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2005.07.07
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カテゴリ: カテゴリ未分類
子 乞 い


日本復帰後、激しい過疎化の波に見舞われ、一時は人口が20人台にまで落ち込んだ小さな島、鳩間島。四季をとおして草花の咲きみだれる、青い海に囲まれた島。ゆるやかなテンポで人々が暮らす、まるでこの世の楽園のような島が、なぜこんなに切ない状況に追いやられねばならないのか...。1960年代の初めから島に通い続けた私がそこに見たものは...。


森口 豁[著]


舞台は沖縄県西表島のほんのちょっと北に浮かぶ、面積約1平方キロの鳩間島。1982年当時、この島の人口は41人、小学校の生徒はたった一人だった。三学期の終了とともに、この生徒もいなくなる……。廃校の危機を迎えた小学校の存続をめざして、島じゅうの大人たちが立ち上がった。本書は85年刊行の初版本に増補した新装改訂版。小さなコミュニティでの出来事だが、この国の政治の貧しさと教育のあるべき姿をあぶり出す人間ドキュメントであり、社会批評の本でもある。

子乞い



プロローグ 闇のトゥバラーマ

 哀(あわ)りまま
 休(やす)まりむぬやらば
 苦(く)りしゃまま
 失(う)しらりむぬやらば


 あまりにも苦しいから、この世から消えてしまえるものならば……

 宵闇(よいやみ)のなかを、泡盛(あわもり)の三合びんを手にした通事力(とおじつとむ)が、よたよたとおぼつかない足取りで家路をゆく。六十を過ぎたとはいえ、長年潮風できたえた声には張りがあり、その唄声(うたごえ)は静まり返った村のなかに朗々(ろうろう)と響く。

 春三月、頬(ほお)をなでる風はもう南に変わっていて心地よい。

 通事は、酒を呑(の)んでの帰り道、この『トゥバラーマ』をよく歌う。まだ夜も浅く、道々、家々には明かりが灯(とも)っているときもあれば、どの家も雨戸を閉ざし、寝静まっているときもある。そんな夜のとばりのなかで、年老いたひとかたまりの島びとたちは、唄にうたわれたつらく哀しい想(おも)いを胸に秘めながら、この夜も更けていった。
闇のトゥバラーマ


 いったい、なぜこうも哀しいのか、なぜこれほどに苦しいのか――。潮騒(しおさい)と風の音に運ばれて島中に流れるトゥバラーマに、通事は哀しく酔った。ゆったりとした美しい旋律と、ながい節(ふし)まわしが孤島の哀しみをひときわ際立たせ、通事は精いっぱい張りあげる自らの美声に哭(な)いた。

 うら頼(たぬ)ま
 南風(ぱいかじ)
 事(くとぅ)いつく
 ウイルケ
 主島(あるずすぃま)


 ――あなたに頼もう、南から吹く風よ。もしも、風に想いが託せるものならば……
 空を走る浮雲よ、主島(あるずすぃま)へ吹き通していっておくれ。私の想いを伝えておくれ……

 夜道を照らす一本の暗い街灯の所までくると、通事はこう歌った。やはり、八重山諸島に伝わる民謡『イヤリ節』の一節である。

 誰がこの島に関心を寄せてくれるのか。いったい、誰が自分たちの島を救ってくれるというのであろうか――。

 通事は嗚咽(おえつ)しながら歌った。



 だが、その日はもうそこまで来ていたのだった。


子乞い







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Last updated  2005.07.07 22:26:47
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