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第3章
死というものが教えてくれた
ゼロとユフィの結婚式から6日が経ち、ゼロは軍勢を整えつつも先日召集した虎狼九騎将を再度召集し、東の侵略とムーン暗殺について議論を交わしていた。
「しっかしよ、そこまでして暗殺しなきゃいけない相手かよ?女だぜ、女。そこまで必要かねぇ?」
ジエルトが酒を呷りながら言った。彼は戦場だろうがどこだろうが酒を手放すことはない。ゼロはもちろんのこと、ウォービルでさえ注意していたこともあるが、すでに諦めたらしい。
「女だから、って言うのは聞き捨てなりませんよ?ジエルトさん」
ミリエラがムッとして反論した。女だからといって差別されたり手加減されたりすることは彼女が一番嫌うところである。リエルも鷹揚に肯いた。
「だけど、ゼロが妙にムーンのことになるとカッカするというか、冷静さにかけることは事実だよ。何か悩むことがあるんだったら僕に相談してくれればいいのに」
ベイトがゼロの横から口を挟んだ。こういう会議のときは前の小隊ナンバーが普通なのだろうが、どうやら適当らしくゼロを中心に右回りから、ベイト、クウェイラート、フェイト、グレイ、ジエルト、ファル、ミリエラ、リエルと座っている。ゼロの左右にゼロの小隊員の二人を置いたのは意図的かもしれないが。
「そういうわけにもいかなかっただろう。ここのところゼロ、お前休みなしで動いてただろう?」
グレイが静かな声音で言った。反対にベイトは黙り込んだ。
「まぁ、な。でもベイト、そのうちお前には相談に乗ってもらうから、リエルも、な」
二人は少し驚いたが肯いた。
「……手っ取り早いのは、東を戦争で倒すことじゃないの?」
ふと、ファルがやる気なさ気に発言した。珍しくジエルトも同意見だというように肯いた。
「馬鹿なことを……。そんなことをすれば北も来るだろうに。シスカ国王の真意の分からない今、戦争をするなんては愚の骨頂だ。今はゼロの言う通り、隠密的な工作が重要だろう」
クウェイラートの政治家のような口調に、ファルは呆れて机に突っ伏して眠りだした。
「でもさぁ、ゼロっち。誰が暗殺しに行くんだい?実力順なら、ゼロっち、グレイ、ミリエラちゃん、俺、ジエルトのおっさん、クウェぼっちゃん、ファルっち、ベイト、リエル嬢ちゃん……って感じっしょ?そこで俺は考えた。ゼロっちは万が一のことを考えて控えるべきだね。ならグレイはどうか?実質的に最前線の役とか指揮すんのがグレイだから駄目。ミリエラちゃんとリエル嬢ちゃんは虎狼騎士のチアみたいなもんだし、失敗して死なれたら士気に関わるから駄目。クウェぼっちゃんはウェブモート家の一人っ子で跡継ぎにもなるから最悪のケースを想定すると駄目。ベイトはゼロっちがいろいろ使うつもりでしょ?だから駄目。ファルはまだ怪我が完治してないからこれも駄目。つまり、俺とジエルトのおっさんの二人ってことでどうだい?」
フェイトがひょうきんに、ニヤニヤして言った。彼の発言はフザケタものが多いため聞き流す者のほうが多いのだが今回は実に的を捉えた発言だったためみんな聞き入っていた。皆の驚きの表情を見て、フェイトは笑った。
「ありゃ?俺、変なこと言ったかい?」
当の本人は普段と変わらないが。
―――……参ったな……。丸きり俺と同じ考えじゃないか……。
ゼロは内心同じ考えを出したフェイトに舌を巻いた。
「……フェイトは、それでいいんだな?……ジエルトは?」
フェイトの肯きを見て、今度はゼロがジエルトを見た。彼も、笑っていた。
「おもしれぇじゃねぇか。どうも最近退屈しててよ。暇つぶしに行って来てやるよ。それに、絶世の美女ムーンとやらも見て損はねぇだろうしな」
ミリエラはその台詞に呆れていたが、彼の眼が真剣さを帯びていたのに気付いたゼロは、小さく頷いた。
会議で話すべきことは、終わった。
「フェイト、ジエルト、礼を言う。お前達の気持ちは、必ずイシュタルのもとに届き、西を導いてくれるだろう。それじゃひとまず今日は解散だ」
ゼロがそう告げ、皆一様に席を立つ。
「あ、ジエルトとフェイト、ベイト、リエルはちょっと残ってくれ。残りの者はそれぞれで軍備を整えるように。次回の予定は、使いを送るからそれまで待機だな」
ゼロの残した四人以外が帰っていった。皆の姿が見えなくなると、ゼロはおもむろに口を開いた。
「まず、ジエルトに話があるから、三人は外で待っててくれないか?話が終わったら、次はフェイトだ。ベイトとリエルにゃ悪いが、少し待っててくれ」
ジエルトを残した三人が退出した。
「……珍しいじゃねぇか、ゼロが俺とタイマンで話なんてよ。なんだ?もうユフィちゃんと喧嘩したのか?わりいな、生憎色恋沙汰は遠慮するぜ」
ゼロは、ピクリとも笑わなかった。
「単刀直入に聞く。ジエルト……本当にいいのか?」
ジエルトは、呑もうとした酒を止め、真剣な顔付きをした。
「あんたは過去の戦歴の報奨だけでもう働かなくてもいいくらいの金はあるだろ?無理して栄光の騎士を演じる必要はないんだぜ?」
ゼロは眼をそらさないジエルトを少し睨むような形になった。
「……お前に嘘は通じねぇだろうな……。正直、怖ぇよ。暗殺を成功させれる気がしねぇ。でもな、過去に頑張ったから今は働かなくていいとか、今はそんな時じゃねぇだろう?西の民全員が手を取り、協力しなきゃ統一なんてできねぇだろうよ。それに、事実なのか知らねぇが、ムーンの周りにゃ、スフライの野郎もいるって話だろ?奴にゃ借りがあるんだよ。それを返すまでは前線張らせてもらうさ」
ジエルトは今だかつて見たことのないような、哀しい顔をした。それは、今のジエルトではなく、昔のジエルトのように見えた。空気が少し重い。
「まぁ、最悪の場合俺とフェイトが死んでも相打ちにはしてやるよ。じゃあな、話はそれだけだろ?俺はさっさか帰って支度するさ」
ジエルトがそう言って退出した。ゼロは何か心落ち着く思いだった。
―――心配はいらなかったな……。
次は、順番通りフェイトが入ってきた。
幼い頃は、よく自分の遊び相手であったフェイト。およそ戦士とは思えないようなフェイト。保父のほうが適職のようなフェイト。
ゼロの彼への印象は今だ変わらず。
およそ戦いとは無縁の男、のままである。
「ゼロっち……止めようってのも、アドバイスとかも、今はいらないぜい?言葉でどうこうできる問題じゃあないからね」
フェイトの表情は相変わらずヘラヘラしている。
「そんなんじゃない……。お前の……考え、真意、それが知りたい。本当の、真意を」
ゼロは真剣な眼差しでフェイトを見つめた。
「……何を話すかと思えば、ゼロっち…………じゃあ……ちょっと、昔話をしようか……。
昔々あるところに、一人のヒュームの男が住んでいました。男は武芸や軍略にも長けた能力を持ち、武術では男のいる国の五本指に入るほどの猛者でした。
ある日、男は国王に呼び出されました。
『エルフ領の偵察をしてこい』
国王は男にそう言いました。
その当時大した資金もなかった男は、多額の報酬に目が眩みあっさりと引き受けました。
しかし、当時のエルフ領の治安は悪く、一般市民も恐怖に震えるような日々を送っていました。男は思いました。こんなところ、ヒュームの敵となる要素、一つもないじゃないか。
しかし、男はまだエルフの本質を見抜いていませんでした。エルフは、ヒュームの数倍の身体能力に、高いプライドがあったのです。
それに気付いていない男は、指令にあった通りに内部撹乱を試みました。しかし、そんな男の前に一人の魔術師が現れたのです。
ヒュームでもエルフが魔法を使うこと、ゴーレムが特殊能力を持っていることは知っていましたが、実際に魔法も使えず、特殊能力など持って生まれないヒュームは魔法など見たこともなく、もちろん対処対応も分かりません。
男はいきなり現れた魔術師に攻撃を仕掛けました。ヒュームがエルフに劣るなど考えたこともありませんでした。しかし、結果は魔術師に謎の魔法をかけられ男はヒュームとしての証、手の甲の痣を消されてしまったのです。そして変わりに若干長い耳が。
男は尋ねました。
『俺に何をしたんだ?!』
魔術師は答えました。
『人間としての証拠を消してやったのさ。これでお前はもう人間界には戻れまい』
そうです。手の甲の痣は言うなればヒュームとしての承認アイテム。裏を返せば痣無しではヒュームとして認められないのです。まして耳が長くなっては……。
男は諦めました。エルフとして暮らし、いつの日かあの魔術師に復讐するために。
そして今も、男の復讐心は消えることはありません……」
フェイトの妙に長く、芝居のかかった昔話に、ゼロは驚愕を隠せなかった。
おそらく、いや、絶対にその男とは……。
「まぁ、男ってのは当然俺のことなんだけどね」
フェイトが肩を竦めた。
ゼロはまだ驚いている。それもそうである、今まで仲間だと思っていた男が実はヒュームで、生粋の仲間ではないのだ。例えるなら、羊の群れの中に一匹山羊がいるようなものである。似てはいるが、根本が違う。限りなく近くにいけるが、接することは許されない。
ショックは大きかったが、どこかそれを知っていた気のする自分がゼロの中にいた。
「……もう仲間じゃない、虎狼騎士はおろか森から追放かい?まぁ、ゼロっちの命令なら仕方ない、去るよ」
フェイトは、笑ったまま、状況を理解しているのかしていないのか、ゼロのほうが分からなくなってしまった。
「……ビックリした……けど。けど、フェイトはフェイトだ。やっぱり仲間だよ。お前が復讐を果たしてヒュームに戻って、ヒュームの国に帰るその時まで、フェイトは虎狼騎士で、俺たちの仲間さ」
ゼロの言葉に、フェイトは少し驚いたが、一瞬だけで、すぐにいつものヘラヘラした顔に戻った。
「ん。OKOK♪安心したよ。これで心置きなく行ける。もういいだろ?俺は帰るよ」
フェイトが立ち上がって出て行こうとした。そしてドアを開けかけて一言。
「あ、そうそう。調べた結果、俺に呪いみたいな魔法かけたのって、ウェルド・ユールなんだよね。これで、俺とジエルトのおっさんが適任だって分かったっしょ?じゃねい。朗報、期待しといてねぃ」
フェイトが出て行く。その背中をゼロは見ていた。
そして呟いた。
「……そういうこと、か……。でも……死ぬことだけは許さないからな……」
最後に、ベイトとリエルを呼んだ。
前の二人と比べると、緊張感や熟練の雰囲気に欠ける。
「まぁ……そんな堅くならないでくれ。任務を言うだけだからさ」
ゼロが笑って言った。
ぎこちなくなっている二人は少し落ち着いた。
「で……何なんですか……?任務、って」
リエルがゼロに尋ねる。ドキドキ感が少しあるらしい。
「リエルには北、ベイトには、東の偵察に行って来てもらいたいんだ」
ゼロがさらっと言った。リエルは普通、ベイトに緊張が走った。
「東は、危険だろうな……。イヤならいいんだぜ?諜報部から派遣するから」
ゼロの言葉には、少し挑発が混ざっていた。
これを蹴れば、虎狼騎士でも選りすぐり、という名誉ある今の立場を傷つけることになるだろう。ベイトのプライドに関わる。
「全く……。君の嘘は下手なんだよ。どうせ僕以外に行かせるつもりはないんでしょ?それに、僕がゼロの頼みを断ると思うのかい?」
ベイドがはにかんで答えた。ゼロの無二の親友、多くの言葉がなくとも、ゼロの真意は感じることができるのだ。
「サンキュ、ベイト。で、リエルはどうだ?」
「それが、ゼロさんの命令なら断る理由はありませんよ」
リエルが笑って答えた。彼女には恐怖心が少し足りていない感じがする。
しかし、頼み、命令。二人の受け取り方は似ているが全く異なっていた。育った環境が如実に現れる感じ方である。
「じゃあ、頼む。もう時間は少ないんだ」
そうゼロが言って二人も準備のために退出した。
ゼロが、一人残った。
「…………絶対、負けるわけにはいかないんだ……」
ゼロが、そう呟いた。
各自それぞれ、統一へ向けての歩みを進めている……。
召集から三日後、予定では明日、すべての事を行う予定である。ムーン暗殺という、大計略を含む、すべての事。
そんな頃だった。クウェイラートがミリエラを自分の家に呼んだ。
クウェイラートの家、つまりウェブモート家は西四家の中でも一際大きな、だが優雅絢爛とは異なる城塞のような感じがあった。西の中では南側に位置し、昔の対南前線基地だったらしい。クウェイラートが産まれた頃には西と南は友好関係にあったらしいので彼自身はその歴史を知らないが。
だが、ウェブモート家に歴史有りというように、前時代的な雰囲気が十分に備わっている。
そして今、ミリエラとクウェイラートは客間に二人で座っていた。距離をけっこう置いてはいるが。
「で、貴方が私を呼んだ理由は何ですか?クウェイラート」
ミリエラの方が年下なのだが、威圧感やら何やらが、クウェイラートを凌駕していた。第三小隊長に選ばれた者と第六小隊長に選ばれた者の差がはっきりと映し出される形となっている。
「……ミリエラ。君は……ゼロの計略というか、政治的手腕をどう思う?」
クウェイラートが大真面目な顔でミリエラに尋ねた。
ミリエラは何となく政治云々の話になるだろうと思っていたが、ズバリだったらしい。
「そういうことは、私じゃなくて政治家とお話したらどうですか?」
ミリエラが冷たく言い切った。
「今俺は真剣に聞いている。真面目に、君の考えを答えてくれ」
クウェイラートの表情があまりにも緊迫していて、流していこうと思っていたミリエラが今度は逆に気圧された。
正直、ミリエラはいつでも真面目なクウェイラートが嫌いではなかった。いつもふざけているようなフェイトや酒を呷るだけでろくに働かないジエルトに比べると何倍もマシだと思っている。ただどうしても弱気に見えてしまう彼の戦場での姿から、ゼロやグレイに感じる好意は持てなかった。それが少し冷たく接しているように見えてしまっているのだが。リエルは虎狼騎士隊の誰からも好かれ、上手い立ち回りをしている。人付き合いだけは、妹が一枚も二枚も上手である。
「……私は、あまり政治に詳しくないから大したことは言えませんが、領民思いの良い内政を敷いていると思います」
ミリエラの、率直かつ、的を射抜いた考えである。
「……やはり、そう思うだろうね。確かに民を思う彼の政治は素晴らしい。ウォービル様以上の政治家や領主になれるだろう。だがそれが問題なんだ。民を思うことが、内政面をのみ強化することが外政を疎かにしていないだろうか?対東に頭が行き過ぎて、北の対策、南とだってもっと外交で行うことがあるのを忘れている。だからといって、東にだって完璧に対処しているわけでもない。ウェブモートの諜報部の調べでは、まだ内政の方に力を入れているのは西だけだ。北にはシューマ・デルトマウスに変わる戦場の象徴にセティ・ユールという人物が現れた。あのウェルド・ユールの息子らしい。彼が民衆を率いて軍務を整え始め、すでに五万の軍勢が整っているらしい。西はまだ精々が二万に対して、だ。南にも、フィートフォト家の切り札、フィールディア・フィートフォトという女性魔法騎士が軍部をまとめている。東はゼロが異常なまでに目の敵にしているムーンが十二万の軍勢を用意した。戦争は一対一じゃない。数対数なのだ。このままでは、西の敗北は目に見えている……」
クウェイラートの語る西の現実問題を耳に、ミリエラはきつく唇を噛み締めた。
確かにそれが事実なら現状は絶望的だ。だが、ゼロならなんとかしてくれる、そんな気がまだ頭のどこかに残っているのだ。
「……それは、ゼロに伝えたのですか?」
ミリエラがなんとか言葉を紡いだ。
「伝えていない。いや、伝える必要がない……。俺は考えたんだよ。西にいること自体が滅亡を辿るのではないか?とね。だから、俺は北へと謀反することにしたんだ」
クウェイラートが静かに言い放った。ミリエラは驚きのあまり絶句した。
「なっ……?!貴方は何を考えているのですか?!ウェブモート家なくして西は成り立ちません。今までも、これからも。それなのに……」
ミリエラの言葉を、クウェイラートが痛そうに受け止めた。
「俺じゃなく、ウェブモート家か……」
ミリエラは自分の失言に気付いた。今の言葉は流石に彼の自尊心を傷つけただろう。
「……まぁいい。俺が、ウェブモート家が北に行くことで西を簡単に倒せるようにできるんだ」
「貴方のお父上も了承済みなのですか?」
ミリエラは哀しそうな、憐れみを含むような眼をしていた。それに気付いたかは分からないが、クウェイラートは立ち上がり、見下すようにミリエラを見入った。
「……父さんには、死んでもらったよ。反対を続けたからね。だが、伝統に捕らわれていては生き残れないのだ!新たなる時代の中で、革新の中で生き残るには自らも伝統を棄て革新革命にこの身を投じなくてはいけないのだ!!」
クウェイラートの凄惨な表情に、ミリエラは彼の覚悟を感じた。いつもの政治家ぶった言葉ではない、これがクウェイラート・ウェブモートという虎狼騎士の真の言葉なのだろう。
「それで、貴方は私に何をしろと言うのですか?」
ミリエラが無表情に尋ねた。そっと、自分の得物の小剣に手をやる。場合によっては、刺し違えてでもクウェイラートを殺さねばならない。
彼の眼差しが柔らかくなる。
「知らなかっただろうが、俺はミリエラ、君が好きだ。君の想いがゼロに向いていることは知っている。だが俺は、君が好きだ。だから……俺と共に行こう」
ミリエラは驚いた。まさかこの場で告白されるとは思わなかったし、ゼロに自分の好意が向いていることがばれているとも思わなかった。
「……戯言を……。ですが、クウェイラート、貴方の好意に免じてゼロには何も言いません。勝手に出奔してください。私は、例え滅びの運命を辿るとしても、西を裏切るつもりは毛頭ありません」
ミリエラは立ち上がり、クウェイラートに背を向け扉の方へと歩いた。彼の前から消えるつもりのようだ。
「ミリエラ!!後悔しないな?俺は次に君に逢うときは、君を殺すかもしれないぞ?」
すっと振り返り、ミリエラが薄く微笑む。クウェイラートには、それが天使の笑みに感じられた。
「戦場で逢えば、死合うことになるでしょう。後悔などしません。……クウェイラート。貴方ともう少し早く出会っていれば、ゼロより早くに出会っていれば……。……予言です。戦場で貴方を殺すのは、私です」
ミリエラがクウェイラートにそう告げ去っていった。
後に残ったクウェイラートは、しばらくの間項垂れていた。
そして、その日のうちに虎狼騎士第六小隊長クウェイラート・ウェブモートは西から姿を消した…………。
同日。いつものようにゼロはホールヴァインズ城の自室に籠もり、これからのことを考えていた。
ムーンへの対策、北との外交策。南とのくわしい同盟内容…………。
やらねばならないことは山積みである。政治自体何から何までが初体験なのだ。疲労感は日に日に募るばかりである。
少し横になろうと椅子から立ち上がってふと振り返ると、一人の美少女が立っていた。全く気配を感じなかった。疲労の所為もあるだろうが。
およそ人のものではないような真紅の瞳に、深海の色のような黒い髪を真っ直ぐに伸ばしているその姿に一瞬見とれる。身長は、百四十センチ前後で、年はまだリエルよりも少し下な感じがする。しかし、年齢にそぐわないような毅然とした表情からは、一切の考えが読めなかった。
幻覚だと思い、ゼロは目を擦った。だが、どうやら幻覚などではないようだ。
「ゼロ・アリオーシュ。私は、ずっと貴方を待っていた。悠久とも思える、久遠の時の中で、たった一人の貴方を、ずっと……待っていた」
突然、彼女がゼロにもたれるように寄りかかった。
ゼロは慌てたが、ふと疑問を感じた。彼女からは、温かさこそは伝わってくるものの、重みがない。軽すぎるのだ。
「き、君は一体?誰なんだ?悠久の時の中で、俺を待っていたって言われてもな……」
少女がゼロをじっと見つめた。
「忘れて……しまったのか……?いや、当たり前だったな……。前世を覚えている人なんて、普通はいないものか……」
ゼロは混乱した。言っていることが、全く理解できない。
「私は、アノン。過去にもいきなり現れた私に、謎の少女という意味を込めて貴方が付けてくれた名前」
少女、アノンはゼロの服をぎゅっと掴んだ。
「……それは、もしかしてUNKNOWNの意味なのかい?」
「あぁ。その通り。そして貴方は今ここ、思い出の地に現れた」
ゼロは適当に言ったことが当たって正直驚いた。
―――ご先祖様に文句言うわけじゃぁないが……なんていうかなぁ……。
「やれやれ……少し、詳しく聞かせてくれないか?」
「もちろんだ」
アノンの話によると、今からずっと前に、ゼロの前世の前世の前世の……と続くくらい前に、ゼロの魂と同じ魂を持った人物が、いつか現れる災厄のために歴史を知る少女、アノンをこのホールヴァインズ城の辺りに封印したらしい。
そして現れた災厄、ムーンへと対抗せんとして今目覚めたようである。ゼロが西じゃなく、東南北のどれかの住人だったら復活できなかったらしい。
ゼロは笑ってとてつもない偶然だと思ったが、アノン曰く運命によって予め決まられていたこと、なのだという。だがゼロが運命を覆し現れなかったら、と心配していたらしいが。
「まぁ……なんとなく分かったんだが、けっこう矛盾が多くないか?俺の前世の奴らがここに来ていたらお前は復活してたんだろう?それに運命で決められていたのに心配していたって…………。予め、ムーンの登場も、俺自身の存在も誰かのシナリオなんじゃないのかって思えてくるが」
ゼロの言葉を、アノンは無表情なまま受け止めた。
「……それを教えることは出来ない。何故なら、私の記憶の中でさえ消去されている内容なのだ。ただ言えるのは、ゼロ、貴方が貴方であること、それだけだ」
ゼロはため息をついた。
「ただでさえ忙しいのに、また面倒に巻き込まれなきゃいけないのかい?」
「これは、ムーン打倒という目的に連結している。だが、ゼロ、貴方は飲み込みが早いな……」
アノンが初めて少し表情を変えた。
「国王たる者、不測の事態の対応には早くなきゃならないからな。お前、住む場所とかはあるのか?いきなり封印を解かれたんじゃ、住む場所もないだろう?」
ゼロのこの言葉に、アノンはキョトンとした表情を見せた。はじめて見せる年相応の、可愛らしい姿だった。
「私にそんなものは必要ないが……」
ゼロは初めてアノンがややたれ眼ということに気付いた。厳然とした言動からキツイ感じがするが実はとても優しい眼をしている。
「ゼロ、貴方は何故私にそこまで優しくする?」
「なんで……だろうな?ただお前が俺をずっと待ってたなら俺はお前に応えなきゃいけないんじゃないのか?あぁ、あとゼロだけでいいぞ、呼ぶとき。俺も、アノンって呼ばせてもらうからさ」
ゼロが笑って答えた。アノンが困惑した表情で少し頬を赤らめる。
「とりあえず捨て子ってことでいいか?養子登録した後、アリオーシュ家の一員として扱うことになるが」
ゼロがアノンに提案する。手早い決断と判断。ゼロはまるでアノンの兄のようだった。
「……ゼロ……感謝する……。私などに、もったいないお言葉だ……」
アノンがゼロにもたれ掛かり、眼を閉じた。
―――やっと出会えた……我が導き手……。私の全能力をもって、貴方に応えよう……。
ゼロとアノンの出会いが西に幸をもたらすのか?
だが、クウェイラートが北へ出奔したことに、ゼロはまだ気付かない。
揺れ動く時の中で、ミリエラは苦悩する。
ゼロを中心に、物語が、大きな動きを見せ始める…………。
クウェイラートの出奔を知っても、さしてゼロは驚かなかった。いや、冷静にそれを受け止めたといっても過言ではない。
曰く、何となくだけど、雰囲気からそんなことは感じていた、らしい。
アノンと出会ってからゼロは妙に勘が良くなった感じがある。
当のアノンはゼロの家でリフェクトとともに計略、政策を話しているらしい。
西で皆がそわそわしている。理由は明白である。
そう、今日は念に念を入れて計画し、ジエルトとフェイトが入念な準備をした、ムーン暗殺計画の日なのだ。
そして、二人が東へと出発したのを、ゼロは複雑な心境で見送った。
午後、ゼロは自室で久しぶりに眠る時間を作ることができていた。ここ最近、働きっぱなしで、満足な睡眠などした記憶が久しく無かった。
そんなゼロのところに、一人の来客が現れた。
「やっほ~。元気だった?ゼロ♪」
突然の来訪者、それはユフィであった。
ゼロは近頃いつも緊張感を感じていたが、彼女の雰囲気に心和むのを感じた。
優しい、温かい雰囲気が彼女を包み込んでいる。
まるで自分の家のようにゼロの部屋に入り込んできたユフィは眠ろうとしているゼロの隣に腰を下ろした。
「せめて……連絡くらい送れ……。お前を迎える用意も準備も出来ないだろうが」
ゼロが眠そうにまぶたをこすった。
「ん~。でも、あんまし迷惑かけたくなかったからね、あ・な・た・に♪疲れてるなら寝てていいよ?その、なんだっけ?アノンちゃん?その運命染みた女の子に挨拶しに来たんだし。知りたいことも……あるし……ネ♪」
ユフィが笑って言った。普段のゼロならばそれでも相手を気遣ってもてなしをするのだろうが。
しかし彼は気付かなかった。アノンのことをまだ彼女に教えていないことを。
「……じゃあ……お言葉に甘えて寝かせてもらうよ……。家の中を好きに使ってもいいけど、うるさくはしないでくれよ…………」
睡魔には勝てないのだろう。そう言ってゼロはベッドに倒れこんで眠った。寝息をつくまで数分とかからなかっただろう。
「さて……ちょこっと、動かせてもらうからね」
しばしゼロを見つめていたユフィが不敵に笑い、ゼロの部屋から移動した。
アリオーシュ家の会議室で、リフェクトとアノンが二人で話し合っていた。
ゼロがアノンを連れ帰ってきて、新しい家族、妹として登録したときにリフェクトもセシリアもさほどの疑問も不平も持たなかった。兄への信頼もあっただろうが、アノンの不思議な雰囲気に不快感を持たなかった、ということもあるだろう。
「やはり、一度正式に南との軍事的な話し合いの場を持つべきなのでは?」
アノンが難しい顔をしてリフェクトを見た。
12歳程度の少女と、15歳の少年の話とは到底思えなかった。
「う~ん、それは少し時期尚早かもしれない。一度、東と適度に戦って敗北に見せかけ、西の現状を南に知らせてみたほうがいいかもしれない。兄上がこの策を承認するかはわからないけど、背に腹は変えられないんだ。アノンなら、分かってくれるかい?」
リフェクトはゴタゴタしていた最近に、軍学を学び直した。過去に学び、今に学び、ゼロの手助けをできるように陰で彼なりに努力していたのだ。
「私は……まどろっこしい戦略よりも、王道で行くのがいいと思います。でも、リフェクト兄様の考えも無碍には出来ません。ですが、ゼロ兄様ならば、正攻法でもなんとかしてくださる気がするのです。……ごめんなさい……。折角リフェクト兄様が軍事を教えてくださっているのに……。なんの役にもたてなくて……」
アノンが哀しそうな表情を見せた。ゼロと二人の時の大人びた雰囲気、言葉遣いは見る影もなく、年相応の可愛らしい仕草が目立った。案外、演技派なのかもしれない。
「え、え?!いや、大丈夫だよ。アノンは他の子やセシリアと比べたらずっとずっと優秀だからさ!!」
リフェクトが慌ててなんとか言葉を紡いだ。おそらく将来尻に敷かれるタイプなのだろう。
「でも、もう少し周囲を警戒して話し合った方がいいんじゃないかな?小さな軍師さんたち♪」
作戦会議室の扉の前に、ユフィが立っていた。
「まぁ、今日は大した用事じゃないから気にしないけどね♪」
ユフィが満面の笑みを浮かべて言った。
―――この女……悪意がないのか?ふむ……ゼロが惹かれた理由もなんとなく分かるかもしれないな。
―――この人が……ユフィさん……。兄上の妻……。至近距離で見るのも話すのも、よく考えれば初めてだな……。
「お人が悪い……。入るならノックの一つでもしていただければよかったのですが?義姉上」
兄の妻であり、エルフの中でも指折りの美女を前に、リフェクトは緊張気味に丁寧な言葉を紡いだ。
「初めまして……。アノンです」
アノンが丁寧に礼をした。
「貴方がアノンちゃん……?リフェ君、ちょっと外してもらえる?アノンちゃんと話したいことがあるの。女同士の、ネ♪」
「は、はい」
リフェクトが退出し、不思議な雰囲気が流れた……。
ジエルトとフェイトは予ねてから計画していた通り、個々に東領へ向かっていた。
―――まぁ……殺せるかどうかは微妙だが……。せめてスフライの野郎にゃ、一発喰らわせにゃ気がすまねぇな……。
ジエルトが、恐ろしく静かに、普段からは考えられない無表情で東へ向かっていた……。
―――ウェルド・ユール……絶対に……殺す……!!
フェイトが、心の中で闘志を燃やし東へと向かっていた……。
まだ二人は、罠にはまっていることに気付いていない……。
その頃ゼロは……頭の近くにクローバーを置いて、熟睡していたという……。
「お話……とは……?」
アノンが恐る恐るユフィに尋ねた。ユフィは少し呆れたような表情を見せた。
「そんな猫かぶらなくてもいいわよ。貴方が何者なのか、だいたいの見当は付いているの。ナターシャ家の歴史を侮らないことね。運命の楔、でしょ?」
アノンの表情が怯える子犬のような表情からゼロと二人のときの、冷めているような、悟りきっているような大人びたものになった。
その変化は違う人のように感じられる。
「ユフィ・ナターシャ……。貴女はどこまで知っている?」
厳正な、厳かな声がアノンから発せられた。
多重人格と思い込むしかないくらいに、人が違う。
「少なくとも……ゼロよりは……ネ?大いなる神々の戦争の際、神の一人、イシュタルの矛として戦った楔が貴女。でもイシュタル直接の、じゃなくてイシュタルの軍勢で向かうところ敵無しを誇った闘神アリオーシュの、でしょ?まぁ、そこら辺の話はくわしくないんだけどね」
ユフィが不敵な笑みを浮かべた。どうやら、ゼロの知らないことをユフィは知っているらしい。遥か昔のことらしいが。
「……今回は……貴女がゼロの妻ということに免じて追求はしない……。だが……知りすぎることは、神の逆鱗に触れるということを肝に銘じておくことだ……。次に軽々しく我が主アリオーシュの名を口にしたとき、私は貴女を許さない」
彼女の姿からは想像もできない静かな声音と表情に流石のユフィも戦慄を覚えた。冷や汗が額を伝う。
太古の昔の矛に、現代の力が到底及ぶとは思えなかった。
「まぁ……今回はだいたいのことが確認できたからいいわ。でも、ゼロには……貴女の口からちゃんと伝えてね……。私からの、お願いよ」
ユフィが何かを呟いた。刹那の間でユフィの姿が消えた。
ムーン同様の、〈空間系〉の魔法を応用した、空間転移魔法を行使したようだ。
かなりの高難度のため、使える者は限られている。
「私は……その資格がないのだ……ナターシャよ…………」
アノンが、暗い表情を見せた…………。
「よし、そろそろ……かな……?」
ベイトが支度を整え、ゼロの司令通りに、東へのスパイとして出発した。
「じゃあ、お姉ちゃん、行ってきます」
リエルも同様に、北へと向かった。
ゼロの計略が、進んでいく。
「なぁんか、変な感じだなぁ……。ここ」
フェイトが周りの空気の変化などから異変に感づいた。
「おいおい……どこだぁ?こりゃ?」
ジエルトも何かに気付いた。
そして二人は、すぐ近くにいることに気付いた。
鬱蒼とした、フォレストセントラル付近のように暗く、生い茂った木々の場所に二人はいた。
「ありゃ?ジエルトのおっさん、道間違えた?」
「馬鹿野郎。おめぇが間違えてんだろうが」
二人は顔を見合わせた。
そして項垂れたような、疲れたような表情を見せた。
「はぁ……やっぱ俺たちって」
「策にはまったみてぇだよな」
二人が仕方なくともに歩き始める。歩き方から、歴戦の戦士の風格が伝わってくる。
刹那、二人が左右に飛び跳ねた。二人のいた位置から爆炎が上がった。
「さすが……腐っても虎狼騎士、ということか」
魔術師のような黒いローブを羽織った少し線の細い、それでいて負のオーラのようなものを纏っている男が、左に跳ねたフェイトの前に現れた。フェイトの表情が怒りに染まっていく。
「てめぇは……忘れもしない……ウェルド……ユール……!!」
「勘は、鈍ってないようでなによりですよ……。ジエルト先輩」
右に跳ねたジエルトの前に、一見は優男の、長身痩躯の男が現れた。フェイトより、少し若いくらいだろうが。
「ス……スフライ……いまさらお前に先輩呼ばわりされる筋合いはねぇんだよ!!」
ジエルトが得物の斧槍、ハルヴァードを構えた。
「私の名を知る貴様は、昔我が呪いを受けた馬鹿な人間だな?まだ生きていたのか……。まぁ……西は比較的差別を嫌う地方。拾われた所が恵まれていたな……。だが、その命も、ここで尽きる」
ウェルドがゆっくりと、静かな声音で語った。その口調とは裏腹に、その言葉の中身はフェイトの死の宣告である。
「さぁな……そいつは、やってみなきゃわかんねぇぜ!!」
フェイトの拳が唸り、ウェルドへ一直線に伸びた。だが、その拳は虚しくも空を切った。
すぐさま体勢を整え、裏拳、ローキック、ハイキック、踵落としと連続的に攻撃するがすべてが紙一重でかわされた。
フェイトが一旦間合いを取るため飛び退いた。
「なんだ?その程度で私を殺そうというのか?スフライと同じ虎狼騎士のくせに断然弱いではないか。その程度で東へ来るとは、笑止だな。精々がムーン様の暗殺でも考えたのだろうが、ムーン様の足元にも及ばぬ実力で、身の程を知れ」
ウェルドが詠唱し、手が薄く輝いた。
「求めるは 黒き炎 アンチファイア」
ウェルドの手が、身体が一瞬発光し、フェイトを炎が包んだ。
いや、紙一重のところで直撃は避けたようだが、左腕が焼け爛れ、見るも無残になっていた。痛々しく、黒く焦げている。
「どうだい?避けたぜ?元南一の魔法使いさんの攻撃をよ?」
フェイトが苦しげに挑発した。顔から冷や汗が、脂汗が流れ落ちている。我慢してはいるものの、激痛に耐えかねているようである。
「だが、貴様は痛手を負った。戦いは相手が死にこちらが生きていればいいのだ。手数や過程など問題ではない」
ウェルドが次の呪文を唱え始める。
―――ちっ!どうする……?やっぱ……あわよくば相打ち……かな……?わりい……ゼロっち……。俺……生きて戻れそうもないわ……。
「ウォォォォォ!!昇竜飛翔!!訊け!!!虎狼の……雄叫びをぉぉぉ!!!!」
フェイトの拳が唸り、ウェルドの身体を貫いた。ウェルドが倒れる。
―――……?手ごたえが……ない……?
フェイトはもう体力の限界で、腕も上がらないようである。本来なら両手の技なのに、片手で行ったのだ。神経がズタボロである。
「お見事……。手負いの獣は、やはり怖いものだったな。幻影を作らねば私も無事ではなかっただろう……。だが、私は貴様の攻撃を避けた。もう貴様に手はあるまい。では……死ね」
ウェルドの手が光った。
すべてがゆっくりに見える。
視界が霞む。
自分の身体が自分のものでないような、感覚が失われていく。
フェイトの眼に、光の矢が向かってくるのが映った……。
フェイトとウェルドが戦い始めるのと同じ頃。
「先輩と戦うことになるとは、夢にも思いませんでしたよ。知ってますか?ウォービルさんは、今東にいるんですよ?軟禁状態、ってやつですが。ひどく息子のこと、ゼロくんでしたっけ?彼のことを心配してますよ。まったく……親馬鹿ですよね?ふふふ、栄光の騎士は酒に溺れて、英雄は親馬鹿。過去の虎狼三騎士と言われた僕たちがこんなで、世も末って感じですね。ふふふ、アハハハハ!」
少し高い声でスフライは笑った。ジエルトがずっと睨んでいる。
「……何ですか?先輩。そんなに怒らなくてもいいでしょ?事実を述べてるだけなんですから。もしかして、僕のこと殺そうとか思ってますか?アハハ!」
スフライの、声のトーンが変わった。
「無駄ですよ。先輩じゃ、僕は殺せない」
ギィィィィィン!!!!
高い音が響き、スフライは後退した。高速の如き速さで打ち込んできたジエルトの斧槍を受けたのだ。スフライの得物は、特殊な形状をしていた。剣の中ほどから、二又に分かれて伸びている。片方のほうが少し長いようだ。だが短い方を避けても、長い方で斬られる形になるだろう。もちろん、短い方も受けてしまえば同じ部分を二度斬られる、切断されることになるだろう。
ジエルトがまた一瞬で間合いを詰めるほどの速さで動き、斧槍を振った。恐ろしく速く、鋭い。普段の酔っ払いからは想像できない、栄光の騎士と呼ばれる由縁がそこにはあった。
「ひゅう♪相変わらず、太刀筋だけは速いですね。でも……!!」
スフライの剣がジエルトを襲う。ジエルトは飛び退いた、が、こめかみを斬られ、傷の見た目よりも派手に出血した。
「攻撃の後の余韻ですか?避けられた後の動きが鈍いのは変わってませんね。敵を一撃で必ず仕留められるとは思わないでください」
スフライは笑っていた。
だが、その刹那。
ヒュン
そんな軽い音がしたと思うと、スフライのこめかみからも鮮血が流れた。ジエルトと、全く同じ傷である。
「しゃべってる余裕なんざねぇぞ。次は、その口がもう二度と開けなくなるぜ」
ジエルトの睨みには、恐ろしいものがあった。
「……全く……。今が殺す最大のチャンスだったのに……殺さなかった、っていうのは解せませんね。唯一無二のチャンスを自ら消したなんて……。今殺さなかったこと、今に後悔しますよ。相変わらず……生温い人なんだから……」
スフライの剣を、ジエルトの斧槍が防ぐ。避けられない攻撃は、防げばいいのだ。防げなければ、避ければいい。戦いに馴れれば馴れるほど、思考は単純で、それでいて最適になっていく。
その後は、互いに決定打を打てぬままの、打ち込み合いが続いた。
次第に、ジエルトの斧槍の動きが鈍くなる。
「そろそろ決めますよ!!
朱雀!!炎帝!!訊きなさい!!!虎狼の雄叫びをぉぉ!!!!」
「そりゃあ、虎狼騎士の専売特許だろうが!!見せてやるぜ!!本家虎狼騎士の一撃をなぁ!!
玄武!!光雷!!訊きやがれぇ!!!虎狼の雄叫びをぉぉぉぉぉ!!!!!」
二人の闘気がぶつかり、衝撃波が発生した。激しく地が揺れる。
そして、立っていたのは……スフライだった。どうやら右腕は動かないらしいが。
倒れているジエルトに、スフライが剣先を向けた。
「だから言ったでしょう?先輩は甘いって。これで、ジ・エンドです。さよなら、ジエルト先輩……」
身体が動かない。
視界が働かない。
何が起きているのか。
鼓動が速いのか遅いのか?
感覚が急速に失われていく。
スフライの剣が、振り下ろされた。
無常にも、二人が死を覚悟したのは、ほぼ同時。
―――わりい……ゼロっち……俺……死んだ……。
―――すまん、ウォービル……。先に逝くぜ……。ゼロ……夢、叶えろよ……!!
フェイトと、ジエルトの命の炎が、消えた。
フェイト・クリオネート、ジエルト・ヴァジル、戦死。
そのころ、ゼロはふと眼が覚め、何故か頬を伝っている涙に疑問を持った。
―――……?あれ……?もしかして……この感じは……。まさか……フェイトとジエルト……が……?
事実を知るのは、まだ先のこと。
だが、二人の死は変わらない。
二人の死は、ゼロに、ムーンと、その配下の三人の大きさを、強大さを見せ付けた。
ゼロに勝ち目はあるのだろうか。
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