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さて、この数年のことですが、前立腺肥大(ぜんりつせんひだい)というおしっこの出方が悪くなる病気で、治療のためにα1遮断剤というお薬を飲んでいる患者様が激増しています。具体的には「ハルナール、フリバス、ユリーフ」などの商品名のものが多いのですが、これらが日本では現在なんと年間で8億個!も処方されています。
泌尿器科の先生にとってはありふれたお薬で、非常にカジュアルに気軽に処方されているのですが、これらの薬を飲んでいると白内障手術時に40%の確率でIFIS(アイフィス:術中虹彩緊張低下症候群)というやっかいな合併症を起こすことが知られています。 これは、お薬の影響で虹彩(茶目)がフニャフニャになってしまい、術中の水の流れでうねったり縮んだりして手術が難しくなることを言うのですが、その症状がシビアな場合には手術の安全性に関わることもあり、我々白内障手術専門医の大きな悩みの種となっています。
これはα1遮断剤が「瞳孔散大筋のブロック」を起こすからなのですが、α1受容体を選択的に活性化させる「フェニレフリン」という薬剤でこのIFIS は予防できることが知られるようになってきました。ただし、そのためにはミニムスという使いきりタイプの点眼剤を個人輸入しないといけません。また、一般的な散瞳剤の「ミドリンP」にもフェニレフリンは入っていますが、原液でないと前房(目の中)内濃度が足りないし、そのミドリンPには防腐剤が入っているので原液使用は無理です。
ただ、身近なところで出来る範囲でもこのIFISを予防する手段は色々あります。今日はその対策を個人的メモ書きとしてまとめておきます。
1. そもそも白内障手術前に、α1遮断剤を飲んでいないかをしっかり確認する。割と「そういえば泌尿器科の先生に内服開始を勧められている」ということも多く、その場合は先に手術をさせて貰えば良い。また、現在α1遮断剤を内服中の場合、休薬してもIFIS発症は予防できないというデータが多いが、個人的な臨床体験からは「休薬すると少なくともパワフルなIFISはほとんどない」のも事実であり、症例の難易度によっては可能であれば一時的な休薬をお願いすることも魅力的なオプションだと思う。
2. 実際の手術に際して1番効果があるのはこれ。新品のネオシネジン点眼液(フェニレフリン)を1mlシリンジに吸っておいて、手術の洗眼後に結膜下注射しておく。その量は0.1mlくらい、感覚としては少し結膜が膨れるくらいで十分で、これでIFIS 発症率を大幅に減少させることが出来る。
3. 散瞳不良症例はIFIS発症の可能性が高いので、必要に応じてBSS2.5mlにMP1滴入れてそれを前房内投与する。(ただし想定リターンがリスクを上回る場合のみ)
4. それでも無理で術中にパワフルなIFISを起こした場合には、前房形成能の高いヒーロンVを適宜使用する。(ただし個人的にはヒーロンVにはあまり過度な期待を抱かない方が良いと考えている)
以上です。これからもより安全で効果的なIFIS対策を追い求めて行きたいと考えています。
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