☆f4♪LOVE アンクミの徒然日記

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蘇る過去





その学院は荘厳な趣きのある建物だった 門を入ると右手にチャペルが建ち 左手には大きな建物がある

零は授業中も何度も学生証を見ていた そこには自宅の住所も書かれていたが どんな学院なのか見たくて そこを訪れたのである

沢山の学生達が行き交う中 キラの事を尋ねると 講堂に居るだろうと
左手の建物を指差し その学生は教えてくれた

零が通る度に あちらこちらから囁き声が聞こえてくる
『ねぇ~ 彼誰かしら カッコいい人ね うちの学院にあんな人いたかしら』
回りにいる人が殆ど 女性なのに気づく 『此処には男はいないのかよ 男がそんなに珍しいかよ』


講堂に近づいた時 中からピアノの音が聞こえてきた
開け放たれたドアから 流れてくるその旋律
思わず零は足を止めていた

何故かそのピアノは零を 遠い過去へと引き戻して行った

暫くその場に立ちつくす零
零の所からは誰が弾いているのかは見えない
弾いているのが誰なのか確かめたくて 零は静かに中へ

3メートルほど近くまできた時 突然その音がやんだ
「誰かそこにいます?」立ち上がったその人は 麻生 キラだった
「すみません 驚かすつもりじゃなかったんですが・・昨日貴方にぶつかった者です」
ゆっくりと彼女の傍に近づく零

「昨日の方・・何故ここへ」ピアノから少し離れるとキラは声のする方へ身体を向けてきた

「昨日はすみませんでした 貴方の学生証を拾い忘れたみたいで
今日はそれを届けに来ました」
そう言って零はポケットから手帳を取り出し キラの前に差し出した 
その時彼女が目が見えない事に気づき キラの手をそっと取ると
その手に手帳を渡した

「そうだったんですか 有り難うございます 何処かに落としてしまったと思って困ってたんです」


彼女の目はまるで深い海のよう その目が見えないなんて思えなかった
キラキラと輝くその瞳の奥には いったいどんなのもが写っているのだろう

ピアノの傍を離れようとしたキラに零は 「さっき弾いていたのはキラさんですよね あっ!ごめんなさい 届けるのに中を見てしまったんです 良かったら何か弾いて貰えませんか?」

何故そんな事言ったのか零にも解からなかった ただキラのピアノが零を懐かしい日へと誘ったからかも知れない

その言葉に少し驚いた様子のキラだが にっこり笑うと
「イイですよ わざわざ届けていただいたので 私の下手な演奏で良かったら 何かリクエストありますか?」

少し考えていた零は「じゃ~エリーゼの為にを・・」
「何か思い出の曲なんですか?」
閉じられていたピアノの蓋を開けながらキラがそう聞いてきた
「え~~ちょっとね・・」

触れる事が未だに辛い過去 でも触れたい過去 ずっと触れずにいた過去を キラのピアノが その旋律がほんの少し過去のドアを開けたようだ

流れるように そして時には力強く響くその旋律
零はじっと キラの軽やかに動く指先を見つめていた

あの人と同じよう 白と黒の鍵盤をしなやかに動く指先

僕は何時しか 過去に
その人は優しく僕に微笑 でも時折見せる悲しそうな顔
あの時はその意味さえ解からなかった 
微笑みの中に垣間見る 悲しげな表情を

その後 僕はその意味を知る 
今もその事は僕の心を 辛くさせる


いつしかキラの演奏も終わっていた 過去から戻ってきた来た僕にキラが 「この曲には沢山の思いでがありそうですね」

「え~・・沢山あります いい思い出が・・」
そう言ったが まさか辛い思いもありますなんて言えなかった

「ごめん~自己紹介します 俺樫野 零」キラを驚かせないように又 そっと手を取る零
「初めまして 私は麻生 キラ いやだ~もう知ってましたね」

キラは少し力を込めて握り返してきた その手は暖かい

零はこのままキラと別れたくなかった
「キラさんこの後何か予定ありますか?もし良かったらもう少し僕と付き合って貰えるかな?」

今まで出会った女性とは全然違うキラ 彼女に何かを感じる
それがなんなのかは解からない
これっきりで彼女との繋がりを断ち切る事が出来そうにない

今 この時から零とキラを繋ぐ物語が始まろうとしていた

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