2005/10/24
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『縄綯(なわない)』
     太朗冠者   茂山千五郎
     主  人    茂山 茂
     何  某     茂山 正邦
                  後見  茂山逸平



博打好きの主人が大負けしたため、太朗冠者(シテ)が借金のかたにとられることになりました。
本当の事を話しても、冠者が素直に博打相手の何某の元へ行かないだろうと考えた主人は、使いのように装って何某の元へ行かせました。
向こうへ着いて初めて真実を知った冠者はつむじを曲げ、命じられた仕事を全くやろうとしません。
起こった何某は主人の元へ文句をつけにいき、借金を清算せよと迫りました。
困った主人は、いったん冠者を帰宅させ、本当の働きぶりを何某に見せる事にしました。
何某から今度は主人が勝って取り戻されたと聞かされた冠者は、大喜びで帰宅し、主人に命じられるまま縄を綯います。
その間に縄の端を持っていた主人が何某に入れ替わりますが、冠者は気づかず、嬉々として何某の家の悪口をしゃべりました。
それを聞いた何某は怒り出し、気がついた冠者は慌てて逃げて行きました。
(パンフレットから抜粋)

楽しい演目でした♪
千五郎家の狂言の面白いところは、相手を演者の名前で呼ぶ所ですね。
今回なら、何某さんは「正邦殿」でしたし、主人は「茂殿」と呼ぶんですよ。
それだけでも、「(* ̄m ̄)プッ」と吹き出してしまいそうでした。
茂殿から、正邦殿に書状をことつかった太朗冠者。
「また、借金の証文か何かだな~。ようも懲りずに賭け事ばかりなさるわ!これを“下手の横好き”と言うんだよなぁ」(現代語訳です)
と、苦々しく言いながら正邦殿の屋敷に行く様は、主人の悪い癖を気にしながら、「仕方のないお人じゃ」という情愛がありました。
しかし、裏切られるんですね。そのご主人様に!

正邦殿の屋敷についてから、初めて自分が借金のかたに送られたと知った冠者は、ヘソを曲げて正邦殿が言いつけた用事をことごとく断ります。
また、この正邦殿、偉そうな態度で太朗冠者に物を言うんですヮ。
そして、それに負けじと太朗冠者もガンとしていう事を聞かない。
「山を越えて用事をしてきてくれ」 と言われれば、 「“かっけ”持ちだから、馬でなら行く」 と言ったり、 「縄を綯え」 と言われたら 「昔にやったきりなので、今は出来ない」 とか、 「水を汲め」 と言われたら 「茂殿の家では水汲みなどした事がないっ!」 と大声でまくし立てます。
「アンタのいう事なんか聞くもんかっ!」 って感じ( ̄∀ ̄;)

で、茂殿と正邦殿の一計にて元の主(茂殿)の元に帰る事になった太朗冠者は 「いや~。これはお名残り惜しい。。一生、正邦殿に仕えようと思っていたのにぃ~」
などと、調子の良い事を言います。(⌒-⌒;) 正邦殿にしたら、 「ウソつけーー!ヽ(# `Д´)ノ」 ですよね。

そして、茂殿の家に戻って、縄を綯いながら正邦殿に書状を持っていった時の話を後ろで手伝ってくれている主人(茂殿)に聞かせます。
話は正邦殿の家の事まで触れるようになり、子どもがワラワラと7人。
次から次と用事を言いつけ、ほとほと困った話。
そして、妻に会ったと茂殿に言いました。
茂殿は 「正邦殿の妻女は美人で有名なんだよ。よって、人には中々会わせないという話だが。。その妻に会ったのか?」 と問い返します。
「美人?美人~?わははーー!何をいいやる。あれは二目と見られぬ顔ですよ!」
と、 「鼻は。。あたっかどうか。。(* ̄m ̄)プッ そうそう!胡桃を二つに割ったような鼻がチョンと付いておりましたわ。口は耳元まで避けて狼のようだったし、赤い紅がまるで肉を食ろうたようでした」
などと、散々妻の悪口を言っている間にその正邦殿がやってきて、そう~~っと茂殿と入れ替わります。
そうとも知らず、太朗冠者はまだ悪口を続けて、 「その妻が一番下の子の子守をせい!と私に言いつけるのです。その子どもがまたむさ苦しい子でщ(゚ロ゚щ) オーマイガーッ!!
しかし、やはり子どもです。その内、二コリ笑うんですわ。それを見てたら腹が立って腹が立って!
着物の裾をぺロッっと捲って、腿をピチーとつねってやったんですわ。そしたら、火が点いたようにワーワー!と泣きよる」
当たり前でしょ!

その話を後ろで聞いてる正邦殿は怒り爆発!の模様。。
子どもの泣き声を聞きつけて妻が出て来て怒った様を 「まるで鬼瓦のようでござったヮ」
と、後ろを振り向いた時に正邦殿の姿を見つけて、心臓が止まったように、冠者の動きも止まる。
あとは正邦殿が太刀を抜き、 「おのれ~~。許さぬぞ~~。散々悪口をいいおって!」
と追いかけますが、太朗冠者は、まだ悪口を言いながら逃げて退場していきました。


とにかく、千五郎さんの太朗冠者が楽しかったですね。
拗ねて言う事きかない頑固者であり、茂殿の言う事は素直に聞く働き者だったり。
その時の感情を上手に表現されてました。
正邦さんはゆくゆくは「千五郎」を、その先は「千作」を継ぐお方。
さすがです!最近、富に貫禄が出てきたように思いました。
弟の茂さんのお声の響きも素晴らしいし、茂山家はこれからも安泰ですね。

この演目は(次の「梟」もそうですが)、親子で演じてらっしゃってて、息子の正邦さんが父親の千五郎さんを刀で追い回すなんて、面白いものですよね。
日ごろ鬱憤を晴らしてたりして~。(って、そんな事はないと思いますけどね)

では、今回はここまで。
次回はもうひとつの演目「梟」です。
長々とお付き合いありがとうございました。
殆ど、「あらすじ」でしたね(⌒-⌒;) スマソ。。。 






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最終更新日  2005/10/25 04:30:04 PM
コメント(14) | コメントを書く


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Re:『茂山狂言』その弐(10/24)  
りゅう6339  さん
面白い物語ですね
やはり狂言はコミカルなものが合っているような気にさせられます
親子の舞台は私生活とダブッて見えてニヤリとさせられますね
良いレビュー 有難うございました (2005/10/24 05:43:27 PM)

Re:『茂山狂言』その弐(10/24)  
るるり、 さん
見たことのない曲でしたので、楽しく読ませてもらいました。茂山家の中では私も千五郎さんが一番好きです♪とっても感情豊かで人間味があるなぁって思います♪
後見の逸平くんを見てみたかったなぁ。。。などと思うフトトキ者でござる(* ̄m ̄)プッ 
(2005/10/24 07:59:55 PM)

面白そうですね  
あめみこ  さん
つきうささんのレビューでコミカルさがとても伝わって、面白そうだなと思います。
こういう話、なさそうで現代にもありそう(笑)
あるあるネタだから、現代でも楽しんで観られるんでしょうね。
確か、弓矢太郎で、万作家も当屋のことを「石之介殿」とか言っていたような気が??!
あまり、聴いたことはなかったので、名前で呼んでいると面白いなぁと思った記憶が・・曖昧ですが(苦笑)
演者の名前でストーリーが進むとなんか笑ってしまいますよね。
(2005/10/24 08:11:01 PM)

楽しそうなお話  
ルビコン さん
茂山家の狂言をご覧になられたんですね。

茂山家の解説を初めて読ませて頂きましたが、
また萬斎さんとは違って、親しみやすくて分かりやすいお話でしね。

萬斎さんの解説もウマイ!と思っていましたが、
茂山家は関西の人なだけあってか、なんだか勢いがあるというか、小気味が良さそうな雰囲気が、つきうささんの文から漂ってきました。
萬斎さんは、そういう意味でいくと、おっとりした感じなのかもしれませんね。

『縄綯(なわない)』・・・・このお話は初めて知りました。
和泉流にもあるんでしょうか。
笑えますね~。
働かない冠者の様子を想像したら笑えますね。
それに、悪口を散々言った相手が・・・という所も可笑しいし
名前を呼び合うのも可笑しい。
可笑しさが、ギュッと詰まった曲なんですね。
見て見たい~。
名前を呼びあうだけで笑ってしまいそう。(* ̄m ̄)

次の梟も愉しみにしております~。 (2005/10/24 09:03:32 PM)

☆りゅうさん  
つきうさ☆  さん
これぞ狂言!っていう演目でした。
殆ど太朗冠者の一人舞台みたいな感じで、そうとう力量がないと難しいと思いましたよ。
親子だからこそ、かもし出す独特の雰囲気と息が見ていて心地良かったです。
(2005/10/24 09:37:35 PM)

☆るるり、さん  
つきうさ☆  さん
千五郎さんは見ていても安心だし、本当に味わい深い演技をされますね。
今回は逸平君を一杯見れて、ちょっと得しちゃったわ。
私もフトドキ者でござるぅ~。
(2005/10/24 09:45:25 PM)

☆あめみこさん  
つきうさ☆  さん
太朗冠者は一生、一軒の家に仕えるっていうのが基本みたいですね。
それなのに、あっちに行けだとかこっちに行けって言われたら怒るよね~。
演者の名前だと面白さも倍増です。
でも、演者の名前がよく分かってない人には「なんのこっちゃ?」ですね。

万作家も名前で呼ぶ演目がありましたね。
「萬斎殿」とか「万作殿」なんて聞いたら、可笑しくて見てられないかも(* ̄m ̄)プッ
(2005/10/24 09:55:08 PM)

☆ルビコンさん  
つきうさ☆  さん
解説って難しいと思いますねぇ。
その時の会場の雰囲気とかもあるし、初狂言の人が多いとか、そういうのも関係するでしょうしね。
逸平君は、まだお若いですけど、お話上手で年寄りみたいな所もあります。
逸平君の解説が聞けただけでも、観に行って良かったです。

「縄綯」は和泉流でもあるみたいですね。
狂言ハンドブックに書いてありました。
大蔵流は、布の縄を使うけど、和泉流は本物の藁を使うそうです。
こうなれば、和泉流万作家の「縄綯」も見てみたいですね。
(2005/10/24 10:04:25 PM)

読んでいるだけで  
袋♪ さん
想像して可笑しくなってきました。

>妻が出て来て怒った様を「まるで鬼瓦のようでござったヮ」
と、後ろを振り向いた時に正邦殿の姿を見つけて、心臓が止まったように、冠者の動きも止まる

ここのクダリが凄くおもしろそう!
この時の千五郎さんの表情、動きや間の取り方、凄くみてみたいなー!

次の「梟」も楽しみにしています♪ (2005/10/25 10:13:12 AM)

☆袋さん  
つきうさ☆  さん
正邦さんを認識してからの太朗冠者の動きは、本当に面白かったですよ。
綯っていた縄を足の間から前に引っ張ったり、後ろに引いたり。。
腰砕けのお爺さんみたいでした。
狂言って本当に楽しいネ♪
(2005/10/25 04:05:00 PM)

Re:『茂山狂言 鑑賞会』その弐(10/24)  
星の風来坊  さん
先日の日記にあった公演ですね。

なかなか詳しい解説振りで自分みたいな素人にとっては分かりやすく読めるので有り難いですよ。 (2005/10/30 10:34:02 PM)

はじめましてでござる。  
やるまいぞ  さん
 名古屋の狂言共同社でももちろん、演者の名前で呼びます。何でかというと、狂言の登場人物は「無名の庶民」だからです。たまに「朝比奈」や「伯陽」「武悪」「金岡」などのように名前がありますが、例外と言ってよいのでは?
 「縄綯」は来年年明けの舞台で師匠(はぁと)が太郎冠者を。なので稽古場には新しい稲藁が置いてありました。和泉流でも名古屋のもう一つ、又三郎家は布の縄ですね。ちょっと間が持たない・・なんてことも?藁だとリアルですが、あとで掃除が・・・(-_-;) (2005/11/15 10:41:59 PM)

☆星の風来坊さん  
つきうさ☆  さん
お褒めいただいて、ありがとう♪
狂言ってホントに楽しくて、素敵な舞台です。
風来坊さんも一度、ご覧になってみてね。 (2005/11/15 11:09:31 PM)

☆やるまいぞさん  
つきうさ☆  さん
初めまして♪
そうなんですか。他にも演者の名前を呼んだりする家があるんですね。
恥ずかしながら「狂言共同社」も「又三郎家」の狂言を見た事がないんですよ。
もっぱら、「万作家」と「茂山家一門」ばかりで。。
「萬家」はテレビでちょっとだけ拝見した事がある程度。。
家によっても使う道具が違いますね。
そっか。。本物の縄だったら、後始末が大変です~。
手も痛くなりそうだし。。
(2005/11/15 11:13:19 PM)

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