プロヴァンス・ダジュールへようこそ

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ギーヨムは同級生

フランスの真実
La france en vrai




ギーヨムは同級生 (2004年10月)



私が語学留学でイエールへやって来たのは1997年5月。
語学学校は私のホストファミリー宅から自転車で10分行ったところで、
通学路に主人の家がありました。

当時叔父さん家族は語学学校にやって来る外国人生徒を受け入れるホストファミリーをしていて、
滞在中の生徒を介して私は頻繁に足を運ぶようになりました。

叔父さんの末っ子ギーヨムが生まれたのはその年の4月。
共働きの息子夫婦に代わりギーヨムの面倒を見るマミーとは頻繁に門を入ったすぐの中庭で出会い、
白人種の摩訶不思議を見せられたものでした。

だいたい日本人の生後数ヶ月の赤ちゃんといえば
目は限りなく一直線に近く
勿論 黒目 (たまに茶目もあるでしょうが)
まつ毛も短く
これから人類に近付くぞー

という感じ。

ところがギーヨムときたら
目はクッキリパッチリ全開
しかも ブルー
ヘタしたらまつ毛はそんじょそこらの日本人の成人女性よりは長く
すでにくるんとカール

もうすっかり立派な人類
私はギーヨムの誕生日を聞かされた時には、顔の完成加減からとても信じることができずすぐに忘れ
何度も聞き直した覚えがあります。

さて、ある日のマミーとの会話。
「ブルーの目、キレイ」
と言った私に、当然のようにマミーは答えました。
「これから1年の間にどう変わっていくかしらねえ。あなたの国でもそうでしょ、
赤ちゃんの目は最初みんなブルーなのよ

へっ!??そうなの!?そうだったの!?

白目にまだ濁り無く静脈が透けて青みがかっているという意味で言っているのかな?
と即座にアタマの中の赤ちゃんに対する知識を総動員させてみるけど、そんな話は聞いたことも無い。
そりゃそうだ、この話は 白色人種に限って なんだとすぐに気が付きました。
注:白色×アラブ系のミックスの場合にもこの現象はありえます。

生まれた時から黄色人種と白色人種は異なる道を歩むことを知らされ、
私は彼との距離を意識したのか毎回プーセットPoussette(乳母車)の中を覗き込むだけでした。
叔父さんの奥さんからは
「今日本語で話しておけばわかるようになるわよ」
なんて言われていたけれど、眺めるだけで留学期間も終わり、お別れとなったのでした。

そして彼が2歳の年に再会。
二本足で歩くようになった彼は片言で話し始めており、
ボキャブラリーはまだ私のほうが勝っていると安心したのも束の間、もうRを難なく発音していました。

でも待てよ。
私だってフランス語を始めて1年半後、フランスに来て4ヶ月目くらいでRの発音をマスターしたのだから
似たようなものじゃないか、とライバル意識を燃やし始めます。
20以上も年の離れた彼をつかまえてオネーサンぶりたい私の耳は、マミーのあやし用語、
そして年齢を重ねるに連れしつけ用語もキャッチしていったのでした(笑)。

今でも重宝しているのは「ありがとう」を促す「 ケスコンディ? Qu’est-ce qu’on dit ? 」というフレーズ。

直訳すれば「なんて言うの?」ですが、
他人から何かを貰った時や何かをしてもらった時に子供がお礼を言わない場合、
「こんな時なんて言うんだっけ?」
と問いかけて答えを見つけさせる、自主性を大切にするフランスらしい表現。
強制しないので子供からしてもなぞなぞの答えを問いかけられていると感じるのか、必ず笑顔で
「メルスィ “ Merci ”」
と返してくれます。
面識の無い、ぶっきらぼうな感じの子供が相手でも笑顔が引き出せるのでこちらもとても気分が良い。
これをお読みの方は是非試してみて欲しい一句です。

また、ギーヨムが4歳くらいだったか、自分の欲しいものは十分言える頃で、
しきりに「 ジュ・ヴ… Je veux…, Je veux …! (…が欲しい)」を繰り返すようになっていました。
そんな彼に、マミーは虫も殺さぬ顔でさらっと言ってのけました。
「“ Je veux … ”と言うのは昔王様だけが使っていた表現なのよ。
でもその王様はどうなったと思う?首をちょん切られちゃったの。
だから“ジュ・ヴドレ… Je voudrais… (…が欲しいのですが)”と言うようにしないと
あなたもそのうち首をちょん切られちゃうわよ!」


はぁっ!??
すごい、すごすぎる!これがフランスの教育法!??
なんてブラック、なんてセンス!!

つまり、
「コレが欲しい!」
では直接的過ぎて礼儀知らず、
「コレが欲しいのですが」
とすれば婉曲な言いまわしになり好ましいと言うことなのですが、
若い世代のママからこんな例え話を聞いたことは一度もありません。
彼女の時代のしつけ用語なんだろうとは想像が付きますが、
これもいただきっ、とアタマにインプットしたのでした。

このように、ギーヨムにかけられるしつけ用語を覚えるうち、私もギーヨムと一緒に成長してきたようです。

しかし今年彼は8歳。
そろそろ学校の友達から俗語を覚えてきて、理解不可能なことを口にするようになってきました。
マミーのしつけ用語も限界、
学校へ乗り込んでいってクラスの片隅で、またはうちに遊びに来るギーヨムの友達の影に隠れて
情報収集しなければならない時期にさしかかっているのかもしれないなあと思う今日この頃なのです。



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