ヒロガルセカイ。

ヒロガルセカイ。

専属になりたい。 →1/8UP!



駅からほど近い、人通りの多い県道沿いに最近出来た美容院がありました。
コンクリート打ちっぱなしの無骨な店構えが、一見さんお断りの雰囲気を醸し出しています。
しかしそのオープンではない造りが、新しいものを求める学生やOLさんに受けて結構な繁盛振り。

「新垣さん、今日はどんな感じにしようか?」
馴染みの美容師が鏡の中のアヤに微笑みかけています。
「いつもと同じで」
興味なさそうに携帯をいじっています。
「試したい髪型があるんだけどなあ。新垣さんに似合いそうなんだけどなあ、どう?僕に任せてみない?」
「他の人で試してください」
視線もくれません。

薔薇を背負ったスカルがプリントされたカットソーに、下半身はぴちぴちのスキニーパンツ。
意味無く背負ったテンガロンハットに、腰につけたシザーバッグは牛柄。
室内にいるくせに雪道用の滑り止めの金具のついたブーツ。
かなり個性的なこの美容師が、アヤに惚れている様子は傍目にも伝わりました。
「昨日、新垣さんから予約の電話を貰ったときの顔ときたら!」
「恍惚としていたよね」
スタッフがこそこそ話しています。
「あんまり露骨にすると、お客に逃げられるぞ」
皆が心配する中、カットは順調に進んでいきます。

「新垣さん、今年で高校卒業ですよね」
「はあ」
「進学ですか?」
「あ・・」
そういえば決めていませんよ!
このままでは、卒業と共に大叔父の家に行かされそうですが!
自分の一生を決める大事な進路、ぼ~っとして忘れていたなんて笑い話にもなりませんよ。

「学校に戻らなきゃ・・」
「え。忘れ物ですか?毛先デジパーマですから、あと1時間はかかりますよ?」
すぐに動けません、アヤは記憶を辿ります。

春頃に、保護者宛に進路希望の確認があったような気がします。
同席しませんでしたが、夏休み前にも三者面談があったような。
秋には、なぜか保護者を交えた部活の引退があって。
あら?

そういえば保護者代わりに・・志信さんが来ていたのです!!
自分の親ではなくて同棲相手が堂々と。
ノブとは偶然顔を合わせなかったから良かったものの、普通は担任が咎めるでしょうに・・志信さんの迫力に、何も咎められないへたれ担任。
進路は極道、そのために先日はご挨拶に出かけて・・?
アヤの自覚の無い間に、すべてが滞りなく進められていました。

「学校に戻ります?」
「いい」
ふう、とため息をつきました。
無意識に尖らせた唇に、美容師はドキドキです。
手が震えそうで危ない。
見かねたスタッフが交代させました。
「失礼します」
声が変わったので、アヤが鏡越しに美容師を見ました。
見たことの無いお兄さんです。
何か言おうとして口を開けたアヤに

「ヤバイ」

お兄さんが思わず呟きました。
「あ、すみません。こんな近くで見たことが無かったので」
「誰ですか」
「次朗と言います。いつものやつ、ちょっと興奮・・いや、席を外しましたので俺が引き継ぎします」
誰でもいいから、さっさと終らせて欲しいものです。
はあ、とアヤが気のない返事をしたら

「今晩空いていませんか?」
耳元で囁かれました。
「空いていません」

「俺、すっげー好みなんですけど」

2話です。



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