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nonの独り言
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従って鉄道の職業をしている方々は、家族サービスやデートなどに困ったと思う。私も困った。
24時間の勤務と言うのは、今思い返してもゾッとするほど過酷なものだった。若手の担当には3つのパターンがあって、「上り」と「下り」に電気機関車を主に扱う「EL]の3種類だ。
機関区の出入り口の線路は3箇所ある。本線から到着する貨物列車は竜華操車場と言うホームの無い「駅」に着いた後に、機関車だけを切り離す。そして機関車は「機走線」を走って機関区に帰る。この操車場と機関区の出入り口が3箇所あって「上り側」と「下り側」、架線のない「中」だった。仮眠時間はバラバラに設定されていて、夕方以降は交代制となる。
構内の食堂が17時~19時オープン。夕食後にもう仮眠時間となるのは「下り」。しかし起床時刻は2時だ。23時までが「上り」で起床は5時。「EL」は1時までだが翌朝の仕事はない。
つまり、深夜の1~2時だけは機関車の出入りがない。
私がなかなか慣れることが出来なかったのは、起きる時間に自分のリズムを合わせること。仮眠が仕事の一部であることは頭で承知しても、夕方に眠って2時に起きるなど無理なのだ。寝ボケて機関車から振り落とされて死んでしまう(と、今では思う)。
仮眠所は3階建てで、小部屋が40程あってそれぞれに2段ベッドが備えられている。私達誘導の仕事の者以外に検査業務の先輩達、乗務を終えたばかりの機関士・機関助士達が眠る。
時間通りに我々を起こすのは、完全に徹夜する民間委託の方。管理人室にいて、時間になるとベッド横のインターホンを鳴らし、返事があると起きた事となる。
失敗談は、私が「下り」を担当している時に起こった。2時の起床時刻に起きなかったのだ。偶然「EL」を担当していた先輩が丁度風呂から出て、仮眠準備の最中だったから大事には至らなかった。先輩に叩き起こされたのは2時10分頃。吹田から到着する機関車の入区時刻は2時18分。
慌てて着替えて、起き立ての全力疾走400m。DD51のヘッドライトが眩しい。
深夜の勤務もなかなか慣れはしない。何故なら私は怖がりなのだ。今でもオカルトなどは大嫌い。
何処の鉄道関係の現場でもそうだが、怪談話は幾つもあって、散々私を苦しめた。機関区には轢死殉職した職員の碑などがあって、その経緯など頼みもしないのに先輩方々は私に聞かせるのだ。オマケに「寒い夜になると、カンテラが勝手に消えて・・・」などと付け加える。
こんな話もある。「EF58-69は今までに何人轢き殺したか知ってるか~」とか、「今日は阪和線で人身事故があって、ED60だった」など、深夜勤の私にそのような話を聞かせて、どういうつもりなのだろう。
極め付けは、とうとう人が死んだのを見てしまったことだ。久宝寺駅で飛び込みがあって、連絡を受けた私は同僚と掛け付けた。後の仕事が辛くなるのが分かっていれば、態々見に行くのではなかったが。嫌なモノが脳裏に焼き付いて、その光景は、今に至っても私はどうしても忘れられない。
長い鉄道の歴史だし、この機関区に居る機関車たちは、私が生まれるずっと以前から走ってきた名機ばかり。どの機関車も不運ながら人を轢いているのは当然なのだ。と、飲み込んで心を落ち着かせても、深夜1時に眠っている電気機関車の間をひとり歩く18歳、怯えて震える私。
現在の竜華機関区のあった場所は、大阪府の広域下水か治水池かそのような工事が行われている。操車場部分は八尾市の立派な病院が建ち、バスターミナルなど久宝寺駅前の再開発が盛んに行われている。久宝寺駅のホームは、当時上りと下りが2~300mも離れていたのが上り側にまとめられて4線となって、快速電車と普通電車の乗継ぎに便利だ。近年完成の大阪外環状線の終点駅としての入替線路やホームの拡張工事が行われている。
私の目には、この地域は急速に発展している。ただ、国鉄が解体して竜華地区にあった南近畿の要の地位を失い、機関区も操車場も客貨車区も阪和貨物線も嘗ての雄姿を失っていく様は、耐えようも無く惨めで寂しいものだった。
錆びた線路、雑草だらけのヤード、池になってしまった転車台。「兵共が夢の跡」と新聞に掲載された写真にはススキの穂が揺れていた。あの日、DD51の先頭で手摺に掴まって緑旗を振りながら誘導していた。手ブレーキが甘く、暴走しかけたEF15を数人で押して止めた。
私の最初の仕事、辛いことも楽しいこともいっぱい詰まっている場所なのだ。
機関区の規模は地図で調べると東西は約600m、幅は約100mである。構内の機関車の誘導をする私達は、この距離を何往復もしなくてはならない。基本的には徒歩だが、自転車もよく使った。機関車の往来が激しいから油断すると轢かれてしまう。
構内食堂は、街の大衆食堂がそのまま機関区内にあるような佇まいだ。ご飯は大・中・小、各種ウドンと蕎麦。オカズはガラス戸の中に盛り付けられているのをチョイスする。若いお兄さんが、ソロバンの暗算で瞬時に計算して請求する。美味しいとは言えないが何処か懐かしい味。一押しはマルシンのハンバーグ。お正月は刺身まで登場した。
民間に委託している食堂なので、19時には店が閉まってしまう。深夜まで及ぶ業務で小腹が空くと、インスタント・ラーメンの登場だ。1個50円だったから、当時としては高い。
浴場も街の銭湯の佇まい。ただし男湯だけで無料だから番台などはない。各自桶と石鹸・タオルを持って脱衣場に入る。前にも描いたが、脱衣場に来る前からパンツも履いていない大先輩もいる。
当然年中無休で24時間いつでも入浴できる。浴槽は大小二つで、常にどちらかは稼動している。
17時頃は大混雑で、機関車の検査と修理のメンバーが一斉に押し寄せて来るためだ。
ある日、機関区のボイラーが故障してしまい風呂が沸かせなくなった。なんと機関車DE10を浴場に横付けして、機関車の搭載ボイラー(客車暖房用である)で風呂を沸かしてしまった。
若い私はこのような不思議な光景を目の当たりにしながら、先輩方の(悪)知恵と技術と要領の良さに尊敬すら感じてしまうのだった。
3ヶ月程は機関車の誘導をする運転掛だったが、検査修理関係の方に配置換えとなった。大きなミスがあったなどと言う理由ではなく、我々若手は誘導と検査修理関係を交互に行う。この異動は毎月少人数ずつ実施されていた。
もう一つの理由は、入社6ヶ月で準職員から正職員となる。このための一応の試験があって、パスしなければこのままずっと一番下っ端となってしまう。試験内容に自動連結器の組み立てや、空気管コックの分解掃除などの検査修理部門の課題があるため、その技術修得のための異動でもある。
検査修理関係の部署は3つに分かれていて、「技術掛」「検査係」と「検修掛」となっており、私達若手は「検修掛」。検修掛は機関車の修理を行うのが仕事。ここで10年以上の経験を積んで試験に合格すれば検査係に昇格し、さらに経験を積むと技術掛となる。技術掛ともなると、その辺の工具まで自分で誂える神様のような存在となる。
私達検修掛は、検査係の要請に応じて修理を行い、修理後はその修理が完璧に実施されたかを検査係が確認する。つまり一人の検査係の下に1~3名程の検修掛が付いて一つのチームとなる。
機関区で行う検査は4種類あって、機関車1両につき2~3日毎の「仕業(「しぎょう」と読む。「しわざ」ではない。)検査」、2ヶ月毎の「交番検査」、2~3年毎の「台車検査」と規模が分かれている。所用時間も「仕業検査」は30分程、「交番検査」は1日、「台車検査」は1週間も要する。他に「臨時検査」と言うのがあって、急な機関車の不具合に備えて待機する。
また、電気機関車とディーゼル機関車の両方があるので、仕事の種類は相当に多い。
それぞれに人員が配備されていて、毎月その担当が替わる。
「仕業検査」に参加できるのは概ね5年以上の経験が必要とされていた。私達若手は主に「交番検査」と「台車検査」。タマに「臨時検査」に廻されるが、機関車の不具合などそれほど起こる筈もなく、雑用係となってしまう。それに当然だが「臨時」だけは日曜日が休みとならない。
検査修理部門だけで職員は50名強、若手も30人程もいて、ここでは実に様々な経験をすることとなった。私の苦手とする上下関係、先輩後輩の格の違いや厳しさを、仕事そのものの辛さよりも感じることとなる。もっとも若手が多い職場なので楽しいことも沢山あるのだが。
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