過去の産物2


哀しみの果てに残るもの

 「でやぁっっっ!!!」
 二人の戦士が剣を交える。
方や落ち着き払い、物事すべてを冷静に見定めることできそうな男。相手の攻撃を完璧に見切っているのか、余裕の表情で紙一重に攻撃をかわし続けている。かなりの美男子で、年のころは十代後半の様に見えるようではあるが、24歳である。身長は163センチほどだろう。服装は質素だが所々に金糸銀糸で刺繍が施され、マントには金の獅子が刺繍されている。相当裕福なのだろう。
そしてもう一人の方もかなりの美人だ。こちらは動き一つ一つから若さが滲み出ている感じである。まだ大人としては未熟であるから、美少女と分類したほうが適切かもしれない。服装は、もう一人と同じだが、まだ着こなしていないようで、似合っているとは言い難い。戦闘技術は、それなりに高いのだろうが、男の技量が高すぎるせいで、あまり特化しているようにはみえない。                           「踏み込みが甘い。力が足りてないなら速さでカバーしてみろ。・・・オレを殺す気で打ち込め。なんのためにオレに弟子入りしたんだ?」
男は変わらずかわし続ける。
彼の過去、昔を知る者ならすでに三つの疑問を抱くであろう。一つは彼が弟子を取ったこと。一つは助言を与えていること。一つは声に暖かさが混ざっていること、に。
「そんなこと言ったって、出来るワケないでしょ~が!!」
 少女は渾身の力を振り絞って剣を振り下ろした。
 男はそれを、なんと指先で取った。
「うん、合格。じゃあ、今日はここまでかな?ピーア」
 ピーア。それが少女の名前である。男の方はゼロ。ゼロ・アリオーシュ。エルフ族1の騎士であり、最大の人気も擁している。ちなみにピーアはゼロが2ヶ月前に拾ってきた14歳の人間である。孤児だったらしく、今はピーア・アリオーシュとして家族弟子の立場である。彼女も、最初はゼロに隠れるように生活していたが、慣れるにつれ一人でも街を歩き回るようにまでなった。比例するように態度もでかくなった、というのはゼロの言葉である。
「つかれたぁ~。なんでゼロってばそんなに強いの?強すぎるから奥さんいないいんじゃないの?」
「ピーア、今のは失礼だぞ?師匠を少しは尊敬しろ」
「話反らしたなぁ?まっ、ゼロが30いっても一人身だったらボクがお嫁さんに貰われてあげるから安心しなよ♪」
 ゼロは、別に結婚話がないわけではない。むしろその手の話は毎日のようにくるのだ。ゼロがそれらを断っているだけなのだ。
「早く結婚考えなきゃいけなくなってしまったな・・・」
「さり気無く、ゼロ酷い。ボクのことは遊びだったんだね!?」
 ピーアが泣いたフリをした。ゼロは笑ってやりすごした。
 いつまでもこうやって笑っていれたら、それはすごく素晴らしいことなんだよなぁ。
 ゼロは真っ青な空を見上げた。いつ見ても大きい。
 ゼロは空をボー、っと見上げることが好きだった。自分の小ささを身に染みることが出来る、常人には理解できないことだろうが人から過大な期待、信頼を一身に受ける者の立場から見れば自分より大きいものは心の支えになるのだろう。
「あっ、今日ちょっと王国会議だから、ちょっと出かけてくるから。」
「ボクも行きたい!」
「つまんないぞ?楽しいことなんてなにもないし」
「やだ。行く」
「ったく、仕方ないな、ピーアは・・・」
「やったぁ♪ゼロ♪愛してるよ♪」
「はいはい」
 二人は、王城へと足を運んだ。

 余りにも大きい。それがエルフ族最高峰の地位を持つ、国王ジュライド・デ・クーフォルの考えた難攻不落の要塞城だった。
 実は、ピーアは来ること事態初めてである。ゼロは、第5次エルフ人間戦争の時代、18歳のときに初めて入城したらしい。そう考えると14歳にして入城を果たしたピーアはすごいのかもしれない。
 ゼロが番兵を一瞥し、番兵が敬礼して入城したときは正直気持ちよかった。ピーアの率直な感想である。つまり、王城に顔パスではいれるほどゼロは権力の保持者なのだ。
 二人は、客間にてしばしの休息中だ。まだ多少時間が余ってるらしい。ピーアは物珍しそうにキョロキョロしている。ゼロはソファにもたれ掛かり本当に休息をとっているらしい。ほっておけばいつも家から出ないでダラダラしているタイプではあるがわざわざ王城に来ても休む者も珍しい。
 すると、一人の兵士が、伝令兵だろう、が入ってきた。
「アリオーシュ戦爵、参列者全員が集まりになられたので、会議を始めるとのことです。会議室へお越しください」
「だとさ?ピーア、ここでおとなしくしてろよ?早めに戻ってきてやるから」
「ん。いってらっしゃい♪」
 ゼロは部屋から出て行き、ピーアが一人残った・・・。

 会議、とは言うものの、参列者のほとんどは年寄りで、権力、階級も皆ゼロ以上の者ばかりである。こういうものたちは妙に階級にこだわるせいで、発言力の強い弱いが大きく、会議になってないじゃないか。というのはゼロの考えである。
 しかし、今回は少し違った。
「今日はよく集まってくれた。にて、今日の会議内容だが、プロント侯爵、頼む」
 国王が直々に命ずる。珍しいことだ、その程度にしかゼロは思わなかった。
「はっ。この話は、皆に聞いてもらいたいことなのだが、特にアリオーシュ戦爵は、心して聞いてくれ。最近、人間どもがやたらと兵器開発に力を入れているのは周知の事実であろう。そしてその開発品の矛先は、古くからの宿敵である我々エルフと思われる。そこで、だ。アリオーシュ戦爵を筆頭に、オーヴィル男爵、デルボザイト子爵に、最前線を任せ、人間どもの王都、ギールドバーグに侵攻を始めようと思う。今こそ我らエルフこそが、人間のようなゴミとは違うということを思い知らせようではないか!?」
 ゼロは、何を馬鹿なことを、思い、口から言葉を発してしまった。
「お、御待ちください!何故そう断定できるのです?確かに人間は我らエルフより数段劣る愚族です!しかし兵器開発をしているだけで何故そう断定してしまうのでしょうか!?」
 ゼロは、勢いで思っていたことを吐き出した。自分に決定を覆す力はないのに、だ。
「国王の決定に逆らうつもりか?アリオーシュ戦爵」
「御主のような若造が、決定に背くなど許されると思ってか?本来なら第1級国王反逆行為で一族皆殺しぞ?」
「しかし!」
 周りからの皮肉、揶揄にも耐えた。だが、ゼロ自身も分かっている。自分など、国王から見ればただの一介の兵士に過ぎぬことを。
「そういえば戦爵?何やら人間の子を家で保護して、あまつさえ家族にしたそうだが。どういうことだね?その子は人間のスパイではないのか?」
 ピーアについて言われた。たしかに人間の子と暮らしていると知られていれば、もはや弁明、言い逃れの策はない。ゼロは絶対不利を悟った。
「く・・・分かりました。ですが、軍備に時間を要しますので、今日のところは先に失礼させていただきます」
 明らかな逃げだ。ゼロはそう思った。
 そのとき、国王がゼロに向かって何かを告げた。
「ナターシャ卿の娘、ユフィといったか。彼女を釈放すると言ったら、君は戦うか?君の返答しだいで、ナターシャ家の罪を帳消し、彼女の身柄をアリオーシュ戦爵に預けよう。どうだ?悪い話ではないだろう?」
 ゼロの表情が緊迫する。他の貴族がざわつく。
「静まれよ。第一、ナターシャ家の持つ星詠みの力を用いれば戦いに勝つことなど容易であろう?それとも何か?貴公等に、100%勝つことのできる策があるのか?」
 貴族たちが黙り込み、ゼロに視線が集中する。依然として、国王に背を向ける体勢だが。そしてゼロはゆっくりと口を開いた。
「国王陛下、真の話でありますね・・・?」
 ゼロの口調はいつもより低く、慎重だった。
「約束しよう」
 ゼロは180度回転し、国王に顔を向けるようになった。そして抜刀し、刀身を眼前に持ってきた。
 貴族たちの視線がさらに集中する。
「この、王国騎士ゼロ・アリオーシュ、此度の戦にて、国王陛下の為に獅子奮迅、粉骨砕身の覚悟で戦うことを、神、イシュタルの名において誓います」
 国王へ忠誠を誓う際の儀礼である。
 それを見て国王が肯く。ゼロはそうして退室した。
「国王陛下!今の話真でしょうか?」
「ふっ、当たり前よ。だがアリオーシュがあの人間の子を匿っているうちは絶対の保障はないな・・・。やつには、死神に戻ってもらわねば少々不安が残る。オーヴィル男爵。よいか?今夜・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「はっ!おまかせください!」
「所詮奴も人の子。神にはなれぬよ。せめて、死神として敵を葬ってもらわねばな。だが、感情という、甘いものを持っているうちは・・・・・・・・・・・・」
 すべては、国王の意のままに動いている。誰にもそれは止められない。
 そして、ゼロはそのことにも、影で蠢く不穏分子にも気が付いていなかった・・・。

 ピーアを残した部屋に行くと、誰もいなかった。
 ゼロは不思議に思った。多少会議室から出て考え事をして遅くはなったが、ピーアに限って一人帰るということはあるまい。そう思ったのだ。
 少し、部屋の中を見回す。何故かは分からないが、すごく嫌な予感がした。胸騒ぎがする。
――何だ?この感じは?
ゼロは一通の手紙らしきものを見つけた。ゼロ宛となっているが、明らかにピーアの字ではない。ただ能動的に、仕事文字を書いただけのものだ。
それの封を切って中の書文を読む。
「これは・・・?・・・!!くそ!早く戻ってきていれば・・・!・・・もしや、国王の差し金なのか・・・?畜生・・・また、何かを護るために・・・、誰かを失うのかよ・・・!?・・・そんな事・・・させるかよ・・・!!」
 ゼロは、猛然と走りだした。
 己の信念を貫くため、国王の意に背くため。そして・・・大事な、大事な弟子・・・ピーアのために。
 ひたすらに、走り続けた。

 何故だかは分からない。どこをどう走ったかもわからない。しかしそれでも自宅に着いたのだ。一目散に、とは正にこのことだろう。
 家の扉を勢いで開き、ピーアの部屋へと駆け込む。いつもとは逆だ。ピーアがゼロの部屋にくることは多々あるが、ゼロはあまりピーアの私生活に干渉しなかったのだ。年頃の部屋なのだろう。ゼロが最初に置いておいた生活日用品は見る影もなく、自分で選んで買った家具が9割を占めている。その中で、机に置いてあるゼロとのツーショット写真が眼を引いた。 
 だが。
 いつもなら恥ずかしげに、でも嬉しそうにゼロを迎え入れてくれる明るいピーアの姿はなかった。憤怒と憎悪、さまざまな負の感情が胸に立ちこめ脳を支配しようとする。ゼロが怒っているのだ。普段はまず怒らない彼が、今は鬼神の如く表情である。
 ゼロは、床に落ちている紙を見つけた。内容は、前に読んだのとなんら変わらないものだった。ただ『お前の弟子は我が手の内だ』という内容の。
――くそっ!オレは、オレは何も進歩してないじゃないか!?
 また走り出す。今度は、ゼロがピーアを拾った場所、エルフ族が聖域と崇める聖森。フォレストセントラルへと。

 ゼロは、ゼロがピーアを拾った場所にピーアを何者かが連れて行く可能性はないと頭で思ったのだが、直感が行けと告げたのだ。しかし、今思えばゼロは何故あそこでピーアを拾ったのか?何故ピーアがあそこにいたのか?考えれば考えるほど知識の糸が縺れて、グチャグチャになる。
――全部、全部教えてもらうからな・・・!オレにはそれを知る権利があるんだ・・・!だから、死ぬんじゃねぇぞ、ピーア!
 今は、走ることしかできない。

 着いた。流石にゼロも肩で息をしている。さっきから休む暇なく全力疾走しているのだから、仕方ないといえば仕方ないだろうが。
「ピーア!いるんだろう!?オレを、呼んだのはお前だろう!?ピーア!?」
 自分でも何を言っているか分からない。だが迷うことなくゼロは叫んだ。
 反応、というか、変化のような、空間の雰囲気が変わった。
――これは・・・死気・・・?まさか!!?
 ゼロはあたりを見回した。見つけられない。この感じ、気配は確実にピーアのものだ。だが活力が薄い。反応が薄く、居場所がなかなか特定できないのだ。
「ピーア!?」
 ゼロはやっとピーアを見つけた。服が紅く染まり、暗がりの中でも人目で深傷と分かる。ゼロはピーアを抱きかかえた。ピーアは強い。一般王国兵の一個小隊と同等の実力はあったはずだ。だが、この傷は、この仕留め方には見覚えがあった。
 オーヴィル男爵お抱えの戦士、マドルだ。
 ゼロはすぐに気付いた。すべてが陰謀だったということに。
「ピーア!死ぬな!絶対に死ぬな!」
 ゼロが悲痛な声でピーアに言う。
「ゼ・・・ロ・・・えへへ・・・ボク、やられちゃったよ・・・ゼロの弟子なのに・・・負けちゃった・・・よ・・・。ゴメンね・・・?ゼロの名前を・・・汚しちゃったよ・・・唯でさえ人間の子を・・・ボクを匿ってるってだけでも印象悪くしてたのに・・・ボク・・・ゼロに何もいいこと出来なかったね・・・。本当に・・・大好きだったんだよ・・・?ゼロの・・・こと・・・。だから・・・呼んだんだ・・・ここにね、初めて・・・ボクとゼロの出会ったここにね・・・。あとさ・・・今だから・・・言えるんだけどね・・・ボク・・・人間とエルフの混血児なんだ・・・。へへ・・・禁断の交わりで産まれたんだよ・・・。だからね・・・いっぱい・・・いっぱい・・・虐められてたんだよ・・・?何度も死のうとしたんだ・・・。あの日・・・ゼロと出会った日も・・・死ぬつもりだったんだ。・・・・・・でも・・・ゼロに出会っちゃったんだ・・・。ボクは・・・生きる意味を・・・もら・・・たん・・・だよ・・・?」
 ゼロは、ワケが分からなかった。今更何をピーアが伝えたいのか、分からなかった。ただただ、言葉を受け止めるだけだった。
「ゼロ・・・に・・・逢えて・・・嬉・・・か・・・た・・・よ?だから・・・だか・・・ら・・・ボクの・・・こと・・・は・・・忘れてね・・・?ボク・・・ゼロの・・・足枷に・・・なりたく・・・な・・・いから・・・。来世は・・・ゼロと・・・仲良く・・・したい・・・なぁ・・・。ゼロの・・・好きな・・・猫と・・・かに・・・なってさ・・・?へへへ・・・ゴメンね・・・ホントに・・・ゴメンね・・・?でもありが・・・と・・・・・・ゼロ・・・」
 そこで抱きかかえたいたピーアの身体から気がなくなり、ガクッと項垂れた。ゼロには、哀しむことしか出来なかった。ただただ、ピーアの言葉一つ一つを感じ、受け止め、彼女を忘れないでいるしかなかった。
 そして。
「出て来いよ。悪趣味な奴だな・・・。殺ろうと思えば殺れただろう?マドル・・・」
 ゼロ以外に人がいたなら、ここで何を言い出すのだ?と聞き返していただろう。だがゼロはマドルが発していた極々僅かな気配を察したのだ。
「・・・本当に・・・気の重くなる仕事だったよ・・・。そのこが・・・ここに連れてってって言ったんだ。死ぬことを察していたよ。だから、本当に嫌な仕事だったんだ・・・。謝って済むことじゃあないのは分かっている。だがオレもここで果てるワケにはいかないんだ・・・。非はオレだろうが・・・、許してくれ。勝ち目薄でも・・・ここはお前を・・・ゼロ・・・お前を殺してオレは生きる・・・」
 マドルが震えた声で言う。マドルも過去の戦争を生き延びた屈強の戦士なのだ。だがゼロとは較べるまでもなく、いや、ゼロと較べられてしまい貴族になれなかったのだ。
「・・・何言ってんだよ?オレは・・・もう死神に戻ると国王に誓ったんだぜ?そのオレが、お前ごときに殺れると思ってんのかよ・・・?考えろよ・・・そして、そして自分のやった罪の重さを悔い改めて逝けぇぇぇ!!!」
 ゼロの哀しみと、怒り、すべてがぶちまけられた・・・・・・。

 翌日ゼロは王城へと赴いた。何らいつもと変化のない態度で、だ。
 普通に国王の前に馳せ参じる。そして。
「国王陛下、昨日のことなのですが、私の召使いが何者かに殺されたのですが・・・何かご存知なりませんか?」
 無礼千万な態度でなく、冷然とした態度である。ただ、召使いと言ったのは少し感情が篭っていたが。
「いや、知らぬな」
 国王が単発に答える。
「ですか・・・。しかし・・・いえ、なんでもありません。ただ、ユフィと面会できませんか?戦前の、渇としてね」
「・・・よかろう・・・鍵だ」
「ありがとうございます」
 ゼロは、薄く笑ったまま地下牢へと赴いた。

 地下牢は薄暗かった。ジメジメしているし、あらゆるものがここでは腐敗していくだろう。感情も・・・あらゆるもの全てが、だ。
 ゼロは一つの、他の牢より奥深くの、しかし罪人のための部屋とは思えないほどそこは機能的な部屋だった。ゼロが鍵を開ける。明るい光が目に眩しかった。
 そして、その部屋の中の、揺り椅子で本を読む一人の美少女がいた。
「ユフィ・・・」
 その少女は、本当に美しかった。活力は見えないが薄幸の美少女の雰囲気がある。髪はほのかにピンクだが、限りなく銀色に近い。瞳の色は、立派な碧眼で、王族のそれに酷似していた。全体的に華奢で、細い。そして、薄いのだ。だが、天使のように美人なのは確かだった。しかし、彼女は21歳である。
「ユフィ・・・迎えに来たよ・・・。約束通り、君を迎えに来たんだよ?」
 ゼロが優しく、ゆっくりと語る。ユフィが、ゼロの方を向いた。
「ええ、知っていたわ。調度・・・星が教えてくれたもの・・・。ゼロ・・・あなた・・・辛いことがあったでしょ?それも・・・星が教えてくれたわ・・・。・・・でも・・・哀しまないで・・・」
 ユフィがそう言って立ち上がり、ゼロの方へ歩んだ。
「私は・・・ゼロから離れない・・・離れたくない・・・。だから・・・私を離さないで・・・?」
 そう言って、ゼロにもたれる。ゼロは・・・ゆっくりとユフィを抱き包んだ。
「ユフィ・・・聞いてくれるかい?オレは・・・・・・・・・・・・・・・」
 二人が牢から消えていく。そして、ばれないように王城を抜け出した。

 二人は、エルフ王国領の国境ギリギリにいた。その時、背後から一騎の男が追ってきた。
「ゼロくん!」
「・・・ブラーファ卿?オレを止めようとしても、無駄ですよ。オレはあの王国に忠誠を尽くした。だが奴らはそのオレを不穏分子として腫れ物のように扱いやがった。好きで死神になったワケじゃない。もううんざりだ!貴方には世話になった、だがどうしてもオレを止めると言うなら、オレは貴方でも斬る。オレは人間に下る。扱いはよくないだろうが、ユフィと一緒に生きるんだ。だから・・・これ以上オレに関わらないでくれ・・・!」
 ゼロが悲痛に叫ぶ。ユフィがゼロの横で口を開いた。
「ゼロは・・・誰よりもエルフに貢献しました・・・。それを認めず、危険と判断した上層部がいけないのです・・・。私は、ナターシャを棄てました。父を人質にとったって無駄ですよ・・・」
 ブラーファが苦痛を浴びたような表情になる。
「君がナターシャ卿の・・・。・・・そうか・・・ゼロくん・・・次に会うときは・・・戦場になりそうだな・・・」
「・・・・・・オレは貴方を斬りたくないが・・・そうなるでしょうね・・・」
 ゼロはそう言い一礼して歩き出した。
「・・・貴方にも・・・魔が近づいています・・・。お気をつけて・・・」
 そう言いユフィも一礼してゼロを追った。
 二人が見えなくなるまで、ブラーファ卿は見送っていた。

 その後・・・人間側は死神として人間軍を悩ませたゼロと、正確無比の星詠み能力を持つユフィを重宝し、第六次エルフ人間戦争で遂にエルフは降伏し、長き戦いに終止符が打たれた。だが、その話はまた別の話。
 ゼロとユフィは翌年式を挙げ、終戦後、彼らの姿をみた者はいない・・・。


 アイハ、カナシミヲウム。
 アイハ、ゼツボウヲツクル。
 アイハ、カラマリ、カラマリ、カラマリ・・・・・・・・・。
 ダガ、ヒトハアイヲモトメル。
 モトメツヅケル。
 サイゴニノコル、カナシミハ、メイキュウヲサマヨウヨウニ
 イツマデモイツマデモ
 ココロニノコル・・・。
 ケシテキエルコトハナイ。
 ケスコトモデキナイ。
 ウワベノツヨサヲカサネルコトデ
 ワスレタフリヲスルダケ・・・。
 ヒトニアイハヒツヨウカ?
 ヒツヨウナノカ・・・?
 コタエハ・・・ココロノナカ・・・。
 ケシテ・・・リカイハデキナイガ・・・
 ココロノナカヲ・・・
 コタエハサマヨイツヅケル・・・。
 サマヨイツヅケテイル・・・。
 カナシキ、メイキュウヲ・・・。



 ピーア・・・お前のこと・・・忘れるもんか・・・





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