プロローグ

プロローグ~全ての始まりの予兆~














 世界には、人間、エルフ、ゴーレムの三種族が存在する。人間は、世界人口約二十億人の内、約十六億人を占める大種族だ。エルフは、約三億人、ゴーレムは約一億人である。また、人間は世界各地の至る所を住処として、エルフ族はエルフの森と呼ばれる大森林に、ゴーレムは標高千メートル以上の高山にしか住んでいない。
 それぞれ三種族は、互い互いに介入することなく、種族内での抗争はあるものの、それぞれの種族での戦争は今だかつて一度もなかった。
 しかし、エルフ族はプライドの高き種族で、今だエルフの森は東西南北に分けられたまま、統一される見込みもなく、荒れた戦火に飲まれていた……。

 ゼロ・アリオーシュ、17歳。西の中流貴族であるアリオーシュ家の嫡子だが、家庭内で父親ともめ、今は北のデルトマウス家の客将となっていた。北には、幼き頃ともに貴族学校で学びあった旧友シューマ・デルトマウスがいたことが最大の理由だった。
 ゼロの父親は、西の戦闘家老で幾度の戦いを指揮し、勝利してきた英雄である。その彼を父親にもつゼロの精神的な疲れが反抗、口論という形になってしまったようだ。ゼロ自身、エルフ族でも屈指の剣士なのだから、西の戦力低下は多大、北の戦力増加も多大であった。
 北は、東と同盟があるものの、南、西と敵対しており、堅牢な城塞、アイアンウルフ城でなんとか均衡を維持しているのが現状だったから、ゼロの参戦は天使の差し手であった。ゼロは、エルフ族で絶世の美男子と呼ばれる美丈夫だが、黒瞳、黒髪、黒い鎧、黒刀と、黒騎士を挺していることから、美しき死を司る者、“死神ゼロ”と南の軍勢から恐れられていた。
 東は、形上北の同盟国だが、実質的なところは属国であった。戦力は東西南北中最低ランクで、東と言ったら彼、という英雄もいない。北の力で王権を保っているものの、国王ヴィレッジ・クールフォルトは、北の王の操り人形のようなものであった。
 南は、西と友好関係にあり、最大の魔法軍団を率いる魔法特化の国だ。実質的には、エルフ族最強の国である。だが、有力貴族が数多く存在し、まとまりのない軍勢であるのも事実であった。一つにまとまりさえすれば、瞬く間に統一は成し遂げられるだろうと予想されている。その南をまとめる王家が、治癒魔法の名門コライテッド家である。賢王クルゲルは、かつて前例のない善政を敷いたことで有名であったが、その彼を以ってしても南の大魔法貴族、魔法三家と呼ばれるナターシャ家、フィートフォト家、モックルベラ家をまとめることが出来ず、ついに長年善政を敷いた彼も世を去った。彼の息子が早世したため、今は孫にあたる若干15歳のシスカが王位に就いている。どうやってその少年が魔法三家をまとめるか、これが南では話題の種となっていた。
 そして、若き鷹、ゼロ・アリオーシュのいない西は、最古の歴史を持つエルフ剣術で有名な虎狼騎士団が全てを支えていた。騎士団長はゼロの父、ウォービル・アリオーシュ。また、西は歴史深く、他国とは異なり有力貴族が西の領土を分割し、貴族同士で統治していた。これが幸を成してか、平民の反乱は今だかつて起きていなかった。

 そして、これから始まる統一を賭けた戦乱に、ゼロを始めとする数多くの英雄、いや、エルフ族全体が突入しようとしていた……。















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