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第16章
宿命の星の下
ゼロとウォービルの攻防はすでに15分を経過していた。
一進一退。気を抜いた瞬間、死が訪れるようなそんな極限の戦いの中、段々とウォービルの動きが悪くなっていった。
彼は実のところしばらくの間――拘束されて以来――ほとんど何も飲まず食わずなのだ。そんな彼を支えるのものは唯一つ“信念”であった。
『エルフの森に、幸あれ。何人も苦しむことなく、平等であれ。その為ならば、この身がどうなろうと構わない。喜んで平和の為の礎となろう』
生粋のエルフであり、騎士であり、そして、父親であり。
息子と剣を交える彼の心境を、知るものはいない。
「らぁぁぁ!」
ゼロの叫びが木霊する。その渾身の一撃は、ついにウォービルの体勢を崩させた。
片膝をつき、急に緊張の糸が解けたようにどっと疲れを感じる。立つこともままならないようだ。
だがゼロとてずっと全力で戦っていた。かなり疲労しているようである。
「どうだ……あんたの息子は、あんたがいなくてもここまで強くなったぞ……」
肩で呼吸をしながら、ゼロは責めるような口調で言い放った。
「流石……俺とゼリレアの子だ」
深い、重みのある声でウォービルは言う。そしてゆっくりと立ち上がった。
素直に褒められるとは思わなかったのか、ゼロは怪訝そうな顔をした。
「次の一撃を最後にするぞ。殺す気で来い」
父親の言葉を、ゼロは重く受け取った。
「……いいだろう」
神経を研ぎ澄ます。
足先から頭まで、剣先まで、全てに神経を通わせる。
周囲の音が、明瞭に聞こえる。
虎狼剣術において奥義の基本とされる、“無の境地”である。
そして、二人が動いた。
「え……?」
二人が交差した瞬間、ゼロには信じられないほど軽い手ごたえを感じた。
呆然としたまま振り返る。
そこには、大きな父の背中。
「……本当に、すまなかった……。強く……なったな……ゼロ」
震えた声で父が言う。彼は泣いていた。騎士として、あらゆる者から尊敬され、崩れることのない不屈の精神と信念を持った男が、息子の前で涙を流していた。
彼は全く攻撃などしてこなかった。
初めから“息子”に勝たせるつもりだったのだ。
いまさらになってそれを実感する。
ゼロの一撃は、文字通り必殺の威力を持っていた。
「何があっても……お前の“信念”を貫け……」
すでにボロボロだったウォービルはゼロに最後の言葉を残すと、立ったまま事切れ、そしてゆっくりと地に伏せた。
「……最後になって……父親面して逝きやがって……」
最後の最後、命のやり取りの中で感じた、父の優しさ。
ゼロの哀しい思いが、森の中を駆け巡った。
しばらく経つと、一つの扉が開いた。
「進め、ってことか」
ライダーはその扉を見て、歩き出した。
「おい、ゼロ。俺らは先に行く。その……なんだ、一息ついたら、追って来い」
ライダーの不器用な言葉に、ゼロは温かいものを感じた。
「わるい。すぐ行く」
そうしてゼロを一旦残し、一向は先へと進んで行った。
同じような廊下を進むと、また扉があった。
その扉を開けるとまた同じようなバトルフィールドがあり、今度は一人の女性が立っていた。
「俺の相手だな」
その相手を見るやいなや、ライダーが飛び出した。
そう。その相手は、以前虎狼騎士たちを見事に蹴散らした魔法使い、ミル・シャドウであった。
「まったく……戦略とかなんとか、少しくらい考慮してもいいんじゃないのかなぁ……」
いい加減呆れてきたのか、ベイトが苦笑交じりに呟いた。
「気持ち的な問題だよ。そういうメンバーだしね」
テュルティのつけたしに、ベイトは言葉もなく納得した。
「この時を待ちわびたぜ。お前のことを思うと、おちおち眠ってもいられなかったんでな」
はき捨てるようなライダーの言葉。だが、どこか戦えることを楽しそうにしている。
「ふ……生憎、こちらには君に対する思いはこれっぽっちもないんだ……。この前のようにはいかないよ。あっと言う間に、君はこの世を去るのさ……」
ミルの言葉が終わるや否や、二人が動いた。
戦いの始まりのパターンは、先手を取り攻めから入るか、後手を取り守りから入るかの2パターンがある。二人とも速攻を求める、先手を取るタイプのようである。
だが先手を取り損ねた時、それは最大のピンチにも成りえる時でもある。
ファストキャストで唱えられた攻性魔法を避わし、ライダーの高速の剣が残光を残した。前回の戦いから分かるよう、二人の実力はほぼ伯仲している。
ミルの魔法はライダーのすぐ側、ギリギリの位置で発動することはあるが、けして捉えることはなく、同様にライダーの剣もミルに紙一重で避けられている。
―――ち……実戦経験の差か……。剣の動きが読まれてやがる……。
このライダーという男、猪突猛進で何も考えていないようだが、内なる闘志は冷静で落ち着き払っているようである。
一旦ライダーが距離を取った。
「どうしたんだい?剣士が間合いから出るとは、負けを認めたってことかい?」
ミルは半ば勝利を確信していた。前回と今回の僅かな攻防から、ライダーがまだ実力を埋めざるをえない環境にあることを察し、戦略のパターンを読みきっていた。だが、自分の魔法は組み合わせ次第でまだまだ未知数の手も残っている。
「いつの時代の勝敗のつけ方だそりゃ。そんなんじゃねぇ。本当はムーン戦まで秘策として隠していたかったんだが、“ミューとの約束”の手前、絶対に勝たなくちゃいけないんだよ」
ライダーは不満そうにそう言うと、軽鎧の内側から、彼の愛剣よりもふた回りほど小さい小剣を取り出した。
右手にはいつもの剣、左手にはその小剣、型はあまり変わらないが、皆始めてみるライダーの二刀流であった。
「剣が1本から2本になったところで、何も変わらないよ……」
「そうつぁどうだか……!」
一瞬にして間合いを縮めたライダーの動きに、ミルは変わらぬ反応をした。
彼の一振り目を避け、魔法を詠唱しようとしたとき、ライダーの二振り目がミルを捉えた。慌てて避けようとしたミルのわき腹を彼は捉えていた。
薄黒いローブが、赤黒く染まった。
「ほぉ……。ただ剣を振り回すだけじゃなく、タイミングをずらしてこちらの詠唱を崩すとは……馬鹿じゃないようだね」
今この瞬間に命のやり取りをしているようには見えない会話だった。
「見せてやるぜ。ライダー・コールグレイの真の実力をな……!」
その言葉通り、彼の二つの剣はミルに詠唱の余裕を与えなかった。だが、避けるだけなら、そう難儀なことではないようだ。
―――……先に体力が尽きたほうが負けか……。“魔法使い”にはキツイな……。
ミルはこの剣を避わすからには、魔法を唱える余裕がないことを察していた。
ライダーは相手を体力のない魔法使いと判断し、完璧に持久戦に持ち込むつもりのようである。
敵の攻撃を見切り、避けながら魔法を唱えることは至難の技であり、相当な体力を消耗してしまう。
だがライダーの二刀流も並々ならぬ体力を消費しているはずである。彼の馬鹿みたいな体力をもってしても、だ。
二人の攻防は、長く続く予兆を見せた。
父の亡骸を後にし、一先ず気持ちに整理をつけたゼロの前に、待ちに待った女性が姿を現した。
そのふんわりとした桃色の髪が軽く揺れ、風に吹かれる花を連想させる。全身から醸し出される美しさが、見るもの全てを惹きつけ魅了する。
妖精のような美女であり、ゼロの最愛の女性にして最愛の妻、ユフィであった。
「あ……んと……ただいま、ゼロ♪」
少し何を言おうか考え、そしてすぐさま明るい、透き通った声がゼロの耳に届けられた。
何を言えばいいのか、今自分はどんな顔をしているのか、そもそも今までどこにいたのか、など頭の中はゴチャゴチャしている。だが、ユフィの顔を見られただけで、『ただいま』の一言があっただけで、悩みなどどこか遠くにいってしまいそうだった。
「おかえり、ユフィ」
自分でも信じられないくらい、儚く、優しい声が出た。ゼロは両手を広げ彼女を迎え入れた。
嬉しそうにゼロに抱きつくユフィから、今の状況を忘れさせてくれるような、いい匂いがした。
「心配かけたかな……?」
彼に身を預けながら、少し首を傾け上目遣いに、少し答えを恐れるながらもユフィはゼロにそう尋ねた。
「当たり前だ。ったく、俺の身にもなってみろって……」
ゼロの言葉とは裏腹な優しさが、ユフィには心地よかった。
自分が彼を心から愛しているように、彼も自分を心から愛してくれている。
「あう……ゴメンね」
ゼロはユフィを強く抱きしめた。
「ホント……無事で何よりだよ……」
きっと自分に聞きたいことは山ほどあるのだろうが、あえて何も聞かないゼロの優しさ、温かさ、愛情などに触れ、ユフィはしばらくその身をゼロの身体に預けた。
―――やっぱり、ここが一番だな……♪
ユフィは幸せそうに、ニッコリと笑みを浮かべていた。
5回の攻撃につき大体1回程かすり傷をつけられるかつけられないか程度の攻撃しか、ライダーには出来ていなかった。
その様子を見て、リンが思わず呟いた。
「あの敵さん……魔法が本職じゃないんじゃないかな……。あの動き……あの戦い方、どこかで見たことがあるような……」
その一言は全員にとって意外な一言に他ならなかった。全員がライダーの戦いから目を離し、リンを見る。
「ベイト先輩、剣術部に全部右足を軸に行動パターンが決まってる人、いませんでしたっけ……?」
続けてリンがベイトに問いかけた。彼女の視線だけは、ライダーの戦いから外れない。
彼女はどうやらミルを、ゼロたちと同期の剣術部の先輩と感じたらしい。
「全部……右足。……あ……いたね!そうだ、彼女は確か東の貴族だった。とすると……彼女は……ゼリオ・ヴォック?」
ベイトは改めてミルを見た。貴族学校時代とは髪型が大分変わっていて、顔もよく見えないため確証は持てないが、確かにそう言われればそんな気もしないでもない。
―――この子は……なんて洞察力だ……。
ベイトはリンのポテンシャルの高さに、正直に驚いていた。
「そろそろ、ばててきたんじゃないかい?」
ミルがライダーと数メートルの間隔を置いて問いかけた。
「それは、俺の台詞だぜ」
負けじと強気に答える。
実際のところお互い同等に、相当疲労しているようである。
己の限界ギリギリの戦いを、二人は長く続けているのだ。
すでにいつ身体が悲鳴をあげても可笑しくない、気持ちだけで戦っているようなものであった。
「俺としちゃ、そろそろ負けを認めてくれると助かるんだけどな!」
一旦間を置いた所為だろうか、ライダーの動きは若干遅くなっていた。だが、ミルの動きも同様に鈍くなっている。
「お生憎様、それはできないんだよ……!」
一瞬をついて放った魔法は、どこを狙ったのか分からないほど、当て外れの方向に向けて発動した。
「……ちっ……!」
それに何より驚いたのは、ミルに他ならなかった。
「身体は正直らしいな……」
その様を見て、ライダーは剣を引いた。
「負けを認めな。お前の負けさ」
どこか、貴族然としたライダーの言葉に、ミルの反応は意外だった。
「フ……本番はここからさ……」
ミルは羽織っていた黒のローブを脱ぎ捨てた。その下には、軽鎧を纏った、華奢な女性の身体と、一振りの細身の剣。そして、どこか見覚えのある顔。
「死四天が一人ミル・シャドウ。……改め、ゼリオ・ヴォック、参る……!」
急に速さを増した彼女の剣を、ライダーは捌き切れなかった。頬に傷を負う。だが、痛みよりもそれ以上に、彼女の名乗った名前が彼を驚かせていた。
「ゼリオ……だと?」
ゼリオ・ヴォック。同い年の、ゼロが部長だった剣術部の一人だった、どこか不思議な感じのした女性、とライダーは記憶していた。
「名前がどうしたっていうんだい……?まぁ……過去を言うならば、私は一度も君に剣では勝てなかったね……」
ふと思い出すように語りだしたゼリオの言葉を、ライダーはかみ締めるように聞いていた。
「でも、今は違う!私は、もう君には負けないよ……!」
彼女の剣は、力こそないものの、速かった。その速さに、ライダーはついていけてなかった。
実戦経験も積まれている。そんな彼女の戦い方。
「ちぃ…………」
思わず舌打ちしたくなってしまうような状況。
―――なんだって……なんだってコイツと戦わなきゃならねぇんだ?!
その迷いは、切なく、そして致命的であった。
理由は分からないが、ムーンのために剣を振るうことに躊躇いのないゼリオ。
明らかに知っている者を殺すことに躊躇いのあるライダー。
この差は明らかに勝敗を露わにしていた。
ゼロとユフィは再会の喜びに一区切りをつけ、ベイトたちを追おうと足を運び始めた。
が、不意にどこか懐かしいような、不気味な気配を感じた。
「…………?」
だが、いまいち実態が掴めない。そもそも、本当に気配を感じているのかも危うい、それほど希薄な気配。
「ユフィ、ちょっと先に行ってくれ」
いまいち説明は出来ないが、ゼロはユフィにそう告げた。
「ん。りょ~かい」
ゼロの顔に、説明できない、曖昧なんだが、というような事情が表れていた。
それを見てユフィは何も聞かず先行した。
一旦振り返り。
「心配いらないとは思うけど、気をつけてね?」
ゼロは言葉には出さず、軽く微笑んで頷いた。
もう一度、父の亡骸があるはずの場所に戻る。
だが、そこで見た光景は、ゼロの予想に反するものだった。
そこにウォービルの亡骸は無く、最近姿を見ていなかった、だが大切な女性が独り立っていた。
「ミリエ……ラ?」
疑惑を持って問いかける。
だが、間違う筈がない。
虎狼騎士の制服を身に纏い、簡素な制服を着てもなお、美しさを感じさせるその女性騎士は、ゼロの片腕として彼を支えてきた大事な仲間だ。
ミリエラがゆっくりと振り返る。
そして、変わらぬ笑顔で微笑んだ。
「久しぶりね、ゼロ」
その姿は以前と何ら変わらない。だが、何かが違う。
―――これは……ミリエラ……なのか?
ゼロも、自分の感覚が分からなくなる。
「懐かしくて、殺したいくらいよ!」
急に声を上げ、ミリエラがゼロに切りかかった。
「?!」
慌ててその剣を避けるゼロ。だが、完全に彼は困惑していた。
―――洗脳……か?ちぃッ、どうなってやがる?!
彼も抜刀しようとしたが、ミリエラの姿を、顔を、瞳を見てしまったために彼は抜刀を躊躇った。
「ミリエラ!何のつもりだ?!」
わけが分からず、ゼロは怒鳴るように尋ねた。
するとミリエラは臨戦態勢をやめ、ゼロと一定の距離をおいて対峙した。
「私は、貴方を愛しているわ」
「え?」
唐突な彼女の告白に、ゼロは言葉を失った。
「だけれど、貴方が私の気持ちに応える前に、貴方は私じゃないヒトを愛してしまった」
「………………」
ゼロは黙って彼女の言葉を聞いていた。
「私がどういう気持ちだったか分かって?」
ゼロは無言。
「分からないでしょうね、だって貴方はとても魅力に溢れているもの。私にはそれが、狂おしいくらい憎いのよ!」
また切りかかってくるミリエラの剣を、ゼロは避けなかった。目もそらさず、彼女の剣が自分の命を奪うのを見届けようとした。
だが。
「く……うぅ……!何故?!何故私は貴方を殺せないの?!」
ミリエラの剣は、ゼロの首筋2センチ手前位でピタッと止まった。
―――……アノン、今のミリエラの状態が分かるか?
ミリエラの反応を見て、ゼロはアノンに問いかけた。
―――あぁ……分かると言えば分かる、だが……言いにくいが……もう彼女を助ける術はない。ゼロ、貴方の手で彼女の命を絶ってあげることが、彼女を助ける一番の道に他ならない。
「何だって?!」
ゼロはアノンのその言葉に驚き、思わず声を上げた。ミリエラはというと、自分が何故ゼロを殺せなかったのか、ということについて頭を抱えているようだ。
―――彼女は、彼女の魂は既に……死んでいる。おそらく、前回の戦いの時、クウェイラートと刺し違えたのだろう。だが、彼女はゼロ、貴方への愛を打ち明かせなかったのが心残りだった。そしてそこをムーンに利用されたのだろう。
アノンが淡々と、重苦しい声で説明する。
―――古代魔法の一つに、特定の感情を残して死んだ者に、その目的を果たさせる為に再び魔力で生み出した命を吹き込むものがある。大戦中、兵不足を補うためにアシモフの配下が使った魔法だ。
アノンの説明に、ゼロは愕然とした。
―――ミリエラが……死んだ?
古代魔法については、アノンが言うのだからそうなのだろう。だが、ミリエラが死んでいる、その事実をゼロは受け入れることができなかった。
―――それが……現実なのだ……。ゼロ、彼女を殺してやってやれ。いや、彼女を……救ってやってやれ。
貴族学校時代から、特に仲がよかったミリエラ。虎狼騎士になってからも、彼女は才能をフル活用し、いつも作戦の傍らにいてくれた。
そんな、大切な仲間が知らぬ間に失われたなんて。
自分はなんて馬鹿だったのか。
ゼロは、納得できないまま刀を抜いた。
ついに、ゼリオの剣がライダーを捉え、その剣はライダーの脾腹を深く貫いた。
引き抜かれた剣の痕から、赤い血がとめどなく流れる。
ライダーはたまらずその場に倒れ伏せた。
―――痛ぇ……くそ、死ぬのか……?ゼリオっていやぁ、俺より弱かったのになぁ……。っくしょう……っくしょう……!
「これが力の差さ。悪いけど、ライダー。死んでもらう」
そんな言葉は彼の耳には届かず、バトルフィールド外のベイトたちの声もライダーには届かず、ライダーにはただ、決戦前のある日が思い出されていた。
月明かりがぼんやりとした、そんな日だった。
コールグレイ家に一人の客人が現れた。
その客人の目的が自分であるらしく、ライダーが面会したのはミューであった。
「珍しいな、お前がうちにくるなんてよ」
コールグレイ家の教育は厳しいようだ。普段なら着なさそうな立派な貴族服をライダーはきっかり着込んでいた。それがちゃんと似合っているのだから、ミューは思わず笑いそうになった。だが、それをこらえて。
「少し、お話しがありまして。お時間、よろしいですか?」
ライダーはこの物腰穏やかで礼儀正しい女性が嫌いではなかった。周囲から天真爛漫、猪突猛進と思われがちのライダーだが、好みの女性はコールグレイ家の家風にあった、おしとやかでもの静かなお嬢様だった。
「あぁ、構わないぜ」
向かい合って、客間のソファーに座る。ミューがここを尋ねにきたことはおろか、ミューとこうして話したこともないライダーは妙に緊張した。
なんとなく雰囲気を気まずく感じていた時ドアがノックされて、メイドが比較的アルコール度の低いウイスキーを持ってきた。グラス2つと氷を置いて、また退室する。しっかりとした、優秀なメイドだろう。
「アルコールは、大丈夫か?」
自分はいつも飲んでいるため、メイドが置いていったことに何も疑問を抱かなかったが、ミューもそうとは限らない。だが彼女は微笑んで。
「大丈夫です。そんなに弱くはありませんので。それに……多少アルコールが入ったほうが、話しやすいものですし」
そう言ってくれたので、ライダーは2つのグラスにウイスキーをついだ。
二人は軽く一口飲んだ。
その様子から彼女のアルコールの強さをライダーは察した。
「で、話しってのは?」
ライダーが何気なく本題を尋ねる。
「えぇ。そのことですけれど、前回東の死四天を名乗る者に強襲されたとき、私たち虎狼騎士はなす術もなく無様に敗れ、貴方も相打ちのような形になったことは、覚えていますよね?」
忘れたくても、忘れられない。それほどライダーにとって大きな出来事であった。
「あぁ」
出来る限り素っ気なくライダーは答える。
「お互い、憎い気持ちは同じだと思います。ですが、実際に彼女に勝つのは容易ではないはず。それに、そんな気持ちを二人が持ったまま二人で挑んでも、敗北は明らかな上、二対一では正々堂々でもありません。そこで次の決戦の時、彼女に挑むのがどちらか、それを決めにきたのです。お互い、どちらが戦うことになっても恨みっこなし。そして挑むことになったほうは、必ず勝利する。どうでしょう?私の案、受け入れてはくれませんか?」
ライダーは彼女の提案と、彼女の考えの深さに驚いた。そして、グラスについだウイスキーをグッと飲み干し。
「いいぜ。じゃあ、その挑むほうは当然強ぇほうだろ?“決闘”、といこうじゃないか」
ミューはそのライダーの答えに満足したようだ。これから決闘する相手に贈るものとは思えぬほど柔らかく、優しい微笑みをライダーに見せた。
そして、今ライダーはこうしてその憎い相手と戦っている。
倒れ伏しているが、床の冷たさだけは心地よく感じられた。
そんな状況下でも彼の心は、闘志は、熱く、熱く燃えていた。
「……るわけにゃいかねぇ……。負けるわけにゃ……いかねぇ!!」
ライダーは痛みを押し殺し、気合で立ち上がった。その顔には恐ろしいほどの、鬼もたじろぐような壮絶な表情が浮かんでいる。
「俺一人で戦ってるんじゃねぇ。俺は、アイツの気持ちと一緒に戦ってるんだ!!」
ライダーの頭の中には、天使のように優しく微笑んだミューの笑顔がある。彼は、彼女に惚れてしまったようだ。
恐るべき速さで剣を繰り出す。
まさか、ライダーが立ち上がってくるとは。
思いもよらない事態にゼリオは困惑し、反応が遅れた。
そしてライダーの繰り出した剣は、確実に彼女の胸部を貫いた。
ゼロとライダー。お互い戦いにくい相手と戦っている。
だが、負けるわけにはいかない。
何があっても、何を失っても、敗北は許されない。
彼らは戦い続ける。
未来のため。
真の平和のため。
そのためにどれほどの血が流れるのか、それは分からない。
だが、勝利を信じて。
彼らはひたすらに武器を振るわなければならない。
宿命の戦いは、最後の時に向けて、確実に進んでいる。
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