踊螺木偶 ・ 無目的

踊螺木偶 ・ 無目的

出会い






 最初に彼に出会ったのは、まだ私が地元の商店街の書店に勤めていた頃。

 もう、十数年前の話だ。

  「猫が捨てられている。」
  「可愛そうだ。」
  「でも、家では飼うのを許してもらえないし…」
  「学校につれてゆくわけにもいかない…」
  「ちょっと預かってもらえないか?」
  「飼い主が見つかるまで…」

 等々、お定まりの台詞…。
 結局、数人の小学生に押し切られる形で彼の身は私に委ねられた。

 最初は預かり猫だったのだ。




「……‥」



 かぼそい声で鳴く、おとなしい猫だなぁ…
 …って、おいおい、弱ってんじゃないのか?これって?

 一夜明けた朝、目やにのせいで右の目が開かない…用意したミルクもほとんど口にしない…。







 風邪をひいているらしい。
 子猫用の風邪薬を処方してもらい、猫用のミルクを買った。
 診てもらった獣医さんに「授乳前期(早い時期)に母猫と引き離された子猫は免疫力が弱いので、気をつけてあげてください。」と言われる。

 「飼い主にそう伝えましょう。」

 …とは、言えなかった。






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