ヒロガルセカイ。

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柊リンゴ

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2006/08/21
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一瞬・言葉を失いましたが、予想でもしていたようで。

余裕のある態度に、宇佐美くんは微笑しました。
「ああ。ここで絵を描くことにしたよ。」
夏は身長が伸びやすい季節です。
章の背が、すこし高くなったと気がつきました。
「・・目線が合いますね。」
章も苦笑しました。
「かっこよくなって。どこに行くんだ?」

「部長が行ってるんだろう?持ってきてもらおう。」
木下くんが携帯でメールを打ちました。
「ありがとうございます。」
「いいよ、これくらい。」

宇佐美くんは部室に入ると、机の上の絵の具を眺めたり。書きかけの絵を見つけたり。うろうろし始めました。

「宇佐美さんは木下先輩と組むんですよね。」
章が聞きます。
「そうだね。絵本を作りたいらしいから。それも興味があるんだけど。」
宇佐美くんは、ゆっくり章に近寄ります。
章は木下先輩がいるから、たいしたことはしないだろうと高をくくって、悠然としていました。

「俺はきみに興味があるんだよ。」

「は?」

そんなはっきり言えるものなの?

「そんなに驚くことか?俺は前から章が気にいってるんだよ。」
木下くんも驚きました。
「宇佐美くん、章くんには・・。」
「誰がいようが関係ない。」

キツネの狙いは揺るぎません。


「絵を一緒に描くのは諦めてやる。でもそれ以外は譲らないよ。」

「それ以外って。宇佐美さん、俺は。」
「俺を好きになればいいんだよ。俺に興味があるでしょう?」
勝ち誇ったキツネ。
章は、こころが揺らぐのを感じてしまいました。
「出会った時に感じたんだ。俺とウマがあうって。相手がいようがいまいが、俺のものになればいい。」


「そんな不純な動機では困るよ。宇佐美くん。」
木下くんが間に入りました。
「絵を描くのに、余計な欲望は控えてもらおう。」
「高尚だね。木下、欲望があるからこそ想像力が豊かになるんだぞ。」
宇佐美くんは、どいて、と手を振ります。
「欲しいと思う欲望。精神。それが芸術の源だ。」



「すごい後輩を迎えるんだね。」

声がしました。
どこかで聞いた甘い声・・。
「黒木・さん?」
宇佐美くんも知っている様子。
どうやらかなり顔が広い先輩ですね。
「木下くん。部長から預かったんだよ、ほら。新聞紙。」
夏の日差しを受けても爽やかさを失わない、柑橘系の香りを漂わせて笑顔で近寄ってきます。
「宇佐美。後輩をいじめるなよ?おまえ、生徒会はどうした。」
「強制じゃないでしょう。」
「強制。無責任甚だしいな。なのにそのご身分で、後輩を追い詰めて?」
綺麗な顔をして、黒木先輩はかなりのつわもの。
「解放しな。」
宇佐美くんが体をずらしてふてくされます。

「あ。章くんか。」
憧れの黒木先輩に名前を呼ばれてびくっとしました。
「宇佐美。この子は美術部の期待の後輩なんだから。いじめんな。」
「いじめてないですよ。」
「こ憎たらしい顔だなあ。こら。」
黒木先輩は宇佐美くんの鼻をきゅっとつまんで。笑いました。
「仲良くやれよ。由貴ちゃん。」
「黒木さん。ここの人間じゃないでしょう?」
「俺はよくここに遊びに来るんだよ。ここのひとたちは、面白くて好きだからね。
由貴ちゃん、いつまでも反骨精神じゃつまらないよ?楽しく生きたもん勝ちだ。」
黒木先輩と宇佐美くんが顔なじみのようで。
章は木下くんに聞きました。
「あのふたりは・?」
「黒木さんは生徒会の副会長だよ。俺と宇佐美くんは役員。よくしてもらってるんだけど、まさか・・ここでも助けられるとはね。」
木下くんは苦笑していました。







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Last updated  2006/08/21 05:58:42 PM
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