吼えよ!家庭拳(その九・終)


 しかし、今回の京子の失踪は、あの小学生の頃の悪夢をまざまざと目覚めさせた。
 母親の京子は、おそらく、旧姓の「秋生(あきお)京子」に戻ったのに違いない。仕方なく、たった一人の孤独な戦争に出かけていったのだ。家族をあの謎の組織から、再び守るために……。
 ところが、帰郷のため大学寮を出ようとした矢先、当の母親から電話がかかってきた。
「ごめん、良夫」
 京子の声は屈託がない。
「お父さんとケンカして、ひとりで温泉旅行に出ていたのよ。お父さんも、懲りたみたい。もう大丈夫よ、心配しなくていいから」
「お母さん」
「何?」
 良夫は受話器を握り締めた。
「怪我はなかった?」
 母親は、電話の向こうで、ただ黙っている。きっと、底抜けの笑顔になって、良夫の言葉を噛みしめているのに違いない。

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