いじめを打ち明けられた時


 でも、息子はいじめの当事者だけでなく、その周りの友だちも避けるようになり、私はそのことが気にかかっていました。

 子ども会の行事があった時、あまりにもあからさまに他の子の輪に入ろうとしない息子に、私は少し腹が立って、家に帰って文句を言ってしまいました。

 「あんたがA君、B君と関係が悪いのは知ってる。無理して仲良くしなさいと言うつもりもない。でもね、人は変わるんだよ。一つのことでずーっと根に持っていたら友達はなかなかつくれないよ。それに、他の子はいやなことしたりしないんでしょ。それなのにあんたの方から避けたら、その子達だって声かける気になれないと思うよ.」

 息子はきっぱりと言い返しました。
 「あいつは今でも、僕の顔を見ると『うわっ、くせえー』と言ったりする。今まで僕と仲良かったやつにも『一緒に言え!』と言ったりする。一人でいればいいやつでもあいつがいる集団は、僕にとってはいやなんだ。」

 息子が何も言わないから、いやな事をされたのは過去のことだと思い込んでいた私は、ショックでした。そして自分の息子が「くさい」と言われるというのは、何の根拠もないとわかっていても辛いものです。そしてさらに、自分が友だちだと思っている人が自分の目の前で相手の側につくことを経験した息子が、どんなに傷つきどんなに人間関係に臆病になるか…全然わかってなかったな、と落ち込んでしまいました。

 何と言ったらいいか言葉が出ないまま、息子が自分の部屋に行きかけたのを見て、このまま黙ってちゃいけない、と思い、一生懸命言いました。

 「お母さん、あんたの気持ち全然わかってなくてごめん。でも、いやなこと話してくれてありがとう。お母さん、いちいち騒いだりしないようにするから、でもやっぱり気になるから、また時々は話してくれる?」
 「まあ、いいけど」
 息子は割合さっぱりした顔をして、続きを少し話してくれました。

 思春期の子どもたちの友達関係、いったい親に何ができるのか、と考えると激しく無力感におそわれます。でも、始めの私のように解決を求めて叱咤激励したり、こちらの価値観を押し付けたりしないで、ただただ聞くことはできます。そして、惨めな自分、辛い自分を人に話すことがどんなに勇気のいることか、思いはかれる感性を持っていたいな。同時にやっぱり心配な親心もごまかさずに正直に伝えたい、と思うのです。

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