23~24





人生、色々あるってのはあいつのおかげで

かなりわかってきたつもりだった。



出会ってから、何年経つ?



俺は今まで、あいつには散々、振り回されてきたが、

あの日ほど、屈辱的な日はなかった。




が、最終的には何がなんだかわからなくなった…




飛行機の窓から雲の間をぬって見えてきた東京の景色


もうすぐ、着陸だ。



本来なら、嬉しいはずの10日ぶりの日本。


だが、気分は最悪だった。




…あの女のせいだ!


どう考えても今度の事は許されねぇ。


おかげで出張の間もイライラが続いて商談まで上手くいかなかった。

やっとのことで相手を納得させることができたのだが…


こんなはずじゃあなかった。


完璧と踏んだ俺の計算ミスか?



あの女、今度会ったら、タダじゃあ置かないぞ…

いや、今度という今度は、ぶん殴っても気がすまねぇ。


あいつは俺に『あんたに振り回されてきて、大変だった』

とか、なんか、抜かしやがったが、言えた義理かよ。



東京に近づくにつれ、俺のイライラ度はバージョンアップされ、

怒りは最高モードに突入していく勢いだった。





『あの、お客様、あの、申し訳ありませんが…』


いつの間にか、客室乗務員が2,3人俺を取り囲むように立っている。


『なんだ、お前ら、何人も来やがって、うっとうしい!何の用だ?』


腹立ち紛れて、ファーストクラスの客室に響き渡るほどの大声で叫ぶ。

一瞬、ざわめく客室。


その中の、一人、年季の入ったババアの乗務員が

意を決したように俺に言った。


『すみません。お客様、別の乗務員の方が何度も申し上げたのですが…

もう、当機は着陸態勢に入りますので、ベルトのご用意を…』


『はぁ、ベルト?』


半分泣きそうな顔をした若い乗務員が隠れるように立って俺を見ている。


あまりに腹が立っていたもんで、アナウンスまで聞き逃し、

しかも、直接、言ってきた乗務員の注意まで無視してしまったようだ。



『あぁ、わかったよ。すりゃ、いいんだろ!』

と、吐き捨てるように言う。


『なんだ、寄ってたかって俺をバカにしやがって…

しかも、ブスとババアばかりじゃないか!』



今の俺には世の中の女が全て俺を馬鹿にしているような

気がしてならなかった。




神様のくれた恋 23(司バージョン)





ビジネスクラスに乗っていた秘書と合流し、出迎えの車に乗り込んだ。


『お疲れでございました。』

と、運転手と共に俺を出迎えてくれた会社の幹部社員が労をねぎらう。


『あぁ、疲れたなんてもんじゃない…』

俺は短く答えると、これ以上、話し掛けるなとばかりに

顔を外に向け、それから、目を閉じた。



10日間で5ヶ国も回らせられたんだ。

たまったもんじゃあない。

殺人的スケジュールの中でなんとか、その日の日程を消化していく

ただ、それだけだった。



得たものがあるとすれば、

まだまだ、俺は会社の駒の一つでしかなく、

自分の意志では結局のところ、何も動けないということだ。



情けないがそれが事実だった。


NYの大学を卒業し、その何年後かには

どんどん、積極的に新展開されるビジネスにも参加し、

かっこいい俺がいるはずだった。



だが、それはあくまで、予定だった。

そして、予定は予定のままだった。




時差ぼけの頭が重い…

が、今日は取り急ぎの報告があった。

それだけは会社によって済ませなければ行けなかった。


少し前の俺なら、そんなことは無視して

とっとと家に帰ってベッドに潜り込んでいただろう。


それだけでもましになったってわけだ…

ましになったところで何がどうなるもんでもない。



ましと言えばあいつも…



いや、もう、いい、あの女のことは無しだ。


無視しようと思った。

が、出てくるんだ、あの女が


忌々しい…


俺に恨みでもあるのか?


思い出すまいとしても出てきてしまうのがもどかしい。


俺の頭の中に取り付いている

あの女の亡霊を追い出してしまいたかった。




ちょうど、高速のインターの入口に差し掛かった時だった。

携帯の音が鳴り始めた。


なんだ、この音楽?


『うるさい、早く止めろよ!』


隣りの秘書がうろたえながら、こう言った。


『申し訳ありません。あの、司様の携帯です。切ってもよろしいんですか?』


そう言えば、秘書に携帯を預けていたのを思い出した。


『誰からだ?』


『西門様ですが…』


俺の問いに秘書の顔を少し、ホッとしたような顔になっていた。






神様のくれた恋 24






なんなんだ…


こいつら



よりによってこんな時に

人に家のリビングで勝手にくつろぎやがって

コーヒー、お代わりまでしやがって




しかも3人で…

揃いも揃って



昼間電話があったときは総二郎、何も言わなかったじゃねえか…

来るなんて一言も!



ただ、俺の帰国を確認しただけだった。




俺はあてつけがましく、不機嫌そうにソファに腰を降ろすと


『オイ、お前ら、なんの用があるんだ?

俺は今日の昼にやっと帰ってきたんだ。

用がないなら、とっとと帰れ!』


と、大きな声で目を合わせずに言うと

手に持っていた新聞を広げた。



『司、新聞、反対だよ。』


真向かいの類がこれまた、そんな事をよく気がつく野郎だ・・・


『まだ、読んでないんだ。広げただけだ!』


いつもいつも、人の揚げ足ばかり、取りやがってムカツク奴だ。

俺は新聞を逆に持ち帰るとそれを読む振りをした。



笑いを堪えて我慢しているようだが、俺にはちゃんと聞える。

この笑い声はあきらだ。



『オイ、お前ら、俺を怒らせるためにここにわざわざ、来てくれたのか?

それなら、おまえ達が来るまでもなく、俺は不機嫌なんだよ。

まだ、我慢しているが、そのうち、どうなるかな?

帰るなら、今すぐ帰ったほうがいいぜ!』



俺は親友達に忠告を親切にもしてやった…

ふん、ありがたく思えよ!



『司、せっかく、親友の俺達が10日ぶりに日本に帰国したお前の

顔を見に来てあげたんだ。そんな態度は良くないぜ!』


総二郎の声が横から聞えた。



俺の顔を見に来てあげただと?


なんだ、それは…


俺は頼んでないぞ、そんなこと!



『ありがたいよ。さすが、親友だ。たった、10日しか離れてないのに

俺を恋しくなってくれたのか?涙が出そうだ…』


皮肉をこめて、3人に辛らつな言葉を放ってやった。




が、帰ってきた返事はもっと、辛らつだった。


俺の心に突き刺さる言葉で

容赦なく、浴びせられた。



『司、俺達、その不機嫌の原因を知っているんだ。

牧野から、断られたんだって?プロポーズ…』




…って、なんで、知ってるんだ?

あいつがしゃべったのか?


俺の猜疑心がグルグルと頭の中を駆け巡る。


その問いに対する答えに俺は苦慮し、言葉を失った…




なんと言えばいい?


俺のプライドを保つにはどう返事をしたらいいんだ?




新聞を持つ手が震えているのがわかる。


が、残念ながらそれを隠そうとする余裕すら、

今の俺には持ち合わせていなかった。





home





© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: