2008/09/29
テーマ： ＢＬ小説を書いてみよう。(6775)
カテゴリ： スーパーラブ（BL)
「お、矢崎くん。今から休憩？」
「今回はご愁傷様。よくない噂が流れるなんて、二人共期待の新人だから妬む奴がいたのかな」
「さあ、気にしませんが」
章人は店内で望と別行動でも部屋に帰れば共にくつろげるから、気に掛けないのだ。
（子供ではないのだから、いつも一緒にいられるはずが無い。私生活で一緒にいられるのだから問題は無い）
「一宮さんと僕は、次代を継ぐ有能な新人として大事に育ててきたのにこの有様で悔しいよ。噂を流した犯人は許せないなあ」
辻本は部下の望や章人を思い、憤っている。
「平気です。売り上げで見返しますから」
「そうですか」
章人は自分も追われていると感じた。
（油断したら抜かれてしまうな）
ふと脳裏をかすめたこの思いに、胸騒ぎがした。
子供達が夏休みに入り、店内は平日でも賑わうようになった。
章人は先の広告の効果で新規顧客を獲得し、補佐のアルバイトとも良い信頼関係を築きながら充実した日々を送り、部屋に帰れば望と「賞与で何を買う？」と他愛も無い話をして、その素肌を重ねあい、体だけでなく心の繋がりを確かに感じていた。
八月に入ると初の賞与を受け取った。
章人はより一層の精進をと、気持を引き締めていたら、紳士靴売り場に辻本が現れた。
「え。捜索は久々ですね」
責任感が芽生え、売り場から滅多に離れないようになったはずの望がいないとは。
「うーん。てっきり矢崎くんの元に駆け込んだと思ったのに」
その言い方が章人には妙に引っ掛かった。
「どうしてですか？」
澤井くんは八月二十日付で辞令が出た。隣町の大型店に異動が決まったのだよ」
（え？ 何も聞いていないぞ？）
章人は愕然とした。
隣町の大型店はこの店舗と同規模のショッピングモールだが、周りが高級住宅街や大学があるので店全体の売り上げは一ヶ月に約五百万円の差をつけられている。
（栄転？ こんなに早く？）
自分の背中を追いかけてくる愛しい望が、まさか自分を追い抜くとは。
（あの胸騒ぎは、これを知らせたのか）
「寝耳に水の話で、本人も今日初めて知らされたはずだよ」
章人は噂のせいかと疑った。辻本も同感なのか、口を閉ざした。
「能力を認められたから、辞令がでたのですね」
章人が呟くと辻本は苦しげに溜息をついた。
半年間、育ててきた部下が突然他所の店に取られる辛さがあるのだろう。
「確かに最近の澤井くんは、作業を全うする態度にめざましい成長があった。しかし教育する僕としては、澤井くんはこの店で基礎を学び、更に成長して、それから大型店舗で出世したら良いのだ。余りにも早すぎる。事前に打診があれば僕はこの話を蹴ったのに」
項垂れた辻本を見ながら、混乱する気持はわかると章人は感じた。
しかし会社の決算が行われる八月は異動の時期なので、全店舗で大量の異動が発生するのだが、一年以上売り場で働いた経験のある即戦力の社員が対象だ。
「大体、新入社員を移動させるなんて異例だ。まあ、矢崎くんは助かったのだけどね」
「……待って下さい。自分に打診があったのですか？」
そんな噂一つ聞いていない、章人は焦った。
「ああ。でも一宮さんはきみを手放すつもりは無いと断ったよ。それを聞きながら、僕は澤井くんの件を知らなかった。澤井くんの異動は幹部から直の指示で、店長命令だ」
（それは逆らえない）
経験不足の新入社員が大型店に移動した所で、苦労をするのは目に見えている。
新しい環境でわからない事ばかり、戸惑う事だろう。
章人が目を伏せると辻本は更に踏み込んだ事を呟いた。
「幹部の小林さんを覚えているかい？ 親睦会で挨拶をしたと思うが、澤井くんの異動先は小林さんの奥さんがパートで働いている店でね、身内贔屓か商品の手回し等で相当入れ込んでいるらしい。澤井くんの異動を指示したのは、この小林さんだ」
小林と言えば親睦会で望とばかり話をしていた幹部だ。
（あの時に望を気に入って、わざわざ異動をさせたのだろうか）
人格にやや疑いが残るが、望は幹部に評価されたのだ。
恐らく役職も上がるに違いない。
「出世コース、ですか？」
章人が辻本に尋ねると「そうだね」と言う。
「本人の努力次第だけど幹部が関わる店舗にいれば、出世は早いだろうね」
（矢張り、そうか）
「長居して済まないね。矢崎くん、澤井くんを探すかい？」
「いいえ。仕事がありますから」
売り場で接客販売を続け売り上げを伸ばす。
今の自分に任されている業務を行うのは、社会人として当然だ。
しかし章人は仕事が手につかない。望の行方も気掛かりだが、章人は売り場内で初めて肩を落とした。
望の評価が自分を抜いた。この事実は、章人のプライドを傷付けてしまった。
16話に続くのだ。これが終わればオリジナルをＵＰしたいなあ。
ＴＬもあるけど無理だな―
●今夜、孤独と自由を●
絢香は凄い。
「今回はご愁傷様。よくない噂が流れるなんて、二人共期待の新人だから妬む奴がいたのかな」
「さあ、気にしませんが」
章人は店内で望と別行動でも部屋に帰れば共にくつろげるから、気に掛けないのだ。
（子供ではないのだから、いつも一緒にいられるはずが無い。私生活で一緒にいられるのだから問題は無い）
「一宮さんと僕は、次代を継ぐ有能な新人として大事に育ててきたのにこの有様で悔しいよ。噂を流した犯人は許せないなあ」
辻本は部下の望や章人を思い、憤っている。
「平気です。売り上げで見返しますから」
「そうですか」
章人は自分も追われていると感じた。
（油断したら抜かれてしまうな）
ふと脳裏をかすめたこの思いに、胸騒ぎがした。
子供達が夏休みに入り、店内は平日でも賑わうようになった。
章人は先の広告の効果で新規顧客を獲得し、補佐のアルバイトとも良い信頼関係を築きながら充実した日々を送り、部屋に帰れば望と「賞与で何を買う？」と他愛も無い話をして、その素肌を重ねあい、体だけでなく心の繋がりを確かに感じていた。
八月に入ると初の賞与を受け取った。
章人はより一層の精進をと、気持を引き締めていたら、紳士靴売り場に辻本が現れた。
「え。捜索は久々ですね」
責任感が芽生え、売り場から滅多に離れないようになったはずの望がいないとは。
「うーん。てっきり矢崎くんの元に駆け込んだと思ったのに」
その言い方が章人には妙に引っ掛かった。
「どうしてですか？」
澤井くんは八月二十日付で辞令が出た。隣町の大型店に異動が決まったのだよ」
（え？ 何も聞いていないぞ？）
章人は愕然とした。
隣町の大型店はこの店舗と同規模のショッピングモールだが、周りが高級住宅街や大学があるので店全体の売り上げは一ヶ月に約五百万円の差をつけられている。
（栄転？ こんなに早く？）
自分の背中を追いかけてくる愛しい望が、まさか自分を追い抜くとは。
（あの胸騒ぎは、これを知らせたのか）
「寝耳に水の話で、本人も今日初めて知らされたはずだよ」
章人は噂のせいかと疑った。辻本も同感なのか、口を閉ざした。
「能力を認められたから、辞令がでたのですね」
章人が呟くと辻本は苦しげに溜息をついた。
半年間、育ててきた部下が突然他所の店に取られる辛さがあるのだろう。
「確かに最近の澤井くんは、作業を全うする態度にめざましい成長があった。しかし教育する僕としては、澤井くんはこの店で基礎を学び、更に成長して、それから大型店舗で出世したら良いのだ。余りにも早すぎる。事前に打診があれば僕はこの話を蹴ったのに」
項垂れた辻本を見ながら、混乱する気持はわかると章人は感じた。
しかし会社の決算が行われる八月は異動の時期なので、全店舗で大量の異動が発生するのだが、一年以上売り場で働いた経験のある即戦力の社員が対象だ。
「大体、新入社員を移動させるなんて異例だ。まあ、矢崎くんは助かったのだけどね」
「……待って下さい。自分に打診があったのですか？」
そんな噂一つ聞いていない、章人は焦った。
「ああ。でも一宮さんはきみを手放すつもりは無いと断ったよ。それを聞きながら、僕は澤井くんの件を知らなかった。澤井くんの異動は幹部から直の指示で、店長命令だ」
（それは逆らえない）
経験不足の新入社員が大型店に移動した所で、苦労をするのは目に見えている。
新しい環境でわからない事ばかり、戸惑う事だろう。
章人が目を伏せると辻本は更に踏み込んだ事を呟いた。
「幹部の小林さんを覚えているかい？ 親睦会で挨拶をしたと思うが、澤井くんの異動先は小林さんの奥さんがパートで働いている店でね、身内贔屓か商品の手回し等で相当入れ込んでいるらしい。澤井くんの異動を指示したのは、この小林さんだ」
小林と言えば親睦会で望とばかり話をしていた幹部だ。
（あの時に望を気に入って、わざわざ異動をさせたのだろうか）
人格にやや疑いが残るが、望は幹部に評価されたのだ。
恐らく役職も上がるに違いない。
「出世コース、ですか？」
章人が辻本に尋ねると「そうだね」と言う。
「本人の努力次第だけど幹部が関わる店舗にいれば、出世は早いだろうね」
（矢張り、そうか）
「長居して済まないね。矢崎くん、澤井くんを探すかい？」
「いいえ。仕事がありますから」
売り場で接客販売を続け売り上げを伸ばす。
今の自分に任されている業務を行うのは、社会人として当然だ。
しかし章人は仕事が手につかない。望の行方も気掛かりだが、章人は売り場内で初めて肩を落とした。
望の評価が自分を抜いた。この事実は、章人のプライドを傷付けてしまった。
16話に続くのだ。これが終わればオリジナルをＵＰしたいなあ。
ＴＬもあるけど無理だな―
●今夜、孤独と自由を●
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2008/09/29 09:45:25 PM
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