第12章

つまらない戦い








 深夜の話し合いを踏まえて、翌朝再び円卓が集められた。アドルフだけは療養中だが。ほとんど寝てはいないだろうが、マチュアはしっかりと参加しているのは評価したいところか。
「……以上が今後の方針だ。当面ベイトとテッセンさんは、2日後の出発に向けて準備してくれ。それと、エキュアさん、手間だとは思うんだが、その、コールグレイ家の力で国境警備強化を頼めないか?」
 その言葉に名前を呼ばれたエキュアはもちろんのこと、彼女の実弟であるライダーも少しだけ、眉をひそめた。既に席を立とうとしていたテッセンも動きを止める。
「父に一つ借りを作るお思いですか?」
 彼女の言葉には、どことなく圧力めいたものがあった。エキュアはゼロよりも背が高い。体格も上であり、年齢も8つ上だ。座って居ながらも迫力があるのだ。だが、それだけでは説明のつかない圧迫感。
「ああ。こんな状況だ。コールグレイ卿の、シュバイン殿の力を借りたい」
 ゼロの真っ直ぐな眼差しを正面から受けながらも、エキュアはひるまない。
「あの人のことを、知らない陛下ではございませんよね?」
 その言葉にユフィの表情に暗さが生まれる。
「ゼロがいない間の2年間も色々あったんだけど……その……シュバイン様は、簡単に引き受けてくれる人だとは思えないよ」
「俺もだ。父上が今回の件に関して、おま……陛下の言うことを聞くとは思えない」
 ライダーも話に加わる。彼もまた、自分の父の話だというのに、どこか暗い表情をしている。会議室の中に、不穏な空気が流れる。
「どうしてだい? コールグレイ卿は、西の王権をアリオーシュ家に譲渡するよう交渉した時、率先して参加してくれてたけど……」
 流れが分からずも、知っている記憶を頼りにシスカが話に加わってくるが、彼も自分で口にしていて途中で気づいたことがあったようだ。
「はっきり言って、南に全面的に協力する姿勢をここまで示してしまっている以上、コールグレイ家はあてにできないでしょう」
 ミシィの断言するような言葉は重い。
 全員の不安な視線がゼロに集まる。
「ヴァイス殿とアリアーゼ夫人も同じ意見と捉えるべきなのかい?」
 ヴァイス・コールグレイと、アリアーゼ・コールグレイは、ヴァイスがコールグレイ家の嫡子であり、アリアーゼはその妻の名だ。
「兄は父上の右腕ですからね。無論義姉様も同様です」
 エキュアの淡々とした言葉は、聞く者にプレッシャーを与えるような、優しさもいたわりもない、真実を告げる力強い言葉だった。
「じゃあこれは西王として命ずるものだとしたら?」
 一歩も引かないゼロ対し、エキュアが一度視線を外した。
「5分……いえ、勝算は4分か3分程度でしょう」
「それでもいい。エキュアさん、話だけはしてみてくれ。納得できないようなら、直接こっちに来ても構わないってことも一緒に」
 ここでエキュアがため息をつく。
「お言葉は確かにお伝えいたします。ですが、説得に関しては陛下にお願いしますよ? 私も父は苦手なので」
 その言葉に周囲のメンバーから少しだけ驚きの声が漏れた。いつも気丈で凛としている近衛騎士団長殿にも苦手なものがあったとは、そんな表情だ。
 一方のゼロは満足げな表情を浮かべる。
「“正統主義”だのなんだの、そんなこと言ってる状況じゃないってこと、そろそろ理解してもらう頃合いなんだよ」




 全体での話し合いが終わってから、ライダーはゼロの側へ近付いた。
「“正統主義”ですか、久々に聞きましたよ、その言葉」
 ライダーが話しかける前に、アーファがゼロに話しかけていた。まるで雰囲気は学校で分からない問題を先輩に聞く後輩だ。
「確かに西だとあんまり聞かないかもな。元々分治政だったし。でもコールグレイ家は“正統主義”の筆頭、しかも逆に分治時代からその思想ってことは、他の国のそれよりも、強く深く根強く意識されてるってことなんだよ」
 “正統主義”とは東西南北それぞれの国において、自国を第一として考え、行動しようとする主義者の思想だ。他国の情勢など関係なく、自国の利益を優先するのである。
「愛国心ってのは、大事なんだが――」
「――父上には何言っても駄目だ」
 タイミングを待っていたライダーが、二人の会話に入っていく。彼の悔しそうな表情に、二人は何も言えなかった。
「悪いな、もう昔みたいな東西南北が争う時代じゃないって、何回も話してるんだが……俺なんかの言葉じゃ焼け石に水なんだよ」
 ライダーはコールグレイ家の家長であるシュバイン・コールグレイの8人の子どものうちの末子だ。だからこそ可愛がられそうなものだが、簡単にはいかないらしい。現在の肩書ではライダーもミュー・グレムディアと結婚したことにより、グレムディア家の家長となっており、元西四家の家長である、という点では彼も父と対等な関係になったことになるのだが。
「でも、西を守るためなら、あの人は何も言わずにそれをやるはずだ。侵略してくる敵がいるなら、必ず対応するはず」
 ライダーの父親への想いが伝わってくる。既に父親をなくしたゼロにとって、それは少し羨ましいものだった。
「でもコールグレイ卿は、現在の状況を全て把握しておいででしょう? 南救出ってこっちの方向性が知れてしまっている以上、正直、協力してくれるとは思えないなぁ」
 新しくユフィが会話に入る。ゼロのいない2年間で見てきた経験から、彼女はシュバイン・コールグレイについて何かを諦めてしまったようだ。ライダーも、反論が出てこない。
「それじゃあ意味がないんだ」
 ゼロの言葉は落ち着いたものだった。
「それじゃあ意味がないんだよ」
 繰り返して言うその矛先は、まるでライダーたちではないようで。
「ライダー、この国の色は何色だと思う?」
 ゼロの質問はまるで無から生まれてきたかのように、全く意図が分からなかった。
「長いこと手を汚して、赤を浴びてきた俺たちが築いた国なんだ。“純白”であるはずが、ないんだよ」
 ゼロが立ちあがる。その視線は今ではない未来へ。
「向こうが動かないなら、こっちから動くまでだ」





 同日、南にて。
「シックス様、今日も帰ってこないね……」
「僕たちを置いて、どっかに行っちゃったの?」
 小さな子どもたちが不安そうな表情を浮かべて一人の女性に尋ね続けていた。その言葉を受ける女性の表情は努めて明るかった。
「そんなことないよー? シックス様はみんなのこと大好きなんだもん。もうすぐ、もうすぐ帰ってくるから、心配しないの」
 優しく子どもたちに言葉をかける女性は、よく見ればまだ少女と称しても差し支えのない容姿だった。彼女の周りには、10人を越える子どもたちがいる。みな年齢も容姿もバラバラだ。血縁があるとは思えない。
「ほら、今日はもうおうちの中に入ろうね。雨が降ってきそうな天気になってきちゃったぞー」
 彼女の声は優しい、子どもたちに見せる表情も優しい。だが、どこか違和感を覚えざるを得ない笑顔だった。
「はーい」
「コトブキさまー。あたし今日は『森の女神さま』よんでほしいなー」
「はいはい。分かりましたよー」
 子どもたちからコトブキと呼ばれた彼女こそコトブキ・ナターシャであり、現南の魔法騎士団長シックスの妻だ。元々は東のジェネラル孤児院で育てられた、エルフとヒュームの混血であるハーフエルフだが、大戦で出会ったシックスと縁あって今のような間柄になっている。現在二人で運営しているナターシャ孤児院では、大戦で親を失った孤児たち14名が生活を共にしている。ナターシャ家の屋敷の隣に建てたこの小さな孤児院が、今となっては二人の家だ。
 子どもたちを不安がらせないように答えてはいるものの、彼女とて南の現状を知らぬわけではない。ナターシャ家の諜報部を介して王城落城のことも、シックスが生死不明だということも聞いている。だが、子どもたちに不安を与えぬように、自分自身に彼が生きていると信じ込ませるために、彼女は子どもたちの前では気丈に振る舞っているのだ。
 子どもたちを院内に移動させ終わって、彼女はふと空を見上げた。どんよりとした空は、人の心に不安を駆り立てる。
 魔法騎士団だけではない、王立騎士団も、神聖騎士団も、白鳥騎士団も、諜報部も敗れたという話は、俄かには信じられない。王城を奪い取ったというザッカート孤児院が主だって何も動かないため、戦いに参加していない貴族たちは不安を覚えながらも、迂闊にも動けない変わらぬ日々を送らざるを得ない状況に陥らされているのだ。
 彼女のナターシャ家だけではない、南の有力貴族たちであるヴェーフェル家やミュラー家、ボルフォノス家、王城を挟んで東南側にあるリオラーゼ家らも動いたという情報を聞かない分、動けないのだろう。
――御旗無き状況ではやはり動けないよね……。どうにか他家と連絡を取りたいのだけれど……うかつな動きが敵にバレては、この子たちが危ない……。兄さん、こんな時はどうすればいいのかな?
 今は亡き兄に尋ねても、無論返事はない。彼女の兄は大戦で死んだ。聞けば敵の総大将であったムーンに殺されたという。彼女のおかげで彼女は表舞台に出て来られたが、結局は彼女のせいでコトブキはこの世にたった一人だった肉親を失ったのだ。その孤独への憐みが、シックスと彼女を結びつけたのだが。
 南の貴族たちで蜂起するのであれば、最も御旗となり得るのはナターシャ家だ。古くからコライテッド王家を支える最強の魔法使いの一族であり、名家としても名高く、他家からの信頼も厚い。だがそれもナターシャ家の本筋の者でなければリーダーとはなれないだろう。広くは公表されていないが、彼女はシックスの妻となっているものの、元々南の者ではないことは知られている。シックスの名を借りて立ち上がるには、彼女の名は弱すぎた。元来保守派の多い南であることが、ここにきて最大の欠点となってしまっているのだ。それだけコライテッド王家が強く威信を保ってきたことの裏付けでもあるのだが。
――シックス、どうか無事で……。





「ベイトが戦場に行くなんて珍しいね」
 早朝の円卓終了後帰宅したベイトは、家で自分の装備を点検していた。しばらく使っていなかった軽鎧と剣を眺めていた彼にテュルティが話しかける。
「今回の任務は名目上南の貴族救出だけど、実際は囮だからね。僕以上の適任はいないよ」
 彼の表情にはいつもの微笑み。彼が囮に適任だという意味が分かる。彼の血には、ネイロス家の血には一種の呪いがかけられているのだ。神々の大戦の時代から引き継がれる、獣神ネイクターの血に宿りし魔獣、リヴァードの特性とも言えるべき呪い。この話はかつてテュルティも聞かされたものだった。
強大な力を持つ魔獣たちを、自分の血と寿命を代償に、特殊な印を切ることによってネイロス家の嫡男は契約した魔獣たちを呼び出すことが出来る。ベイトの身に宿る魔獣は、ベヒモス、ヒュドラ、ケルベルスと、リヴァードの4体だ。前者3体は、単純な破壊力を持った魔獣だが、リヴァードだけは別物だ。“彼”だけはどのようにしても呼び出すことは出来ない。そもそも何故リヴァードだけ“彼”と称することが出来るのか。それはリヴァードがあらゆる魔獣たちの中で唯一、自我と思考能力、及び欲を持ち、ヒト型を成すことが出来るからだ。正確には再生をつかさどる魔獣のため、自分の姿を自由に再生することが出来るのである。この再生をつかさどる、という特性が、ネイロス家への一種の呪いとなっている。
リヴァードの契約者は、死ぬことが出来ない。その身に“彼”を宿している限り、何度でも肉体は再生するのだ。かつてベイトが虎狼騎士になりたての頃、彼は一度殺されたことがある。そこで初めてリヴァードと対面した。契約者の死は、魔獣にとっても死を意味する。だからこそ、リヴァードはベイトを生き返らせるのだ。この呪いはネイロスの血が次の世代に受け継がれるまでずっと消えることのない、ベイトへの呪いだ。
「この呪いが誰かのために役立つなら、僕はこの呪いを甘んじて受けるよ」
 その言葉にも、テュルティは釈然としない表情だ。
「……ベイトってさ」
 その声の調子から、初めてベイトの視線が動く。
「自分の痛みを気にしないように生きてるけど……私は痛いんだからね」
 はっきりとは分からなかったが、彼女の目には、涙があったように見えた。
 そう言ったきり部屋を出て行ってしまった彼女の後ろ姿を追うかのように、ベイトの視線は部屋の入り口をただただ見つめるばかりだった。





そしてまた同日。
「さて、これはどういったわけなのかしら?」
 黒装束に身を包み、顔も目元以外を隠した数人に囲まれながらも、彼女は冷静だった。彼女を囲む者たちはみないつでも抜刀出来る体勢になっている。見るからに手練の連中だった。
「抵抗しなければ命は奪わない」
「この状況で、全く信じられる言葉ではないわね」
 彼女のいる部屋の入り口では、二人の男性が血を流しながら倒れている。彼らが侵入してくるや否や、斬られたのだ。
「動乱の幕開けだよ、歌姫マリア・フィーラウネ」
 新たに部屋に入ってきた男は、見たことのある服装をしていた。あれは確か諜報部の制服だ。その男をマリア・フィーラウネと呼ばれた女性は黙って見つめた。
「“ピースメーカー”という平和の象徴組織の代表である貴女を捕えることは、それだけで平和への宣戦布告となるのだ」
 “ピースメーカー”は大戦終結後、西のユフィ王妃の提案により、平和を願う各国からの有志により結成されている平和推進機関だ。武力による問題解決を排除し、対話と戦災支援をメインに活動しており、そのポジションは既に各国でも周知のものだ。
「貴方は本当に諜報部の者なのかしら?」
 マリアが男に問う。現在襲撃を受けているのは、東の“ピースメーカー”の本部だ。身内に攻撃されるとは、夢にも思わない事態だったろう。
「確かに、王国に背いた時点で最早この服は不要だな」
 男はマリアの言葉を受け、そう言って羽織っていたコートを取った。彼の左胸には、三本の剣を交差させる形の紋章が刺繍されていた。
「“スリーソード”の紋章ね……歴史を繰り返すために立ちあがったのかしら? それとも、南の流れに乗じなければ蜂起も出来なかった弱虫?」
 “ピースメーカー”は武力による問題解決を是としていなかったため、この屋敷に戦力はほとんど存在しないに等しい。だがこの状況の中、マリアはためらうこともなく相手を挑発した。相手の胸の“スリーソード”を憐みの目で見つめる。
「期は熟したのだ。クールフォルト家に表舞台から下りてもらう手始めとして、まずは貴女に敗北を認めてもらう」
「……あなたたちの望みは権力なのかしら?」
 彼女の瞳に、感情はない。リーダーらしき男を見ているのか、見ていないのかさえ分からない。
「我ら末端の意思など関係ない。全ては我らが主の宿願のため」
 “スリーカード”の紋章、元々は諜報部にいたこと、宿願、クールフォルト家への敵対視、これだけの条件が揃っていれば、マリアにはもう十分だった。きっと彼らも忠誠という名の鎖に繋がれ、利用されているだけなのだ。おそらく、彼らの主は彼らのことを露ほども気にかける者ではあるまい。
「ムーンの粛清で、だいぶ仲間をやられたでしょうに……よくもまぁ立ち上がる気になれたわね」
「あんなものは障害の一つに過ぎん。長年の屈辱を晴らすためならば、どんな苦行も越えて見せる」
 ここまでの思いということは、この男は敵の幹部に近いポジションなのかもしれない。
――どうしましょうかしらね……。
 彼女としての選択肢は2つ。大人しく相手の言うことを聞くか、力で相手をねじ伏せるか。彼女自身に戦闘力はない、そう思われているのは間違いない。貴族学校時代からずっと、その“設定”を守り抜いてきたのだから。だからこそ、力で、魔法で相手を消すことは容易い。だが相手方の数も把握出来てはいないし、どこに潜んでいるか分からない。“ピースメーカー”の代表たる自分が正当防衛で力を示したことが発覚することは避けたい。敵の親玉は自分以上に国政に携われる存在だ。いかようにも自分に罪をなすりつけ、世評を動かす情報を作れるだろう。
――ここで捕まって、敵の流れを知るにしても、せめてこの情報を共有できる、連絡役となり得る味方が一人は欲しいわね……。
「マリア様! ご無事ですか!」
 そのまだ幼さの残る声と、赤が飛び散るのは同時だった。
「え?」
 この部屋に入ってこようとした瞬間、彼女は背後から刺されたのだ。
「マリ……ア……さ……?」
 届かぬと知りながら、彼女の手がマリアの方へ伸び、そして事切れたように倒れる。この一連の惨劇に、マリアの時が止まる。
「セ……ホ……?」
 辛うじて喉を通じてくれたのは、今倒れた少女の名だった。“ピースメーカー”発足当時から彼女を支えてきた、まだ若く、頼りない部分もあるけれども、誰よりも平和を愛し、守ろうとしていた少女だ。敬愛する兄、アスター・リッテンブルグを大戦で失ったからこそ、全力でその兄の守りたかった平和を守ろうとしていた少女だ。
「早めに決めていただきたい。そうしなければ、犠牲は増えるばかりだぞ」
 マリアの肩が震える。どんな時でも冷静で、どんな時でも無表情の彼女が、肩を震わせ、その場にしゃがみこんでしまった。
「マリア様、ここは大人しく我々に従ってくれませんか?」
 聞いたことがある声だった。突然のことで目がいっていなかったが、気づけば、今セホを刺したのは、自分の知っている少女だった。彼女の表情には、悲しみが浮かんでいる。
「ミラルカ……貴女……」
 ミラルカ・ベルカキクスも、発足当時の“ピースメーカー”を支えてきた、彼女の大事な仲間だ。セホとは、誰よりも仲がよかったはずだ。
 それなのに。
 ミラルカが、セホを刺したのだ。
――あぁ、もう……。
 しゃがみこんだまま、マリアは天を仰いだ。天井がこんなにも無機質だと知ったのは初めてのことかもしれない。
――私の予定どうしてくれるというの……。
 セホを殺したミラルカは憎い。だが、ミラルカも、セホと同じくらいかけがえのない存在なのだ。その気持ちを変えることは簡単にできない。まして、あんなに悲しそうな顔をされたら。
きっと彼女にも何かしらのわけがあるのだ、そう信じることしか出来ない自分の無力さが、何よりも歯がゆかった。
 悲しいはずなのに、この目には涙の一滴も溢れやしない。
 いつからこんなにも感情を表現出来なくなったのか、思い出せもしない。
 だが、セホやミラルカが、彼女にささやかな微笑みをもたらしてくれていたことは、この2年間で変わらない、揺るぎない真実だ。彼女たちはマリアのお気に入りだった。
 しばしの沈黙のあと、マリアが立ちあがる。
「いいわ。エスコートは、丁重にお願いね」
 そして“スリーソード”の男たちと共にこの屋敷から消えていく。
 敗北感は、なかった。
――あぁ、なんてつまらない戦いなのかしら……。
 あるのは、虚無感だけだ。





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