濡れて全てを流してしまいたいのに―――


傘もささずにこっちを見つめて立っている人物。
それは紛れもなく二宮くんだ――――

私は勢いよくカーテンを引いた。
こんな顔を彼に見られたくなかったし、見せたくなかった。
本当はすぐにでも彼の元へ行きたいけど・・・
彼と一緒にここから逃げたいけど・・・
私さえ我慢すればあの人も怒らなくて済むんだ。

――私さえ我慢すれば・・・――


その日は一日中何かをしていた。
何かしていないと二宮くんのことを考えてしまうから・・・
何かしていないと気が狂いそうだったから・・・

「ただいまぁ」
あの人が帰ってきた。
今日は機嫌がいいようだ。
「お帰りなさい」
「ケーキ買ってきた!」
彼は無邪気な顔でそう言った。
「やったぁ!じゃあ、コーヒー入れるね」
私はお湯を沸かすためキッチンに入った。

「そう言えば、さっき変なヤツがいてさぁ・・・。こんな雨の日なのに傘もささないで
 アパートの方を見てたんだよ」
――もしかして、二宮くん?――
そう思った瞬間、やかんを床に落としてしまった。
「あーっ!」
「大丈夫か?」
彼がこっちに来た。
「怪我しなかったか?」
「うん・・・」
「深雪は座ってろ。あとは俺がやっておくから」
彼は優しかった。
私は少し後ろめたさを感じた。
――忘れよう、忘れるんだ――
そう自分に言い聞かせていた。

次の日も天気は雨――――
今日は私の心とは裏腹なんだね。

「今日雨だけど、どこか行かない?」
後ろであの人の声がした。
今日は私のために休みを取ってくれたらしい。
「うん。どこ行こうか?」
「久しぶりに何か買ってやるよ」
私がいい子にしていれば彼はずっと優しいまんまの彼だ。
久しぶりに甘えちゃおうかな?

二人で一本の傘をさし、外に出た。
腕を組み歩いていた。
――あっ!?――
私の目に飛び込んできたのは・・・びしょ濡れになって立っている二宮くんだった。
一瞬足が止まった。
「どうした?」
そう言って不思議そうに私の顔を覗き込んだ。
「ううん。何でもない・・・」
私は何も見ていないかのように、また歩き出した。

「アイツだよ・・・」
「えっ?」
彼の急な言葉にビックリした。
「昨日言っただろう?傘もささずにアパートの方見てたヤツがいるって・・・」
「あっ、あぁ・・・」
「何か怪しいよな、アイツ。気をつけろよ」
「う、うん・・・」
二宮くん、昨日からずっとここにいたのかなぁ?
風邪ひいちゃうよ・・・

「深雪・・深雪?」
「えっ?!」
「聞いてるの?」
二宮くんのことばかり考えていて、全然聞いていなかった。
「ごめん、何?」
「何買って欲しいって言ったんだよ」
「あっ、何でもいいよ」
今はそれどころじゃなかった。
二宮くんの体のことが心配で――――


買い物をしてる時も、気になるのは二宮くんのことばかりだった。
――まだいるのかなぁ?――


案の定、買い物から帰ってきても彼はいた。
とても切ない目で私のことを見つめていた。
「じろじろ見てんじゃねーよ!」
私の横で怒鳴り声がした。
「用がなかったらさっさと帰れよ。気持ち悪いんだよ!」
悪態つかれたニ宮くんは、智さんをキッと睨み付けた。
「何だよ、やるのか?」
智さんがだんだんと本気で怒るのが分かった。
「ちょっとやめてよ。もう帰ろう?」
何とか智さんの気を静めて、部屋に戻った。

朝、目覚めるとあの人はもう仕事に行っていた。
今日の天気も雨――――
ここ数日雨の日がずっと続いていた。

――二宮くんだ――

私の目に飛び込んできたのは、またしてもびしょ濡れになって立っている二宮くんだった。
外に出ちゃいけない・・・
でも二宮くんをあのままにしておくことは出来なくて、傘を持って飛び出した。

「来てくれると思ってた・・・」
優しい目をした二宮くんが、どこか安心した様子で言った。
「これ、使って」
私は敢えて二宮くんの言葉には振れずに傘を差し出した。
「いらないよ」
そう言って差し出した傘を払った。
「二宮くん・・・」
「傘が欲しくてここに来たんじゃないよ。もう一度逢いたくて・・・。深雪さんに逢いたくて・・・」
二宮くんは声を震わせながら言った。
「何で昨日俺のこと無視したの?深雪さんが声掛けてもらいたかったのに・・・」
「私・・・。二宮くんに迷惑かけたくなかったから・・・。私と二宮くんが知り合いだって言ったら、
 あの人何するか分からないから・・・。だから・・・」
「そんなのいいよ。そんなの深雪さんが気にすることないよ・・・」
そう言って私を抱きしめてくれた。
華奢な体で・・・細い腕で・・・私を包んでくれた。
私も彼を抱きしめた。

「一緒に・・・行こう」
彼が私を誘ってくれた。
私を助け出してくれる。
やっと自由になれる・・・
「うん」


私たち二人は雨に濡れた。
そして、どしゃ降りの雨の中、私たちは抱き合った。
それはとても温かいものだった――――





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