I love Salzburg

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2015.06.12
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カテゴリ: お遍路さん
6月6日の午後11時半、車に母と愛犬2匹を乗せ、まるで夜逃げでもするかのようにこっそり家を出た。


けれど土曜の夜だったからか、県道沿いのファミレスでは多くの頭が窓ガラス越しに見えた。

「余裕があるから高松までは下道で行くね。」
午前2時55分に徳島港発の船に乗るには2時頃徳島に着けばいい。


行き先は和歌山。
和歌山港から再び車を2時間ほど走らせると到着する高野山が今回の目的だった。


先月下旬にやっとのことで四国八十八箇所を廻り終え、高野山の奥の院で一つの区切りがつく。

勢いのあるうちに行っておかねば、なかなか高野山へは辿り着かない。


亡き父がそうだった。
弘法大師御入定1150年の昭和59年に四国を巡り、高野山のみを残し全て納経は終えていた。
だが、遠いから、不便だから、と言い訳しているうちに歳を取り、足腰に自由がきかなくなった。
そして、そのまま父の納経帳は本棚の奥にしまい込まれたまま今となった。

なので今回の高野山行きは、私が八十八箇所を巡り終えたということ以上に、父の納経帳を仕上げたいという気持ちが強くあった。


高野山・奥の院2.jpg


奥の院は、弘法大師入定の地。


そのもっとも奥に弘法大師が今も瞑想しているとされる御廟がある。
弘法大師が62歳の時、手には大日如来の印を組み、座禅した姿のまま永遠の悟りの世界に入り、今も生き続けていると信じられている場所。


高野山・奥の院.jpg


深い森に続く参道には無数の石塔が並び、独特の空気が流れている。

早朝のお詣りであったため人は殆どおらず、ひんやりとした澄んだ空気が肌を包み込んでくれるのが気持ち良かった。

鶯のさえずりも一段と美しく森じゅうに響いていた。




高野山・奥の院3.jpg


チリーン、チリリーン。

そして、御廟橋から奥の聖域とされる場所に近づくと、どこからともなくお遍路さんの鈴の音が聞こえてきた。

今でこそ大型バスが行き交う四国八十八箇所の道中も、私が子供の頃はまだこの鈴の音を鳴らしながら田んぼのあぜ道を白装束で歩くお遍路さんを見かけたものだ。
その姿が四国の原風景であったし、その鈴の音が四国の音風景であったように思う。

だから、すごく懐かしい気持ちになった。


高野山・奥の院14.jpg




おぼろな記憶だが、「奥の院の納経が済んだら、わしの納経帳をあいつにやらんとな、」と言ったという。

あいつとは父がお世話になったデイサービス職員の男の子で、四国八十八箇所を彼が歩いて廻った納経帳を、以前父の仏前に供えてくれたのだった。


父は奥の院にお詣りできなかったことが長年気がかりであったが、今回それが叶った。
その納経帳を彼にと、母の夢に出てきたんだそうだ。

「思い込みからの夢じゃないの?」
その話に最初は半信半疑であったが、「そういうこともあるかもね、」と話し合った。

「じゃぁ、デイサービスまで持って行こうか。」
母と私はそのつもりであったが、なんとなく彼に連絡できず四日が過ぎた。


高野山・奥の院.jpg


「夜分、すみません。」
先程、連絡していないはずの彼が家の前に立っていた。

「先日からデイサービスを利用し始めた方がHさん(父)によく似てらして、あ、Hさんが帰って来たって思ったんです。」


「またHさんのところへ行かにゃって思ったんです。」
手には、恥ずかしそうに吉本新喜劇のお土産を持っていた。

「実は、、」
私が夢の話をすると、父の納経帳を気持ちよく貰ってくれた。

こんなことってあるんだ。
不思議な出来事だった。

「きっと、またお邪魔することになりますね。」
そう彼は笑顔で帰っていったが、彼の素直さがこの不思議な出来事を引き寄せたのかもしれないと思った。

父が亡くなって7ヶ月、今も忘れず訪ねてくれる彼に感謝するとともに、そういう出会いを人生の最後に得た父は本当に幸せ者だと思った。


高野山を参詣できただけでも有難いことなのに、この出来事は心の奥底に深く刻まれたことだろう。

母も私もすがすがしい気持ちで手を合わせた。





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Last updated  2015.06.13 21:52:50
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