おいしい 千葉 ~ponの食べある記~

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2007.04.22
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雑貨屋や書店をのぞき見て、時間をつぶした。待ちあわせ時間寸前になって、私は再びさっきの場所に向かった。(…たぶん、あの子か)階段を降りきった先に、ショートコート姿の女性が後ろ向きに立っていた。
「村山さん、ですよね」
俊敏に振りむいてきた子は、こちらの想像よりはるかにスリムな女の子だった。顔が小さい。ごく薄い唇で、すっきりした口元をしていた。たしかに、風の噂や美奈子嬢に聞いていたとおり、普通にかわいい。少しかしこまって、たがいに挨拶しあった。
「きょうは食事くらい、いいんですよね」
「もちろん。そのつもりで来ましたから」
やわらかな視線が注がれた。左肩口を開くようにした。透明な風のように彼女をエスコートする。
「車で来たんですか」
「そう。箱崎で渋滞に引っかかったんで。2時間くらい、かかりましたけど」
「車を停めるようなところが、なかなかなかったでしょう」
「それは簡単でしたよ。駅前のロイヤルホストが空いていたので」
「頭いいですね。あそこならたしかに…」
ただ要領がいいだけのことを、そうやって褒めてきた。連絡橋をこえて、車のほうに向かう。

ロータリーを抜けて、駅前通りをまっすぐに行った。統一された商店街の街灯が、窓外をゆるやかに流れていく。
「どこかおすすめのお店とか、ありますか」
いつもなら事前にこのあたりを食べ歩いて、目星とかつけておくのだが。彼女との関係上、この辺のグルメに詳しくても、かえっておかしいだろう。情報的には白紙の状態で、この場に臨んでいた。地理さえ、よく分からない。彼女の指図通りに道を抜けていく。

駐車場のあるところが良かろうと、郊外の小さなモールに入った。レストランやゲームセンターなど10店舗くらいが連なっている。別段特徴のなさそうな中華の店に入った。窓際に向かいあってすわる。メニューを、彼女向きにそろえて手渡した。
「遠慮しないで食べてくださいね」
「私、小食なんですよ。そんな食べられないんです」
結局、別葉になっていた(おすすめ)から、セットメニューを2つ頼んだ。品数はあるが、定食AとBを注文したようなものだった。平凡きわまりない店で、平凡そのもののメニューを頼む。何の努力も何の芸もない。力が入っていない。しかし、会ったこの日が最初で最後という彼女となら、これでよいような気がした。

双方とも知っている人が話題の中心になった。
「ヒロちゃんに訊いたんです」
香穂の同僚で、仕事上いちばんのパートナーになっている彼だった。
「○○さんて、どんな人って」
「へー。そうしたら」
「たぶん、会わないほうが無難で平和かと思います。ですって」
彼の口調を真似ていう。
「それって、ひどくない」
笑いながら、そういうしかなかった。傍からみて、いいパートナー同士に映ったのだろう。一時、そのヒロちゃんと彼女が噂にのぼったことがあったという。彼のほうは、かなりその気があったらしい。何も言われたことはなかったけれど。逆に彼女のほうはその気ゼロだったそうだ。

千葉の製1のK課長の話も飛び出した。奥さんの実家が神奈川工場の近くにあるので、事務所にもよく覗きに来るという。
「アフターファイブはまたどこにお勤めって、からかってくるの」
「まったく。あの人らしい言い方だね」
「私。そんなにお化粧を濃くしてないつもりなんですけど」

よくしゃべる女の子だった。婚約者の彼のことにも、遠慮なく触れてくる。Fさんと苗字で呼んでいた。小柄で、頭が切れて、とても無口。性格の穏やかな人で、これまで一度も怒ったことがないという。若いくせにクラウンに乗っている。結婚したら、工場の近くの社宅に入る予定をしている。中をリフォームしている最中で、それを業者を入れずに自分たちだけでやっているとのこと。

「いつもいつもそれに駆りたてられていて。このごろはちょっとお疲れ気味かも知れない…。この前はさすがにいやになって、行くのを断っちゃった」
なぜそんな愚痴を初対面の私にしゃべってくるのか、よく理解できなかった。私に言ったところで、どうなるものでもない。私が逆の立場だったら、たぶん黙っておくだろう。たとえ愚痴るにしても、相手がちがう。

なぜだろうと思った。幸せの絶頂の真っただ中にいるはずなのに。そういう輝きが少しも感じ取れない。かわいくて、明朗そのもので、口調によどみがない。それなのに。どこかくすんだような印象を、私は感じてしまっていた。





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Last updated  2007.07.07 05:46:13
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