環境編



目の前は大きな道路で、昼も夜も変化がないくらいに車やバイクが行き来した。

トラックが通ると家ごと揺れた。

土曜の夜は、古来から語り継がれる永遠不滅の暴走族と、それを追いかけるパトカーが騒いだ。

TVをつけたら画面から、タクシーやトラックの無線が聞こえ、只でさえ聞き取りにくいキムタクのセリフが

「了解、了解どうぞ・・・・ギィ・・・ザ~~~~~・・・」という声に消された。

三階の私達の部屋ではドラマに関わらず、映画、音楽、バラエティとビデオばかりが増えていった。

一階には目障りな潰れた店があった。でも私が経営者になろうなんて気にはなれず、物置状態と化していた。

東、南、北とふさがれて、西日だけがあたる家だった。

隣は風俗店だった。

まっ昼間から女子高生と、決してその父ではない中年男性が、布団を叩いている私の視界に入り、店にも入っていった。

一度だけ回覧板が何故か逆周りになり、その店に持っていったことがある。(いつもは私の家の前に置いてあったのだが・・)

粘っこいような店主の視線を、全身で嫌悪しながらも、まだ若かった私は決して目を合わせなかった。

最寄りの駅は、自転車で15分もかかった。

本当に、「車で寄れる飲食店」という目的のみで作られたかような家だった。

そんなオンボロの家のローンが毎月13万もあって、私は毎月ボヤいていた。ジェリーが死ぬ直前まで。

家が揺れるたびに、キムタクのセリフが消されるたびに、トラックで揺れるたびに、暴走族が走るたびに、ジェリーが憎たらしいたびに

家計が苦しいたびに、ボヤいて、嘆いて、責めて、怒って、人を妬んで、自分の運命さえも 呪って・・・。




そして今 そんな家をフッと懐かしがっている自分がいる。 

時の流れとは・・なんなんでしょうね。



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