家曜日~うちようび~

家曜日~うちようび~

2019.06.01
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昔々、僕がティーンエイジャーだった頃の、とある時期、
「自由の人」 だった。
僕は、毎日意気揚々と、完全なる 「自由」 を謳歌していた。
先ず、僕の家には門限が無かった。
夜中に何処をほっつき歩いていようが、僕の自由。
友人の家で、そこらの路上で、何泊しようが、僕の自由。
学校へ行くも行かぬも、僕の自由。

テストを受けるも受けないも、僕の自由。
やる気がない日は家で寝ている、ただしテストで高得点が欲しい時は高得点を取る。
人を殴る。
すると、殴られた相手や、まわりの大人たちは、
「何故殴った?」「腹が立ったのか?」「ムシャクシャしていたのか?」
どいつもこいつも「殴った理由」を欲しがった。
理由なんてない。僕の自由だ。ただ、何となくだ。
物を盗む。
すると、同じくどいつもこいつも、
「何故盗んだ?」「興味本位か?」「生活に困っているのか?」
と、執拗に「盗む意味」を欲しがった。

嘘をつく。ただ、そうしたかったから。
物を壊す。ただ、そうしたかったから。
人を傷つける。ただ、そうしたかったから。
遊ぶ、喰う、寝る、やりたい事を、やりたい時に、やりたいようにやる。
理由も意味もありはしない。ただ、ただ、そうしたかったから。

どいつもこいつも、深刻な表情で僕を心配した。
心配ご無用、ほっといて下さい。
僕は自由。ただ、自由に生きているだけ。

そんな毎日を続けるうちに、僕は、自分が日増しに 「けだもの」 に成り果てて行くのを感じていた。
喰いたい時に喰い、眠りたい時に眠り、犯したい時に犯し、
糞尿は、垂れ流したい時に、垂れ流したい場所で垂れ流す。
森や草原で生きる、野生動物って感じ? 
いやいや、それは 「けだもの」 に失礼だな。彼らは、厳しい「自然の掟」のなかで必死で生きている。
僕は、 「けだもの」 以下だった。
おそらく 「地獄の餓鬼」 って呼び名が、最もふさわしい。

そんなこんなで、当然の報いであるが、

おのずと僕のまわりには、誰もいなくなった。

僕は、孤立した。

実に奇妙な感覚だった。

群衆の中にいながら、無人島生活をしているような・・・。

やったぞ! 

どいつもこいつも見ろ!

オンリーワンだ!

俺様は自由だ! 

僕は、虚空に向かって自慢した。

叫べども、叫べども、返事はない。

だってそこは、群衆の海に浮かぶ、無人島。

・・・で、いつの頃からだったろうか?
僕は、自ら望んで手に入れた 「自由」 を、嫌というほど吟味した 「自由」 を、豚のように過食した 「自由」 を、
ゲロゲロと嘔吐したい衝動に駆られている自分に気づいた。
僕が手にした自由の正体とは、利己的で、醜悪で、卑猥で、狂気で、そして、だたもう孤独なだけの代物だった。
もう、 「自由」 なんて、うんざりだった。


自由だ!

自由だ!

自由だ!

自由だ!

夜中に悪夢で目が覚める。

こ、怖い。

枕元からガバッと身を起こし、汗だくになって、

いつか読んだ、寺山修司の散文の一節を叫ぶ。

自由だ!助けてくれ!




・・・時は流れ、・・・頭は禿げ、肉は垂れ、腰は傷み。

間もなく四十五歳になろうとする今日の僕に、 「自由」 なんてない。

今日の僕は、家庭で、会社で、社会で、自ら進んで、

自分が守るべき 「大切なもの」 を守り、

自分が背負うべき 「荷物」 を背負い、

自分が引きずるべき 「足かせ」 を引きずりながら、毎日を過ごしている。

大変だけれど、あの頃に比べ、僕はとても充実している。

あの頃に比べ、僕は何百倍も幸せだ。

僕は、もう自由なんていらない。

でさ、

なんか、最近「不登校の自由」だの「自由な生き方」だの「自由業」だのと、
やたら 「自由」 という言葉を、特にインターネット界隈で見聞きするじゃんか。
僕なんか、全て過去の自業自得ながら、 「自由」 ってのがすっかりトラウマになっちゃってるからさ。
今この時代に、じゆー、じゆー、なんつっておっしゃられている 「地獄の住人」 が気になるわけです。
最近の 「地獄の餓鬼」 ってのは、どんな姿で、何を喰い、何を考えているのだろうかと思うわけです。

んで、ざっと拝聴、拝読。

んで、まあ、逆に安心しましたよ。

彼等のおっしゃっている「自由」と、かつて僕が手にした「自由」とは全く別物ですね。
彼等のそれは、言ってみりゃ 「自由風」。
心配する必要はありません、とても安全な代物です。

例えば、不登校の少年革命家。
僕は彼のことを知った時 「今時こんな不自由な子供がいるのかしら」 と、とりあえず彼に同情しました。
思想を刷り込まれ、演じることを強いられ、「親の保護下で革命」という理不尽な活動を行い、
有名人に仕立て上げられ、あげく世間からバッシングされ、もう後には引けない立場にいる。
まったく嘆かわしい。
宿題しないのは確かに子供の自由。であるならば、ある日突然何の脈絡もなく宿題をしたくなった時、
これまでの自分の発言を全てチャラにして、アホみたいに宿題を始めちゃうのも子供の自由。
万に一つ、あの子にそんな心境の変化が訪れたとして、
あの子、自由に宿題するかねえ? てか、まわりがそれを許すかねえ?
革命やーめたぁぁ!ちょー宿題してえ!ちょー学校行きてえ!ちょーロボットになりてえ!
とか、ある日突然言い出したら、うわぁ~この子めっちゃ自由じゃん、なんて僕は心から思うのだが・・・。
僕には、あの子が 「自由風」 な何かに捕らわれ、がんじがらめになっているようにしか見えない。

例えば、フリーランス。(もちろん一部の可哀想な)
幼き頃から、保護者のしつけに従順で、保護者の指示に忠実で、
保護者の選んだ書物を読み、保護者の許可する食品を食べ、
保護者の望む塾へ行き、保護者が喜ぶ進路を選び、保護者が安心する会社に就職する。
そんな「保護者の作品」としての役割から、やっと解放された人間が、入社2・3年を過ぎた頃、はたと思う。
「あれ? 自分って何? 自分、このままでいーの?」
思春期。遅い遅い思春期を迎える。
んで、夜な夜な自分探しの手慰みにSNSで自分を発信していたら、思いのほか人気が出た。収益もあった。
んで、中坊が家出するみたいに、会社を辞めた。んで、中坊がバンド始めるみたいに、独立した。
フリーランスは、サラリーマンと違って、時間に制約がない、だから自由。
フリーランスは、サラリーマンと違って、組織に抑圧されない、だから自由。
フリーランスは、サラリーマンと違って、自己責任だけ取ってりゃいい、だから自由。
彼等の自由の定義には、いつも 「サラリーマンと違って」 が漏れなくついてくる。
他者と比べることでかろうじて成立する、ほんのり 「自由風」 なメッセージを、
サラリーマンが管理する電力会社のコンセントに、サラリーマンが開発したPCやモバイルを差し込み、
サラリーマンが運営するインターネット網を駆使して、全世界に向けに発信している。
近頃は、ああいった 「いい歳こいた大人の遅い思春期」 のことを 「自由業」 と言うらしい。

繰り返し言いますが、僕は過去の経験から「自由」とは、
「利己的で、醜悪で、卑猥で、狂気で、孤独」 であると考えています。
だから僕は、簡単に、じゆー、じゆー、と謳う人が大嫌いだし、何より、一瞬怖いのです。
この文章を読んで、「あなたは自由をはき違えている」「あなたの自由観は間違っている」
と言ってくれる方々は、逆に安心です。
だって「自由を論ずる」という行為ほど、不自由な行為はないでしょう?
そういう人は元来「自由の人」ではない、だから安心、というか・・・。
自由の真っ只中にいる人は、「自由とは何か?」なんて考えてませんからねえ。
とにかく「自由」は取扱いに注意しないと、人を 「くるくるぱー」 にすると僕は思いますよ。

さて、今回こんな記事を長々と書いたのには、実は個人的な理由がありまして。
僕、今年でサラリーマン生活20年目に突入するんですけどね、
僕としては、今の水道設備業を70歳まで現役バリバリで続けるつもりなので、
残りの25年、このままサラリーマンを全うするのも良いのだけれど、
仮に独立開業を考えるのなら、この四十五歳から向こう一・二年がリミットかなと。
どちらに転んでも、ものすごく自信があるので、どうしたもんかなと。

現在、僕は、社畜です。

自己を会社で教育され、自己を会社で管理され、自己の意思と良心を会社に捧げ、
自己の人生を会社に託し、自己をすっかり会社に飼いならされている、筋金入りの誇り高き社畜。

まあ、そんな僕が社畜を辞めて、仮に独立したところで、

自分が「自由」になったなんて、勘違いはしませんよ。

独立したら「会社」が「自己」にすり替わるだけのことです。

自己を自己で教育し、自己を自己で管理し、自己の意思と良心を自己に捧げ、
自己の人生を自己に託し、自己をすっかり自己で飼いならす。

そうなったら僕は、自分のことを、

「自己の家畜」 とでも呼ぼうかな、なんて。




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最終更新日  2019.12.07 10:40:29


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