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遥統番外編7
呪われた血
その日は彼にとっての初陣であった。少し雲行きが怪しいが、戦争に天気などによる順延などは当然ない。正直なところ、晴天よりはマシなように少年は思っていた。
さんさんと照りつける陽光の下で人殺しを行うくらいならば、少しは暗い方が気持ちも暗くなり罪悪感が減るかもしれない、そんな風にも思った。
少しでも気持ちを紛らわす為に、藁にもすがる思いなのかもしれない。
―――戦争……騎士……剣……死……。
今はまだ日も昇らない午前4時半頃。集合時間はまだ4時間先だが、どうしても目が冴えてしまった。ベッドの上に青を基調とした対衝撃性、対刃性、対熱性など、様々な特殊性能を込められた、限られた者しか袖を通すことのできない貴重な服を置いて、少年はじっとそれを見つめた。その隣には一振りの真新しい剣がある。
深呼吸をしてから、その服に袖を通す。サイズは申し分なく、少しだけの余裕をもって動きに何も支障を来たさない。
―――虎狼騎士……か。
虎狼騎士。“虎狼”という貪欲で残忍な人のことを指す言葉を冠した騎士。その名を聞けば泣く子も黙りそうな言葉だが、その名は西の人々にとっては自分たちの土地を守ってくれる、ヒーローのような存在だ。
―――狼は群れるけど、虎は群れないんだよね……。なんか、騎士団だけど、戦場では独りみたいだな。
少年は家系柄動物には詳しい。
まだ目を覚ましていない愛鳥のカゴを開け、そっと餌を置いてやる。自分が貴族学校を卒業してから飼い始めたから、今年でもう2年一緒にいることになる。
着替えを終えた彼は、剣を携え、家族やメイドたちに気付かれることなく、家から出発した。
やはり、集合時間3時間前では誰も集まっていなかった。
今回の任務は北への侵入捜査であり、総計4小隊、16名の少人数で行う秘密任務らしい。今回の隊長は第11小隊の隊長ヴォック・スベトメルであり、諜報部の副団長を務める影の歴戦の勇であった。
今回の任務が初陣となるのは少年のほかに2つ年上の騎士もいるという。まだ同じ通達を受けた者たちとは顔合わせはしていないが、恐らく自分が一番年下であろうから、足を引っ張らないようにと、少年は気合いを入れなおした。
「おや、俺より早くに来る奴がいるのか」
「ひゃ?!」
キョロキョロとしていた所、背後から声をかけられ少年は甲高い声を出して驚いた。慌てて振り返ると、そこには20歳前後らしき同じ服を着た青年が立っていた。
「そんな驚くなよ。……ん? その着こなしからして、ルーキー?」
「あ、は、はい」
緊張した面持ちで受け答える少年を見て、青年は面白くて仕方がないというように笑い声を洩らした。
「そうかそうか、別にボタンを全て閉じなきゃいけないわけじゃないからな。苦しくないように、最高の動きができるようにしとけよ」
改めて青年を見れば、第一ボタンを外し、その下に伸縮性の対刃シャツを着込んでいるようだった。自己流の準備も出来るようにならないといけないようだ。
その後も続々とメンバーが集まり、集合予定時刻の1時間半ほど前に隊長のヴォックを含む16名の集合が終わった。
「今年のルーキーは、出来がいいな!」
もし集合時間に合わせて新米虎狼騎士が来ていたら、怒鳴るつもりだったようだが、時間よりも大分前にちゃんと来ていたことに対してヴォックは満足のようだった。
「いいか、お前らは虎狼騎士といえばひとまとめに戦場の花形と思っているかもしれないが、魔法剣士としてサポートに徹する虎狼騎士もいれば、ウォービル様のように剣だけを頼りに最前線を切り開いて戦っている者もいる。そして、そういったのを支えるのが今回行う進入捜査だ。言っておくが、これもれっきとした戦いだから。気合いいれろよ!」
諜報部の副団長という割には明るい性格のヴォックに対し、少年は軽い憧れを抱いた。
「ねぇ」
ふと誰かに袖を引っ張られ、少年はそちらのほうを向いた。
「な、何か?」
やはり、相手が見知らぬ相手だとどうしても出方を窺ってしまい、緊張してしまう。話しかけてきたのは、少年より少し年上の女性騎士だった。虎狼騎士の制服ではないことから、西の王国騎士団諜報部のようだ。よく見れば、16人中8人は虎狼騎士ではない諜報部の者らしい。
「君、ベイト君だよね?」
「あ、はい。ベイト・ネイロスですが」
どうして自分の名前を知っているのだろうか、そこで彼女の方をよくよく見てみれば、見覚えのあるような気がした。
「えっともしかして、エミュア先輩、ですか?」
恐る恐る尋ねたところ、満面の笑みが返ってきていて、ベイトは正直に安心した。
「覚えててくれたんだ♪ ありがとネ」
貴族学校時代に2つ年上だった剣術部の先輩だ。7年生になるまでは大親友であるゼロが何かと問題を起こすので、それについて一緒に謝ることが多かった分、先輩たちのことはよく覚えていた。
ゼロ、ゼロ・アリオーシュ。貴族学校時代の大親友で、今でも必ず隔週に1度は会っている極めて親密な友人だ。その彼は剣術に関して天賦の才を持ち、今年虎狼騎士になったばかりのベイトと違って卒業後即虎狼騎士に特別入隊、虎狼騎士の頂点である虎狼九騎将に抜擢されている。
そこらへんの差については、血の違いだとベイトは諦めている。ゼロの引いているアリオーシュの血筋は、神々の大戦で活躍した闘神アリオーシュの末裔だが、ベイトの引いているネイロスの血筋は神々の大戦で活躍はしたものの、武術ではなく魔獣を操り戦った獣神ネイクターだ。取り得といえば動物に好かれることくらいか。
「先輩こそ、どうして騎士に?」
「それを言うなら君の方がどうしてだよ~。ま、私は3女だからね、自由に生きてみようかな、って思ったの」
確かに、家系を次ぐ嫡子で騎士になるのは珍しい。しかも、代々騎士として生きてきてもいない貴族だ。ベイトが騎士になるのは疑問視されても仕方ないだろう。
「なるほど……。僕は、ゼロの後を追った感じです」
照れ笑いをしながら、そう答える。これだけは、こういうしかない、これしかない解答だ。
「ほっとけなくて」
そんなベイトを見ているエミュアも自然と笑みをこぼす。ベイトの無邪気で可愛らしい笑顔は、さながら子犬のようであった。騎士などではなく、まだまだ子どものようだ。
「そっか。ガンバってね♪ ま、そんな大変な任務でもないけどね」
笑ってそう言うエミュアに対し、ベイトは一礼した。
出発予定時刻の1時間前に、彼らは北へ向けて動き出した。
体力に自信がないわけでもなかったが、他の騎士たちについて行くだけでベイトは精一杯であった。迅速な行動がモットーなのだろうが、1時間近く走っていると流石に足が悲鳴を上げ始める。
―――これが、任務なんだ……。
誰も何も喋らない。止まらない。黙々とヴォックの後をついて行く。
それから数分進んだところで、隊の動きが止まった。
「だいたいこの辺で北との国境1キロ手前ってくらいだ。ここらでいったん休憩いれるぞ」
ヴォックの言葉を聞いて、皆同じように深呼吸をするのが聞こえた。どうやら辛かったのは自分だけではないらしい。
腰に下げている道具袋から小さな水筒を取り出し、一口だけ飲む。それだけでだいぶ疲れが取れた気がした。
「もうちょっと早く休憩をいれることになると思っていたんだが、坊主、なかなかやるな」
水筒を片手に持ったヴォックがベイトの方に話しかけてきた。
「い、いえ。僕なんかついて行くので精一杯でしたから」
謙遜し、首を振る。
「それで十分なんだよ。見てみろ、ほら。諜報部の連中なんざ肩で息してるんだぜ?」
指差された方を見てみると、諜報部の服を着ているメンバーたちは皆地面に座り込んで酸素を求めるように呼吸を繰り返していた。そう考えると、自分が立派なようなにも思えないでもない。
自信が持てると、自然と身体が軽くなる。ベイトは、少しだけ任務が楽しくなった気がした。
―――よく考えれば、剣を抜くことはまずないんだよね……。
ゼロと共に選んで買った愛剣を一瞥し、彼はそのことに今気がついたようだった。
10分ほどの休憩の後、再出発した一隊は、そろそろ北との国境に差し掛かっていた。
「なんだか、イヤな予感がするな……」
同行している15小隊長がそう呟く。
その言葉に呼応するように、一本の矢がベイトの隣を走っていた騎士の胸に深々と突き刺さった。彼の隣で、一人の騎士が物言わぬ物体となり、地に倒れる。
「う、うわぁぁぁぁ!!!」
ベイトの悲鳴が森に木霊する。
「止まれ!! 敵襲だ!!」
ヴォックの指示で、全員が武器を構える。ぞろぞろと出てきた敵兵の数は、ざっと50人はいた。いくら精鋭騎士、虎狼騎士といえども、多勢に無勢。虎狼九騎将抜きでのこの人数差は絶望的に近い。さらに条件は同じものの、奇襲を仕掛けてきた相手のほうが木々に囲まれ状況を巧みに利用してくるだろう。ベイトだけではない、誰から見ても西勢の敗北は必至のように思われた。
ちらっと先ほど矢で射抜かれた騎士を、騎士の遺体を一瞥する。一気に吐き気が喉までこみ上げてくるのを、無理矢理飲み下す。
―――生きなきゃ……!
剣を構えつつ、気持ちを集中させる。虎狼騎士になるために死に物狂いの特訓をした。ゼロや虎狼九騎将に抜擢されている剣術部時代の先輩、グレイ・アルウェイなどの攻撃もある程度なら防げるようになった。才能の面は、努力でカバーしてきたつもりだ。
前方から二人の影が迫った。両者とも、その手には剣が握られている。当然、鞘に収まっていない、人を切り殺すことのできる抜き身の剣。
ベイトは一方の攻撃を剣で防ぎ、もう一方からの攻撃を振り切った剣の勢いに乗じて跳び避けた。上手く立ち上がり、正眼に剣を構え敵と向き合う。軽鎧を着ていることから、相手も騎士のようだ。黒騎士を呈する北の精鋭騎士団、アイアンナイツの者ではないことが不幸中の幸いか。
ベイトが様子を窺っていると、一方が急いたように切りかかってきた。だが、それは単純な動きで簡単に見切ることができた。ベイトは敵の攻撃を自分の得物とぶつけ止め、すぐさま切り返して相手の剣を弾き飛ばす。剣を失い、慌てふためいた無防備な敵に、ベイトはとどめの一撃を繰り出すことができなかった。それを見た敵兵が必死に逃げ出していく。
まだ、敵といえども人を殺す事に対し躊躇いはぬぐえないようだ。
その逃げていった敵兵を見ていた隙に、もう一人の敵が迫っていた。ギリギリのところで気付いたベイトは咄嗟に剣を出し防ぐ。
「貴様、さては虎狼騎士といえども新米騎士だな? 殺さずに逃がすなんて、大した甘ちゃんだな」
低い、押し殺したような声で敵兵が話しかけてきた。少しずつだが、力負けして剣が押されていく。
「だが、俺はさっきの奴みたいにはいかんぜ!」
最後の一押しと言わんばかりに力を込めてきた相手の剣を巧くいなし、ベイトは難を逃れた。
気がつかなかったが、かなりの量の汗を掻いていた。
―――この程度の剣なら、見切れるはずだ!
転じて今度はベイトの方から攻めに行く。敵の肩口から袈裟懸けに切りかかるも、簡単な剣筋だったのか容易く止められる。だが、そこまではベイトの想定の範囲内だ。すぐさま相手の剣を掻い潜り、反対側から相手の剣を弾く。それにはたまらず敵兵も剣を手放した。
さらに踏み込み敵兵に剣を振り下ろしたベイトだが――。
―――これを振り切れば、僕の手は血に染まる……!
敵兵の首まであと30センチというところで剣を止めた。
そのベイトの様子から何を悟ったかは分からなかったが、敵兵はそれを好機と思い、護身用程度の短剣を取り出しベイトの胸を狙った。
「ガキが! 死ねやぁ!」
「う、うわぁ!!」
本物の殺気を当てられ、ベイトは無我夢中で止めていた剣を振り下ろしてしまった。
当然のことながら、剣は刀と違い片刃ではない、両刃だ。どちらを振り下ろそうと、刃は相手の皮膚を裂き、肉を斬り、血を呼び出し、そして……死を運ぶ。
「あ…………」
手ごたえが在った。何か硬い物と剣がぶつかったが、包丁で肉を切った時のような手ごたえが感じられた。目の前で、一人の男が血溜まりを作りながら死に行く。
「ぼ、僕が……」
―――殺したの……?
剣先から赤い液体が滴っている。
―――そうだ。お前が殺したんだ。
誰のものか分からない声が頭に直接話しかけてきた。激しい頭痛が襲い来る。
―――し、仕方なかったんだ!
―――仕方ない? お前が殺したには変わりないだろ。
―――だってこうしなきゃ僕は死んでいた!
―――お前が死ねば、この男は死ななかったかもしれん。
―――そ、それは……。
頭に響く謎の声に対し必死に自分を正当化しようとしている自分に、どうしようもないくらい腹が立った。事実を直視できない自分が情けなかった。
「ベイト君!」
突然の声に目が覚めた。頭に去来していた声が消える。
「あ、せ、先輩……」
ぼぉっとした視界に入ったのは、心配そうな表情をしたエミュアだった。
「大丈夫?! どこかやられた?!」
「い、いえ。大丈夫です……」
まだ、頭痛は治まっていないが、今は戦場だ。この程度のことでふらついていたら今度こそ死んでしまう。
「あ……」
立ち上がったベイトは、エミュアの肩が赤く染まっていることに気付いた。間違いない、鮮血だ。
「せ、先輩こそ大丈夫ですか?!」
無意識にその言葉を引き金に治癒魔法を唱える。柔らかい光がエミュアの肩を包み込んだ。
「ありがと。でもね、この程度の傷じゃ人は死んだりしないわ。後悔するのは後。今はしっかり戦いなさい」
叱咤され、ベイトは再び剣を握る手に力を込めた。ほんのちょっとの間、目を閉じて念じる。
―――後悔するのは、後……。懺悔ならあとでいくらでもやってやる……。今は、生きなきゃ!
「先輩、僕はもう大丈夫で――」
それは、唐突な訪れだった。目を開けたベイトの視界には、優しい表情を浮かべたエミュアと、その背後に立った長騎剣を振り下ろさんとする男。
「先輩! 危ない!!」
「え?」
ベイトの願いも虚しく、殺意を込めた剣は、エミュアの背後から振り下ろされる。
糸が切れたパペットのように、エミュアの細い身体が地に倒れる。おそらく、即死だろう。
「き、きさまぁぁぁぁぁぁ!!!!」
その光景に、ベイトの怒りが炸裂した。
自分への怒り、不甲斐無さ、敵への憎しみ、殺意。諸々の負の感情が少年を突き動かす。
感情に任せただけの単純な剣は、アイアンナイツの鎧を着込んだ騎士には容易く防がれる。泣きながら、ベイトは全身全霊の力を込めて剣を押し込んだ。お世辞にも筋肉があるとは言えない、華奢なベイトだが、その執念が敵兵の剣を圧倒した。
だが、力任せでは結局いなされてしまい、ベイトは大きく体勢を崩した。
そのあと感じたのは、腹部へ襲い来る、燃えるような激痛だった。
気がつくとベイトは、方向感覚も距離感もない、真っ白な空間を漂っていた。
「僕は、死んだのかな……?」
覚えている限りの記憶を辿る。そうだ、目の前でエミュアが殺され、激怒した自分は目の前の敵に切りかかり……返り討ちにあったはずだ。
「だったら、ここはどこ?」
ちゃんと足はついている。手足の感覚はしっかりしている。脈も、ある。刺されたはずの腹部には、傷一つない。
「ここはお前の中さ」
いつの間にか、目の前に自分とそっくりな少年が立っていた。いや、浮かんでいたというべきか。
限りなく似た容姿の、同じ人物のようだが、どこか自分ではないような気がした。
「き、君は?」
「俺はお前さ」
「君が、僕?」
「そう。そして、お前は俺だ」
「僕が……君……」
彼の言葉はどこか真実味を帯びていた。
心では、きちんと彼の言葉を受け入れている。理解できていないのは頭だけのようだ。
「だが俺のこともベイトだと分かりにくいからな……。俺のことはリヴァードとでも呼べばいい」
「リヴァード……」
その名を口の中で転がす。
「まぁ、そんなことはどうでもいい。正直なところ、俺たちはここでお前に死なれると困るんだよ」
―――俺……“たち”?
今目の前にはリヴァードしかいない。だが、確かに彼は“たち”と、複数形を使ったはずだ。そのことに対して疑問が浮かぶ。
「単刀直入に聞く。お前は生きたいか?」
自分と同じ容姿の相手なのに、何故か自分のほうが子どものように思えてきた。
「生きたい」
何故だろうか、後で聞かれても答えられないだろうが、その時のベイトは即答でそう答えた。
リヴァードがにやっと笑う。その笑みを見たベイトは、一瞬背筋がぞくっとしたのだが、何故かそれ以上の好奇心がベイトの胸に去来した。
「それじゃあ契約成立だ……」
リヴァードがベイトの方向へ歩き出す。その身体が触れ合おうというとき、ベイトの意識は途絶えた。
「!!!!!!!!!!!」
「!!!!!!!!!!!」
2つの咆哮が森に木霊した。方や8つの目と、4本の足、闇色の長い鬣をたなびかせる、黒き、恐るべき巨体の魔獣。もう一方は首が3本あり、どこか伝説のドラゴンを彷彿させる、化け物だ。
「おいおいお前ら、少しは遠慮しろよ?」
誰もが死んだと思っていた少年が立ち上がっただけでも注目を集めたが、立ち上がった少年以上に彼の両脇に出現した謎の獣に誰もが言葉を失った。
「悪いが、目撃者を残すわけにはいかねぇんだよなぁ」
容姿はベイトそのものだったが、その言動はどうやらリヴァードのもののようだ。
「ベヒモス、ヒドラ、やっちまいな」
口の端を吊り上げて、少年はそう告げた。
2体の魔獣が、動き出した。
どれくらいの時が経ったのだろうか。ベイトは目を覚ました。
倒れていたはずなのだが、何故か自分は立っていた。
「え……?」
眼前に、地獄絵図が広がっていた。死屍累々。アイアンナイツの鎧を身につけた者も、虎狼騎士の制服を着た者も、諜報部の者も、差別無く、全員無残な死体を晒していた。ある者は上半身だけになっていたり、五体がバラバラになっていたりする者もいた。どう見ても人にあらざる者にしかできない荒行だ。
「う!」
ベイトは堪らずその場で嘔吐してしまった。だが、真相に答えてくれる者は誰もいない。
はっと気付いて腹部に手をやると、傷一つない、綺麗な肌のままだった。
「……夢……だよね……」
『夢じゃねぇよ』
「だ、誰?!」
脳に直接声が響く。そこでベイトは地面に膝をつけ、頭を押さえた。
「君は……リヴァード……?」
『なんだ、わかってんじゃねぇか』
「これは……僕がやったんだね……この僕が!」
少年は激しく問いただした。傍から見れば気が狂ったように思われるかもしれない。ただ一人で、周りには遺体しかない中で少年は叫んだのだ。
『お前も関与はしてるがな。ネイロスの呪われた血には、俺とベヒモス、ヒドラが宿っている。お前の先祖、ネイクターの野郎が俺らを扱き使った後、封印してくれやがったのさ。この封印はネイロスの血が途絶えるまで解けやしねぇ。呪いさ』
「そ……んな……」
全身から力が抜ける。つまり、この惨劇を巻き起こしたのは自分がこの場にいたからなのだ。自分の中にいる怪物が、50人以上のエルフを殺したのだ。
少年は、何かに取り憑かれたように、ふらふらとした足取りで西へと戻っていった。
「ウォービル様」
西に戻り、5日間ほど自室に籠もったままだったベイトだったが、その日久々に部屋から出て、アリオーシュ家へと足を運んだ。
ウォービルは、大親友のゼロの父親にして、虎狼騎士団長を務める西の英雄だ。
ゼロに話をつけ、ウォービルに謁見を願い出たベイトは、ゆっくりと口を開いた。
アリオーシュ家の応接間で、向かい合って座るだけで物凄い威圧感を感じる。隣にゼロがいてくれなければ、声を出すこともできなかったかもしれない。
「ウォービル様は……ネイロス家の血のことをご存知ですか?」
ベイトの言葉に対し、ゼロは意味不明に首を傾げたが、ウォービルは方眉を上げた。
「……この前の出撃で君だけ帰還したのは、それが理由なんだな?」
「……はい」
ウォービルの言葉に、ベイトは小さく首肯した。
「どういうことだよ?」
ゼロが口を挟んだが、ベイトはなかなか答えられなかった。
「少し黙って聞いていろ」
ウォービルの強い言葉にむっとしたゼロだったが、ベイトがちらっとゼロを見た時の表情から、口を閉じた。ベイトの顔が、あまりにも綺麗で、あまりにも悲しそうだったのだ。
「リヴァードが、君に話しかけたんだな?」
「……その通りです」
「ネイロスの呪われた血については、我々西四家はほぼ全て理解しているつもりだ。君の父上、故ネイロス郷の協力もあって召喚の仕方も聞いている」
ウォービルの言葉に、ベイトはぱっと顔を上げた。正直なところ、自分には身に余る力だと思っていたのだが、まさか扱い方があったとは。
「それについては後で教えよう。それよりもまず、君はリヴァードについて知っておくべきだ」
「リヴァードに、ついて」
「あぁ。リヴァードは、獣神ネイクターの忠実な配下として戦った魔獣の一匹なのだが、人語を解し、変化の力を持った最強の魔獣だったそうだ」
「その変化の力で、人型となったというわけですか……」
ちんぷんかんぷんのゼロを尻目に、ベイトは確認するように声を出した。ウォービルが頷く。
「だが、恐るべきは奴の力。再生能力だ」
ベイトが驚いたように顔を上げる。
「その再生能力の所為で、僕は死ななかった……」
「そうだろうな……」
ウォービルの低い声が、事実を事実と示していた。
「ネイロス家の者が、どうしていままで騎士にならなかったか知っているか?」
ベイトは首を横に振った。
「リヴァードの力によって、魔獣を身に宿した者は、死ねんのだ。そして、身勝手な復活の代償として強制的にリヴァードら魔獣を蘇らせてしまう。魔獣を子へと委ねるまで、君は死ぬことはできない」
「僕は……死ねない?」
「はぁ?」
堪らずゼロが割って入ったが、今度は無視された。
「リヴァード自身、分からんのだろうな。血が途絶えた時にどうなるのか。だからこそ、血をなんとかして保っているのだろう」
「そんな…………」
ベイトの表情が暗くなる。ウォービルも、少しだが肩を落とした。
「ベイト君」
「はい?」
しばらくの間を置いて、ウォービルが口を開いた。
「虎狼九騎将にならないか?」
「え?」
「お!」
唐突な提案に呆気に取られたベイトだったが、ゼロは表情を輝かせた。だが、虎狼九騎将といえば虎狼騎士の頂点に立つ騎士のことを指す。自分は先日の戦いで一度死んだ身だ。到底実力があるとは思えない。
「この前の出来事から生きて帰ったという事実を利用すれば君を英雄と立てるのは容易い。そして、君には否応なしにも魔獣の強大な力がついてまわる。最悪のケースも、我ら虎狼騎士全員が力をかければなんとかなるかもしれんしな」
ベイトは、しばし黙り込んで考えた。
「やろうぜ!」
ゼロが立ち上がってベイトを誘った。
「これから努力すれば、実力なんてすぐつくしさ!」
ゼロの誘いに対し、ベイトは満面の笑みを見せた。
「ありがとう、ゼロ。……ウォービル様。僕の力でよければ、どうぞお使いください」
立ち上がり、ベイトはウォービルに一礼した。ウォービルも深く頷く。
「手続きなどはこちらでやろう。ではベイト君。隣の部屋に来なさい。召喚の方法を教えよう」
「あ、ありがとうございます!」
ベイト・ネイロスが虎狼九騎将となって、2週間が経過した。今日もベイトはアリオーシュ家へと足を運び、ゼロと訓練を行っていた。
「ゼロ、この前ウォービル様と話したこと、できれば忘れてくれないかな?」
休憩時間に、ベイトが思い切ってゼロにそう告げた。その表情から窺うに、ずっと言おうとしていたようだ。
「やだ」
「む」
即答で拒否され、ベイトは怪訝そうな表情をした。こういう時のゼロは対外優しいものなのだが、予想外の反応だった。
「なんか、大変なこと背負い込んでるんだろ? 俺が力になれるのかわかんないけどさ、ベイト一人で苦しまなくてもいいんじゃないの?」
「ゼロ……」
ゼロは、ベイトの目をまっすぐに見ていた。その視線に、ベイトも応える。
「この前の初めての任務で、僕一回死んだんだよ?」
「それはこの前の話でなんとなく理解した」
「僕の身体の中に、魔獣が、ものすっごい凶悪な力が宿ってるんだ。扱い方はウォービル様に聞いて覚えたからいいんだけど、もし僕が戦いの中で殺されるような傷を負ったら、もう一人の僕が目覚めて、当たり構わず周囲の生命を皆殺しにしちゃうらしいんだ……」
「そんなの!」
ベイトの態度に業を煮やしたゼロが勢いよく立ち上がった。そしてベイトの方に手を差し出す。
「俺がベイトを守ってやる!」
ベイトは耳を赤くして照れてしまった。なぜだか、すごく気恥ずかしかった。
なんとかゼロの手を握り返し、立ち上がる。
「じゃあ、僕もゼロを守るよ」
お返しと言わんばかりに、ベイトがそう言う。
「ベイトが?」
「あ~、なんかその言い方心外だなぁ」
二人はそこで顔をつき合わせて笑い合った。
これからの道は、お互いで協力して作っていけばいいのだ。
「ゼロ」
「うん?」
「ありがとうね」
「どーいたしまして」
もう、あんな殺戮を繰り返さないために。
二度とあの惨劇を起こさないために。
エミュアのような悲劇の人を生み出さないように。
少年は己の呪われた血に誓うのだ。
強くなって、誰も悲しませないことを。
大好きな人を、守れるようになると。
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