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第18章
誰がために
外で戦う連合軍。ミューの鬼神の如き働きと、シスカの奇策で正面と右側の部隊は見事に優勢であった。だが、左側の軍を預かったクローの軍は壊滅的だった。
半ば戦いを放棄し、生きることさえも放棄していたようなルティーナが突如として戦い出したのだ。それを待ってましたと言わんばかりに東の兵も活気付く。
あっという間に形勢は逆転された。元よりクローには荷が重すぎたのかもしれない。
ミューの部隊は既にアルの部隊との戦いで疲れ果て、援軍に向かう気配はまだなく、シックスとシスカのいる部隊には、そもそも残存兵が少ない。元々崩れかけたところを、ハンゼルのおかげでコトブキらを撤退させた、一度は敗北に傾いていたのだから仕方がないだろう。その虎の子のハンゼルも長時間雨に打たれた所為か動かなくなった。シスカ曰く、「材料安っぽかったからなぁ」らしい。シックスは、命の冒涜のように感じたが、あえてそれは言わなかった。あえて言うなれば、自分を救ってくれた感謝くらいなものである。
最初はさして戦況に影響を与えないと思われていた雨だが、こう何時間も降り続いているため地面もぬかるみ、大いに戦局を左右しているようだ。また、濡れた装備は重くなり、兵たちを動きにくくしている。
そんな状況の中、クローは必死に剣を振るっていた。
「退くな!虎狼騎士の意地を見せろ!絶対生きて帰るんだよ!!」
―――シェリル……見てろよ。必ず、仇は取ってやるからな……!!
彼女が死んでから、クローは一心不乱に剣術に打ち込んだ。ひたすらに強くなりたかった。自分には虎狼九騎将のように優れた才能がないことは分かっていた。だが必死に、必死に剣術に打ち込んだ。
その結果が今如実に表れている。彼の剣は鋭く、重い。
返り血と泥で凄惨な顔になっているが、その目に秘められた正義が燃えていた。
だが彼の夢は唐突な、無残すぎる現実によって潰された。
「え?」
腹部が燃えるように熱い。声が、出ない。
視線を下げると、腹部から剣が突き出ていた。その剣の刀身は、べったりと赤い血を纏っている。
口から血を吐きながら、クローは後ろを向こうとした。剣がよじれ、激痛が走り、さらに血が溢れる。
彼の背後には、かつて貴族学校時代に後輩であった、ルティーナ。
彼女の瞳には、何もなかった。感情も、希望も、光さえも。
クローが何か言おうとして、だが何も言えずに力なくうなだれたのを見て、彼女は剣を引き抜いた。
―――ちくしょぅ……。ここまでかよ……死にたく……ねぇよ……シェリ……ル……。
そこで彼は事切れた。
元先輩であり、知った顔であったクローを顔色一つ変えずに殺害し、なおも連合軍の兵を斬っていくルティーナ。
彼女を止めるものは、何も無かった。
クローたちの部隊は崩壊した。
その30分後ほど、陣にて休んでいるミューの下に、クロー戦死の知らせと、部隊壊滅の知らせが届いた。
「なんですって?!クローが……。そうですか、分かりました。動ける全兵をもってルティーナに当たります。準備出来次第、各個出撃しなさい!」
ミューが再び刀を手に、戦場へと駆け出す。赤く染まった彼女の背中はとても小さく、だが、非常に頼もしく見えた。
次のバトルフィールドに立っていたのは、東の軍の中で猛将との誉れ高い、剣士ヴォリムだった。一世代前の、ウォービルらが活躍したときからの百戦錬磨の戦士である。
「ここで出てきますか」
ベイトの頭の中には、各国のデータが詰まっている。彼の情報によれば、ヴォリムの実力はかなりのものだ。
―――ここからは、一層気を引き締めていかないと、死人がでるな……。
「さて、順当にいけば僕かテュルティ、ユフィさんかフィーだけど、どうしようか。タイプ的にユフィさんはやめたほうがいいと思うし、僕の一存で決めていいかわからないけど、フィー、行ってくれるかい?」
ヴォリムとの戦いの中では、一瞬の気の緩みが命取りになる、そう考えたベイトは戦いをどこか楽しもうとするテュルティを避けたのだ。
だがテュルティはその真意を理解せず、不満そうな顔をベイトに向けた。
その表情を見て、どこか決まりの悪そうな顔をするベイト。
「貸し一つだかんね。帰ったら、ワガママ聞いてもらうよ?」
ベイトの耳元でコッソリと呟いたテュルティ。ベイトは困ったように笑いながら了解した。
もしかしたら、彼女を危険な目に合わせたくなかったのかもしれない。
―――帰ったら、か。
帰ったら、そう。自分たちは必ず生きて帰るのだ。
ベイトは決意した。必ず生きて帰り、そしてテュルティにプロポーズしようと。
「じゃあ、いってきますかな」
フィールディアが鞘から剣を抜き、鞘をユフィに預ける。
「ユフィ。ちょっとの間、持ってて」
「うん。フィーちゃん、ガンバってね」
どこか散歩に行くような軽い感じで言ったフィールディアに、ユフィは頷いた。この二人、なかなか仲が良いようだ。
白いリボンで長い髪を束ねる。赤い髪に、純白のリボンが映え、美しかった。
颯爽とバトルフィールドの上に立つフィールディア。その彼女をヴォリムの鋭い目が捉える。
「準備はいいか?」
精悍な顔立ちによく似合った、低く重い声。
「あぁ、いつでもいいよ」
密かに自分への強化魔法を唱える。効果が比較的長く続き、身体への負担が比較的小さい、僅かな効果のもの。
そして戦いは始まった。
ヴォリムの速い動きから繰り出される鋭い剣は、一撃必殺の威力も込められていた。
だが、ゼロの剣やリンの剣からすれば遅い。避けられないことはなかった。
その剣を避けるや、今度はフィールディアの一撃。ヴォリムよりも速いが、軽いようだ。ヴォリムの剣に止められ、あまつさえ弾かれそうになる。
彼女は女の腕にしてはかなり筋肉があるほうである。そこらへんの男の剣など、弾き返す自信もあるのだが、それにもましてヴォリムの力は強かった。
―――ち、早々に終わらせようと思ったけど、時間かかりそうだね……。
強化魔法の関係上、勝負は早めにつけたいフィールディア。僅かながら、焦りを感じていた。
ゼロとヴァルクの戦いは、常識を逸していた。
物凄い速さの剣撃の応酬がされており、一般兵など、何回死んでも足りないような攻防が続いている。
『アノン!お前、何をしたらそんな急に強くなれるんだい?!』
依然よりも遥かに実力の増したアノンに対し、ユンティが尋ねる。確かに、依然よりもゼロとアノンはヴァルクの攻撃に対応している上に、逆に押すこともある。
それがユンティには疑問だった。
『私が強くなったのではない、ゼロが強くなったのだ』
アノンの答えは、ユンティを納得させた。
『あぁ、なるほどなるほど。言い様によっちゃ、つまりヴァルク、お前が大して強くなってないってことだ』
ユンティの言葉が、ヴァルクを怒らせた。
「んだと……?!」
さらに速さを増して仕掛けてきたヴァルクに対し、ゼロは逆にスピードを落とし受け流した。
場数と経験は、ゼロが遥かに上である。
「俺は、負けられないんでね。みんなに置いていかれるわけにもいかない。早々と終わらせてもらうぞ!」
冷静なゼロの攻撃に、ヴァルクは対応できなかった。
左腕に傷を負う。
だが、ヴァルクの攻撃は止まらない。
―――ちぃ、ヴァルクの野郎、頭に血が上りすぎだ……。負けたなこりゃ……。
速さこそ増しているが、単調な攻撃では決してゼロには通じない。一般兵ならば力任せの力押しだけで勝てるが、技量が上の相手には絶対に勝てない。
ユンティはヴァルクの負けを察した。
その読みどおり、ゼロはヴァルクの剣を防ぐではなく、避けている。これは、ゼロが余裕の時の癖である。剣で攻撃を止めれば少なくとも衝撃を受ける。同年代の標準的な筋肉量より劣る筋力しかないゼロは受ける衝撃が比較的大きいため、それを嫌うのだ。無意識のうちにつけた、攻撃を見切り避ける癖。
ゼロがわざと間合いを取る。涼しげなゼロに対し、ヴァルクは肩で呼吸をし、前回と全く逆の状況になっていた。
「どうした、その程度か?」
あえて手を休め、体力を回復させる間を与えたゼロの言葉が、ヴァルクは耳障りだった。
「ち……黙ってろ……」
喋る気力もほとんどないようだ。
「確かお前、ムーンにハーフエルフの孤児院を作ってもらうために、戦ってるんだったよな?それなら俺たちだって用意してやる。どうだ、今からでも遅くない。一緒にムーンを倒さないか?」
ゼロのいきなりの提案に、ヴァルクも、ユンティも、そしてアノンまでもが驚いた。
『ゼロ?!何を……言っている?』
「何って、強い奴を味方に引き込むのさ。そうすればより確実にムーンを倒せる。それに、俺にとっても今のハーフエルフたちへの仕打ちはなんとかしたい課題だぞ?」
一瞬、ゼロが憂いに満ちた表情をした。それは西王として、エルフの未来を考える者の表情だった。
『だが、奴は、ユンティはアシモフ側の楔だったんだぞ?!ムーンに逆らえる筈がない!』
アノンの言葉は、正論だった。
「でも、ヴァルクは違う。自分の運命は、自分で変えられるんだ。もう過去の束縛は関係ないんだよ。知っちまった以上は……な」
さすがのアノンも、言葉を失った。
ユンティに至っては、呆れて物も言えなかった。
―――さすが、あのアリオーシュの子孫。……怖いくらい馬鹿で、怖いくらい常識外だな……。だが、真っ直ぐで純粋か……。
そして当のヴァルクはというと。
「ハハハハハッ!!いきなり何を言うかと思えば、面白い考えをしやがる!いいぜ、その話乗ってやるよ!だが俺に勝てればの話だ!!」
それなりに体力も回復したヴァルクの剣は、先ほどとは違い、最初の頃に戻った剣だった。
―――ゼロ……貴方という人は、全く……。いや、そんな貴方だからこそ、あんなにも多くの人を惹きつけるのだろうな……。
アノンはひそかにゼロに微笑んだ。自分の新しい主がゼロでよかった、と心の底から思った。
そして、殺し合いから純粋な技の応酬、純粋な戦いと成り果てたの戦いを制したのは、もちろんゼロであった。
床に背を伏して、息を切らしながらヴァルクは言った。
「やっぱり、お前は強ぇな……!約束だ。ムーンとの戦いの時には、俺も参加する……。少し休んでからな。とりあえず今は、先に進め……!」
その言葉にゼロは微笑んだ。
「礼を言う」
アノンも同時に微笑んでいるようだ。
「じゃあ、決戦の時また会おう」
そう言い、ゼロが立ち去っていく。ヴァルクは、その背中が見えなくなるまでずっと見ていた。そして彼の背中が見えなくなってから。
「ユンティ」
と呟いた。
「あ?」
不満そうな顔で、ユンティが姿を現す。相変わらず、性格のひねくれた奴だと実感する。
「悪かったな……。俺のワガママにつき合わせちまって……。もういいんだぜ?俺じゃなく、ムーンのところに行っても」
ヴァルクは改めてユンティという楔を、ユンティという“少女”を見つめた。
ヴァルクの言葉にキョトンとした表情をしている。そういう顔をしていれば、普通に可愛い年相応の少女だ。
「ったく、そんなこと出来るかよ。馬鹿かお前は。オレは、お前と“契約”しちまったんだ。普通の“契約”じゃない、魂の契約だ。だから、もうお前が死ぬまで他の奴となんか契約できねぇの。それに……もう他の誰かと契約する気もねぇしよ」
ヴァルクの傍らに腰を下ろしながらも、恥ずかしそうに顔を背けたユンティ。ヴァルクは少し驚いた表情をした。
「アノンを見て、思ったんだよ。オレも、もう少しお前を信頼してやってれば、あいつらにも勝てたんじゃねぇのかなぁ、って……」
「ユンティ……」
ヴァルクは、心を開こうとしなかった者が、やっと心開いてくれた時に感じる喜びを味わっていた。
「だから、もう少しだけ手を貸してやるよ。オレだって、アシモフ様は好きだけど、ムーンはあんまし好きじゃねぇんだ」
ヴァルクは立ち上がり、照れくさそうにするユンティを抱き上げた。
「お、おい?!何すんだよ?!」
ヴァルクはただ笑っていた。
―――じゃじゃ馬が、ホントは素直なんじゃねぇか!
「これからもよろしく頼むぜ?!相棒!」
恥ずかしそうにツンとしてそっぽを向いたユンティだったが、その表情は、心なしか柔和になってきている気がした。
やはりヴァルク相手に疲れたのか、ゼロはゆっくりと歩きながら進んでいた。
そのゼロにアノンがふと問いかけた。
『そういえば、何故あんな唐突に復活出来たのだ?貴方の受けた精神的ダメージは、相当だったようだが……?』
彼女の問いに、ゼロはどう答えていいか分からなかった。
「さぁ、何でだろうな。たぶん、お前が俺を呼んだからじゃないかな?」
曖昧に答えるゼロ。自分自身よくは分からないが、何故か起きなければいけない気がしたのだ。
『そう……か』
納得仕切れていないが、アノンは分かったことにした。
『しかし、先ほどの説得は見事だった』
「あぁ、我ながらよく言ったもんだよ」
ゼロが子どもっぽく笑う。アノンはその表情を見て安心する。
―――貴方が新しい主で、本当に私は幸せ者だ……。
外の戦場はすでにルティーナの独壇場だった。彼女が近づけば連合軍の兵士たちはひたすら逃げ回り、連合軍はすでに戦意喪失しきっていた。
―――私、何してるんだろうなぁ……。
剣を振るいながら、自分に問いかける。だがその質問に答える者などいない。答えてくれる筈のルーも、もうこの世にはいない。
彼女はただひたすらに剣を振るう。
その剣に込められたものはない。
彼女は、カラッポだった。
フィールディアとヴォリムの戦いは、一進一退であった。いや、フィールディアは強化魔法を使っている分若干不利のようだ。
たぶんに自分が不利なのを一番分かっているのは、フィールディア自身だろう。それでも彼女は果敢に敵に向かっていく。何箇所も傷を負い、痛みに耐えながら、彼女は敵に向かう。
だが疲れ、傷、筋力の差から、いつも弾き飛ばされるのは彼女だった。
明らかな、“実力の差”。
懸命に立ち向かい、剣を振る。これが殺し合いでなければ、美しい努力かもしれない。だがこれは殺し合いだ。命と命とを賭けたゲーム。敗北は“死”。
見ている者たちは、手助け出来るならば彼女を助けたかった。だがそれはルール違反の上、それを除外したとしても彼女のプライドを大きく傷つけてしまうだろう。命よりプライドを大事にする彼女だ。
故に、誰も助けに入ることはできない。
「フィーちゃん……」
ユフィが、彼女の鞘を大事そうに抱えながら祈る。
そう。今は祈ることしかできないのだ。
―――ちぃ……。ヤバイね、こりゃぁ……。
フィールディアは、ふらふらな身体を気持ちで支え、身体に無理を聞かせ、剣を構え、突撃する。だがすでにまともな攻撃は叶わない。剣先に表れた疲労が、彼女の剣を素人のものと酷似させる。
「くぅ……!」
さっきからずっとヴォリムは動いていない。いや、動く必要がない。
フィールディアの突撃を、右手の一振りで弾き飛ばすだけだ。
その結果、彼女の身体にはかすり傷やらなにやらの傷が付き、どんどん体力を消耗させている。
「これは遊びではない。悪いがその命、頂く」
ヴォリムの低い声が、フィールディアの耳に届く。
彼女は顔を上げ、相手を睨む。まだ諦めてはいない目の輝き。
だが、勝利の女神は残酷だった。
立ち上がりかけたところ、急に彼女は膝をついた。
―――くそっ……魔法、切れやがったか……。
その様子を見て、セティは見ていられなくなり顔を伏せ、ライダーとベイトが辛そうにした。テュルティとユフィは、既に泣きそうである。リンのみが、その戦いを見定めんと真っ直ぐに見ていた。
ゆったりとヴォリムが近づいてくる。
―――死への……カウントダウン……なんてね……。
フィールディアの頭は必死に抵抗をする。
だが、身体はどうしても動こうとしない。
「すぐ、楽にしてやる」
ヴォリムの右手が高く上がり、その剣が勢いよく振り下ろされた。
―――兄さん、今私もそっちに逝くよ……。
ゼロが進んでいると、急に悲鳴が聞こえた。
「何だ……?」
ゼロは慌てて駆け出す。角を曲がればそこにはユフィたちの、仲間たちの姿。
すぐに駆け寄り、フィールドを見る。
そこには。
「ヘヘ……まだまだ、そう簡単にこの命は渡さないよ……」
フィールディアは、紙一重のところでヴォリムの剣を止めていた。理由は分からないが、自然と身体が動いた。
「まだそんな力が残っていたか」
ヴォリムが僅かに方眉を上げ、若干間合いを取る。
フィールディアは立ち上がり、正眼に剣を構える。
「悪いが、少なくとも一人じゃ死なないからね」
その言葉を利用し、また強化魔法をかける。
「さぁ、再スタートだ!」
ゼロが駆け寄った瞬間の光景には驚いたが、それ以上に今フィールディアが使った魔法に驚いた。
「あいつ……死ぬ気か?!」
ゼロが思わず声を上げる。そこで皆、ゼロが来たことに気がついた。
「ゼ、ゼロ……。いつの間に……?じゃなくて、それは、どういうことだい?」
ベイトがゼロの言葉を疑問に感じ、尋ねる。
「今の魔法は、強化魔法の中でもかなりハイレベルなものです。そしてその代償もかなりのもの。普通ならば丸一日は動けなくなるような、諸刃の剣。それを、あんなボロボロの状態で使ったら、反動で“死は免れない”でしょう……」
セティが俯きながら説明した。そして、その説明に皆息を飲んだ。
「でも、それくらいの魔法使わなきゃ死んでたじゃねぇかよ……」
ライダーが半ば自分に言い聞かせるように言った。
「きっと、フィーちゃんには“決意”があったんだよ。今は……黙って見ていよう。私たちには戦いを見守ることと、勝利を祈ることしかできないんだから……」
ユフィは泣きながらそう言った。
その言葉の後、ゼロはそっとユフィの肩を抱いた。その肩は、震えるのを必死に堪えようとしていた。
ミューがルティーナを見つけたとき、彼女はミューよりも真っ赤に染まり、無数の屍の中、一人立っていた。
彼女がミューを見つけると、ミューのほうへ歩み寄ってくる。彼女の足元にある屍を、躊躇いもなく踏みつけ、それでもバランスを崩すことなく、ゆっくりと近づいてくる。
その光景は、この世のものとは思えなかった。
それは、まさに“地獄”。
ミューの中で、何かが切れる。
こんなことは、あってはいけない。
「き……」
ルティーナを凝視するミューの口から、言葉が漏れる。
「貴様ァァァァ!!!」
涙を浮かべながら、一気に間合いを詰め、居合い切り。
だが、ルティーナの剣は、容易くミューの刀を止めた。
再度間合いを取り、唸るように肩を震わしているミューを、ルティーナは冷たく見つめた。変わらない、彼女の無表情。
「貴方には、哀れみさえ感じます!!せめてもの慈悲です!私の刀の前に死になさい!!」
ミューは相手の反撃を省みず、突撃。
だが、予想外にルティーナは自らミューの刀へと飛び込んできた。
「え?」
驚きとともに、わき腹を激痛が襲う。
「……貴方のような人を待っていた……。私を終わらせてくれる人を……。ありが……とう……」
―――ルー。やっと……貴方の下へ……。
彼女の最後の言葉と、彼女の微笑みは、悲しい程に美しかった。
「そういうことを考えているなら……最後の攻撃は、やめてくださいよ……」
そう言いつつも、憎しみは沸いてこない。一人の戦士として死んでいった彼女に対し沸き上がるのは、死した者への哀しみの気持ち。
痛みに耐え、突き刺されたルティーナの剣を引き抜き、死した彼女の身体に添える。
―――これで後は、ムーンだけ……ですね……。頼みましたよ……ゼロ……ライダー……。
わき腹から流れる血を止めようと、手を当てる。だが、血は止めどなく流れる。
赤い血に濡れた手がいやにヌルヌルするが、感覚も失われてきた。
彼女は痛みに耐え、足を引きずるように、ゆっくり、ゆっくりと本陣へ戻る。
だがその道の途中で、彼女は頬を地面につけた。
雨は依然として振り続け、冷たく彼女の頬を打った。
フィールディアの動きは、最初よりも鋭くなり、段々とヴォリムを追い詰めていく。
彼の表情にも焦りが生まれ、攻撃がパターン化する。
そしてついに、フィールディアの剣が、彼を圧倒した。
限界を超えた速さで振り続けた剣に、ついに彼は対応出来ずに、胸から腰にかけて、大きな攻撃をもらった。明らかな致命傷。
「ぐ……」
ついに、地に伏せるヴォリム。そしてそのまま起き上がらなくなる。
だが、それと同時にフィールディアも地面に倒れた。
「勝った……ぞ。このやろぉ……」
彼女の意識は、そこで途絶えた。
フィールディアの勝利と共に、ゼロたちは一斉にフィールドに降りた。
「フィーちゃん!!」
ユフィが一番に駆け寄り、声をかける。
だが、フィールディアから答えは返ってこない。
「う……うそだよね……?死んじゃったなんてこと……ないよね……?」
ユフィが泣きながら、必死に勝利に対する笑顔を作ろうとしながら尋ねる。声が震え、それが他のメンバーの胸に響く。
セティが脈を確かめる。もう、動いていなかった。
彼の首が横に振られたところでユフィは下を向き、思いっきり泣いた。それとともに、テュルティも泣き出す。ゼロも辛そうに、だが必死に涙をこらえて、ユフィを抱きしめた。ゼロの胸をユフィの涙が濡らす。ベイトも同じように、テュルティに胸を貸す。彼自身も、目を赤くしている。
セティは大きく落ち込み、ライダーは壁のほうへふらふらと歩き、壁を殴りつけた。
リンがどうしていいか分からずにウロウロしていた。
彼女は戦場で親しい者が死ぬということに慣れていた。共に虎狼騎士を目指し、半ばで倒れた友。初めての戦いで、命を落とした友。そんなことを、多く経験していたため、もう涙が出なかった。
次に死ぬのは自分かもしれない。でも、自分はその亡くなった友の分も生きねばならない。だから、泣いてなどいられない。
そんなリンの考えなど知らず、ゼロたちは、フィールディアを失った悲しみを、堪えることは出来なかった。
ついに宿敵ヴァルクを破り、さらには味方に引き込むことに成功したゼロ。
そして多くの同士を失ったものの、完璧に東を破ったミューたち。
だが、失ったものも大きいのも事実だった。
これからは一層誰が死ぬとも分からない。
そんな戦いの果てに、いったい誰が笑うのだろうか。
誰が勝利の歓声を上げるのだろうか。
全ては、森の意志のままなのだろうか。
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