家曜日~うちようび~

家曜日~うちようび~

2021.09.27
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 平日の昼間だというのに、その店はとても繁盛していた。業務用スーパーなので他の客は漏れなく大量の食材をガゴいっぱいに入れてレジに並んでいる。そんな中、僕は見たことも聞いたこともない怪しげなメーカーの、超安価なカップラーメンをひとつ手にして、レジの行列に並んでいた。何も恥じることはない。カップラーメンただひとつとはいえ客は客。お客様は神様だ。俺様は神様だ。他の多くの神様に紛れ、そう静かに強がりつつ、でもやはり、何だか居たたまれなかった。
 78円です! レジのお姉さんが、大声で少額を叫ぶ。……なんかもう、すみません。100円玉を一枚トレイに置く。12円のお返しです! やめてよもう。なぶらないでちょうだいよ。そんな慈悲無きラリーの後、僕はレジのお姉さんに乞うた。

「あの、すんません。お箸下さい」

「かしこまりました。お箸は一善でよろしいですか」

「は?」

「お箸、一善で、よろしいですか」

「……はあ、一善でよろしいです」

 レジのお姉さんから一善の割り箸を貰い、それを超安価なカップラーメンの上に添えつつ、僕はその業務用スーパーを出た。


 カップラーメンただひとつを購入の際に「お箸を下さい」とお願いしたのだ。したがって、お箸は一善に決まっているではないか。何でじゃ。何であえて僕にお箸の数を聞いたんじゃ。僕、そんなに割り箸を欲しくて欲しくてたまんねー顔をしていたか。それともあれか、あのレジ打ちはあれか、僕が家に帰って腹を空かせた家族と一緒に一杯のカップラーメンをむさぼり喰うとでも思うたか。一杯の掛けそばじゃねーぞバカヤロー。埃にまみれた薄汚い作業着の僕が、そんなに貧乏ったらしく見えたんか。78円のカップラーメンを一個だけ買いに来るような客には、お箸を二膳三善と進んで恵んでやれってか。

会社に帰った。下駄箱の横にある姿鏡の向こうに、埃まみれでカップラーメンを手にしたみずぼらしい中年男が一匹立っていた。

思わず、お箸をもう一善、恵んであげたくなった。



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最終更新日  2021.09.28 16:07:18
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