おるはの缶詰工場

おるはの缶詰工場

草食系男子 飲み会



 新人歓迎会と称して、連れ込まれたのは会社に程近い焼き肉屋だった。

 男だけの部署。しかも半分以上が年若いとなれば、肉を食べたいと言い出すのは毎度のことで諦めもつく。

 40近くなった私には、脂のしたたる濃い味の焼き肉はつらいものがあるが。

 だからといって不参加というわけにはいかない。

 なにしろ、私がこの部署の責任者であり、今回は財布の役目も担っているからだ。

「おーい、とりあえずビール!!」

 肉の焼ける音と臭いが充満する店内に、部下の野太い声が響き渡る。

 大声を出さなければ聞こえないのだから、仕方がないだろう。

 ふと今日の主役の新人である新藤を見れば、身の置き場もないという仕草で大人しく座っていた。

 ビールがいきわたり、乾杯をした後でもそれは変わらない。

 ずっと手にもっているビールは、ただぬるくなっていくだけで、最初一口つけただけでそれ以上は飲んでいない。

 主役を放っておいてばか騒ぎをする部下をあしらい、新藤の隣りに移動した。

「どうだ? 楽しんでるか?」

「あ、はい! いただいてます!」

 慌てて持っていたビールを口へ運ぶが、その瞬間にギュッと眉間にしわが寄った。

 あぁ、なるほど…。

 ビールをぬるくしている理由がわかり、つい笑ってしまった。

「もしかして、ビールは嫌いか?」

「え……」

 視線をさまよわせた後に、彼は小さく「はい」とうなづいた。

「接待じゃないんだ、好きな物を飲めばいい」

 そう言って、放り出してあった飲み物のメニューを渡してやった。

「ありがとうございます」

 ずっと手に持っていたビールのコップをテーブルに置くと、ちょっと笑ってメニューを受け取った。心なしか緊張してこわばっていた顔もほころんでいるようだ。

 こんな押しの弱い性格で、ガサツなこの部署でやっていけるんだろうか?

 ちょっとそんな心配をしたが、新人研修の担当者の評価を思い出した。

『派手さはありませんが、粘り強く地道な努力で成果をあげることができます』

 大人しそうな反面、意外と頑固な一面を持っているのだろう。我慢できないことはハッキリと言いそうだ。

「すみません、カシスオレンジ1つ」

 注文された肉を届けに来た店員を捕まえて、要領よく注文もしてしまった。

 あぁ、これなら大丈夫だろう。

 ガサツな部下たちは店中に響くような大声で。

 彼は店員のそばで小声で。

 どちらも方法は違うが目標を達成している。

 うまくやっていけるかもしれないな、と安心して目を離したのがいけなかったのかもしれない。

 ふと気づくと、新藤は山盛りのキャベツの皿を前に、むしゃむしゃと食べている異様な光景になっていた。

「誰かに言われたのか?」

 まさか誰かに『お前はキャベツでも食ってろ』と意地悪を言われたのか、と聞くとぼんやりとした視線が返ってくる。

「し、新藤くん?」

 まるで青虫のように硬い芯を残して、綺麗にキャベツを食べていく。

 赤い顔とぼんやりとした表情。

 酔っ払っているらしい。

「キャベツが好きなのか?」

 一瞬、考えた後にふるふると首が振られた。

「なんで食べてるんだ…」

「―――好き嫌いがあると大きくなれません」

 確かに、新藤の背は小柄だ。

 しかし、だからと言って嫌いなキャベツを食べて大きくなれるのだろうか…。

 理屈が通っているようで通らないのが、酔っぱらいというものだ。

 それ以上の説明を求めることをやめ、ぽんっと新藤の頭をなでた。
「大きくなれるといいね」

 ぼんやりとしていた視線のまま、新藤は嬉しそうに「はい」と笑った。

 ―――可愛い……。

 邪気のない笑顔にやられてしまった私をよそに、新藤はまたむしゃむしゃとキャベツの山を攻略しにかかっていた。




                             2009/9/18

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