出演者:二宮和也


第六章 彼女の涙とナイフ


―――人は危険な状況に立たされた時、自分の身を守ろうとする
     いわゆる正当防衛というやつだ
     正当防衛は罪には問われない
     しかしその人の中では忘れられない出来事となるだろう―――


さっきから点いたり消えたりしている外灯が点った。
少し冷たい風が吹き出した。
そして彼女が話を進めた。

――?!――

俺は一瞬耳を疑った。
夢でも見てるのか?
「今・・・何て?」
俺は思わず聞き返した。

「私・・・あの人を・・・刺しちゃった・・・」

そう言うと彼女は震わせながら手を広げて見せた。
彼女の手には赤い血が付いていた。
我に返った俺は彼女の手を掴むと彼女のポケットに突っ込んだ。
「いい?絶対に出しちゃダメだよ」
彼女は頷き、先程駅に着いたばかりの電車に乗り込んだ。

電車の中では二人とも口を閉じたままだった。
そのせいか時間の流れが遅い感じがした。

目的地に着いた俺たちは、近くの旅館に入った。
時間が時間だから宿泊させてもらうのを渋られたが、どうにか泊めてもらえることになった。

部屋に入ると彼女がその場に崩れ落ちた。
彼女の手には、まだあいつの血が付いたままだった。

彼女が手を洗って帰ってくると事の経緯を話してくれた。

帰るとすぐに暴力を振るわれたそうだ。
その中で彼女は話を聞いてくれるよう頼んだ。
そして彼女が別れて欲しい、と言った直後・・・
怒り狂ったあの男が殴りつけてきたらしい。
倒れた彼女の側には果物ナイフが落ちていて――――
彼女はそれを手に取りあいつの体に刺した。


「恐かったの・・・。殺されると思った・・・。もうダメだって思った時、果物ナイフが目に付いたの。
 気付いたらナイフを手に取って刺してた・・・。我に返った時怖くなって家を飛び出したの。」
彼女は震えながら泣いていた。
そして完全に落ちきっていないあいつの血が付いている手を見て言った。
「この血、ずっと落ちないのかなぁ?あの人をあんな目に遭わせた罰なのかなぁ・・・?」
「そんなことないよ。落ちるよ、絶対に・・・」
俺はそっと彼女を抱きしめた。
苦しんでいる彼女の顔を見ているのが辛かったから。

次の日、天気は雨だった。
まるで彼女の心を表しているようだね。
「ん・・・?」
彼女が起きてきた。
「おはよう。お茶飲む?」
「うん・・・」
やっぱり彼女は元気がない。
まぁあんな事があったのに元気にしてるって方がおかしいけど・・・


お茶を飲んだ後、俺は明るい口調で言った。
「ねぇ、散歩に行かない?」
「・・・うん」

旅館で傘を借りて街へ出た。
少し歩くと長い行列が出来ている場所があった。
「何だろう、あの行列。・・・行ってみようか」
彼女は黙って俺の後に付いてきた。

行列の元は小さなクレープ屋だった。
「あっ・・・」
テレビや雑誌なんかで取り上げられたらしくて彼女も知っていた。
「食べていく?」
「うん」
俺たちは行列の最後尾に並んだ。

長い時間待ってやっと買えた。
取り上げられる程とあって結構美味しかった。
彼女も少しずつ笑顔を取り戻しつつあった。


旅館にはもう少し泊めてもらうことにした。
「ねぇ、明日服買っておいでよ」
俺が言うと彼女は俯いた。
「でも、お金持って来なかったし・・・」
「大丈夫だよ。俺持ってるから」
「でも・・・」
「遠慮しなくていいって。これからはずっと一緒なんだから、遠慮してると疲れちゃうよ」
笑いながら言うと彼女は申し訳なさそうな顔で、じゃあ・・・、と言った。

次の日、彼女は俺からお金を受け取り買い物に出かけた。
夕方になっても彼女は帰ってこず、何の連絡もなかった。

夜になって電話のベルが鳴り響いた――――




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