娯楽編


大人四人の同居は娯楽が少ない。

そこで一度だけ、家族四人でレンタルショップに行ったことがあった。

そんなに遠い店ではなかったので自転車四台で、健全に縦並びになり、さしずめプチサイクリングだった。

でも店内ではバラバラになりそれぞれが見たいビデオを選んでいた。

長男はファンタジー、次男はアクション、私はホラー、ジェリーは・・・・・・・寅さん!

結局、ホラーと寅さんは誰も付きあわなかった(笑)

ジェリーが一番ハマッタ娯楽はスーパーファミコンだった。

二階で四人で夕食をとったあと、長男も次男も「勝負!」と言って嫁と一緒に三階へ上がってしまうのだ。

当時私たちは「F1]や「ストリート・ファイター2」に凝っていた。(いつも勝つのは私だったが~★)

彼女としてはやはり寂しかったのだろう。

とうとう「私もゲーム機こうて二階に置く!」と言い出し、「どんなんでもええからこうてきて!」と のたまった。

仕方なく夫と二人でショップに行った。

私「どんなんがいいかな~?RPG?]

夫「そんな謎解きがオカンに出来る訳ないやろ~」

私「ほんならアクション?」

夫「せやな~。あ~でもスピードを必要とするものはダメと見た」

私「う~~~~~ん」

その時、「ドンキーコング」(多分2だったかな?)が目についた。

私「あ!あれどない?」

二人で寄って行き、手に取って見てみる。

私「これやったら只敵をやっつけながら左から右に進んでいくだけやし。ディディーコングもジェリーみたいにちっこうて可愛いやん」

夫「お~これぐらいやったら出来るやろ~これにしよ」

買って帰宅した。

その夜から‘ゲーマージェリー‘が誕生した。

夕食後、早速「やってええ?」と私達に尋ねる。

「どうぞ~。見たい番組は上でビデオ撮ってるから」と私は食器を下げて台所へ行く。

「ほんまにやるんかいなオカン」と夫がからかいながらゲーム機を接続してやる。

「やる!私にかて出来るわ!」とジェリーはムキになる。←こういうところ凄く可愛かった★

50代でゲームデビュー。どんなけ反射神経が残ってるかいね~とほくそえみながら、洗い物もつけっぱなしで見に戻る20代の私。

ドンキーコングの画面になった。

私「お~!でたがな~!おっかさん頑張ってや!左から右へ敵を倒しながら移動していくんよ~」

私は真面目な話をする時以外は、結構気さくな言葉を使っていた。ジェリーも笑って許してくれていた。

姑「よっしゃ!やったる!」

しかし、すぐに敵にぶつかり「ホウホウ!」とコングの声がしてサーっといなくなる。

姑「どないしたん?」

夫「やられたんやな~」

私「ぶつかったらあかんで~。ジャンプしてよけたり、敵の頭の上に乗ったり、タルぶつけたりしやんと」

続いてディデイーがタルから「キャ!」と出てくる。

私「今度はその子を動かすねん。あ!そこでジャンプ!あかん!あ~・・・・・・・」

「キャン!」と声がしてディディもいなくなる。

♪ティリリリリリリリ・プ~ン♪というメロディが流れてまた最初から。そんなことが三回あるとゲームオーバー。

姑「あ~!もう!」

夫「ヘタクソやな~」

私「ん~?おか~さん、説明書よみはった?」

姑「そんなもん、読んでへん!」

夫&私「読まんと~」

私「どれがジャンプボタンとか、どれがタル持つとか投げるとか・・。読んで憶えんと」

するとジェリーも納得して説明書と向き合い始めた。

夫が目くばせで(こらあかんわ~)という。私も目くばせで(ええやん、たのしけりゃ)と答える。

そのうち次男が帰宅する。

次「え?オカンがやってんの?」

夫「買いよってん」

次「え?マジ~?二階のんとちゃうのん?」

私「ゲーム機もソフトも買いはってん。ごっつい鼻息やで~」

次男は面白がってジェリーの側に座って「オカンにそんなもん、ほんまに出来んのん」とからかう。似たもの兄弟。

そして次男一人の夕食が始まっても、ジェリーはいっこうに次のステージに進むことも出来ずに

「ホウホウ!」「キャン!」というサルの声がお茶の間を包み、私達三人はクチを揃え「♪ティリリリリリリリ・プ~ン♪」と言っていた。

けれども、そのうちギャラリーも飽きてきて「俺、風呂入って寝るで」と長男が上がり、「俺もお先ぃ~」と次男も消えた。

なのにジェリーはとり憑かれたかのようにいっこうに画面から目を離そうとしない。

私「おかあさん、お風呂は~?」

姑「今日はもうはいれへん!トムちゃんはいって!」

しかし、私がお風呂から上がってもまだやっていた。

私「おか~さん!ま~だやってんのん!目ぇわるするよ~!それに明日も仕事とちゃいますのん?」

ちなみにジェリーはむかし何かの事故で片目を失明していた。それであの画面はかなり疲れやすいと思うのだが・・。

姑「そうかて、せっかくここまできたんやからセーブ出来るとこまでいきたいねん!」

私「そらわかるけどね~そんなもん、ボチボチやったらええや~ん」

姑「あ~!もう!でけへんねん!・・・・・・・・・・・・ん゛!」

と、ジェリーは例の‘基本ポーズ‘でカーソルを私に渡した。

私(へ?)

見るとジェリーは、捨て犬のようなすがる目で私を見上げている。  デケヘンネンモン・・・・。

私(う!!ヤバイ!そんな目で見られたら!) こんな時私の心の針はついうっかりと‘可愛いエリア‘を指す。

(しゃーないなぁ)という気持ちがあぶりだしのように、浮きあがってくる。

私「もう・・かなんなぁ・・・おっかさん・・」

とつぶやいて私も説明書を少し読み、ゲームには慣れていたので(パンドラ家のゲーム・クィーン。ようは暇人)難なくクリアした。

姑「すごいな!トムちゃん!これでもうセーブできんの?」

私「多分このあたりかと・・」

するとめでたくセーブ画面が出てきた!

私「はい!出たで!おかーさん!これでセーブ出来るよ!ほな、おやすみなさい♪」

姑「あ~ありがと!!おやすみなさい」

やれやれと三階へあがった。


そして朝・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

「寝られへんかった・・・・」とカーソルを持ちながらつぶやくジェリーの姿がそこにあった。

私「おかーさん!!!」

TVゲームに夢中になり徹夜までしてしまう50代女性・・。それもこの後の週末はほとんどがそんな状態だった。

お蔭で三階の部屋では、見たいドラマのビデオが山のようになっていった(笑)

まぁね、今思えば息子が17歳と13歳の時に夫に先立たれ、がむしゃらに働いてきたんだもんね。

あのドンキーコングは、彼女の人生で唯一夢中になった娯楽だったのかもしれない。









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