Fさんのこと






             Fさんのこと











あんまり、乗り気がしないんだけど…



と思いながら、待ち合わせ場所に急ぐ。






いつものことだ。





急に電話してきて、夕食の誘い。





しかも、今日は2人だけじゃないみたい。



いつも、名前だけはよく耳にする人。



司はその人を悪くは言わない。



でも、よく、文句は言う。






あたしは会ってみるまでわからなかった。



あんなに乗り気がなかった夕食は一変、楽しい会話が弾んだ。



その人はとてもいい人であたしとなぜか、ウマが合う…






そう、秘書の藤田さん。







道明寺の秘書と聞いただけで、イメージ悪くなるけど、彼は違ってた。



司が文句を言いながらも、



彼に仕事の調整やスケジュールを任せているのが良くわかる。



信頼の置ける人。



とても、真面目で、誠実な人。



丁寧すぎるくらいの言葉使いに礼儀正しさ







がさつなあたしの家族がきっと、彼を見たら、びっくりするかも!


う、宇宙人?なんて騒ぐかも。





どう育ったら、彼のように人ができるんだろう思ってしまう。


まぁ、はっきり言えるのは牧野家ではありえない話で…







司が学業と仕事をうまく、両立できるようにと司のお父さんが


NYにいる間限定で、アメリカの道明寺グループのある支店で働いていた


彼を出向という形で司の秘書にさせたらしい。





日本の大学を中退後、アメリカに留学して、そのまま、道明寺グループに就職。


まさか、彼もその2年後、日本からやってきた、


道明寺のバカ息子の世話を焼くはめになるなんて思っても見なかっただろう。




日常の世話はもちろん、英会話まで、ほとんど、つきっきりで教えたらしい。






あたしも4年間のうち、何度か招待を受けて、NYに行った。


でも、いつも、クリスマスの休暇中だったから、一度も会うことがなかった。





NY限定という言葉からわかるように卒業して帰国する際、


彼の事でもめたらしい。




結局、司のゴリ押しが利いて、藤田さんはそのまま、


個人秘書のいう肩書きで一緒に帰国させてしまった。








「ねぇ、日本に帰ってきてよかったの?アメリカで仕事したかったんでしょう?」


と聞いた事がある。






藤田さんはきっぱりと言った。


「私も日本人ですから、日本に帰れて、幸せです。


それにこの仕事をこのごろ、天職ではないかと考えております。


司様のおそばにいますといろんな仕事の一端を垣間見ることができますし、


そのお手伝いをしている事が今や誇りとなっております。」






藤田さんは独身で恋人もたぶんいない?と思う。




あんなに忙しい、司に付き合っているんだから彼女を見つける暇もないだろう。



もし、いたとしたら、よっぽど、理解ある人としか、うまくいかないと思う。



それを考えると、司があたしと会うため、


時間をやりくりして作っているのは




藤田さんの神業かも?  




感謝しないといけない?





ある日、藤田さんがこんなものを見せてくれた。



なんと、あたしのスケジュールが書き込んである手帳。



「な、何? なんであたしのまで?」と聞くと




「お相手のスケジュールを控えておくと便利がいいんです。


こちらの都合だけでは動けませんので…」




と、次から次から出てくるいろんな人のスケジュール。





頭の中はどうなっているんだろう?と思うことがある。






キャンセルした仕事の一つを次へまわすため、



藤田さんはウーンと5秒ほど考えた後、





「3日後の2時半からだったら20分取れますね。


それがだめなら、5日後の11時15分から30分取れます。」と、一言。







去年のあたしの誕生日に花を贈ってくれた。



本当は司に頼まれて、花屋さんに注文したらしい。



そのときに自分の分だと言って同じ大きさの花束を贈ってくれた。



後で、司が怒ってた。





「立場が違うだろう!どっちがメインなのか考えろって!」



あたしは単に嬉しかったんだけどね。



でも、司が言ってることも良くわかる。









「初めまして。牧野つくしです。


司がいつもお世話になっています。


よろしくお願いします。」






「初めまして。司様の秘書をされていただいております藤田と申します。


どうぞ、よろしくお願い致します。


牧野さまのことは常々、司様より伺っております。


お会いできて光栄です。」






藤田さんとはこうやって出会った。







司はあたしと会うときは絶対、人を連れてくるようなことはなかったが、


仕事が終ってそのまま持ち合わせってことがあったから、


藤田さんが一緒にくっついていた。







いつも、どこかで降りますと言って結局、最後まで、よく、一緒だった。




たまに、司が邪魔そうな目で藤田さんを睨んでいたけど、




藤田さんはいつもニコニコして、しゃべり続けていた。




あたしも一緒になって、しゃべっていたから、司が何度が切れかかった。







でも、あたし、よく思うの。



司、小さいことから、遊ぶっていったら、



例のあの3人以外いなかったわけだし、



NYにいた時は大学と仕事で遊んでいる暇はなかったみたいだから、



藤田さんみたいな人がそばにいて、サポートしてくれたおかげで



最後まで何とかやって来れたんだなって!







だから、帰国する時、無理してでも、


一緒に連れてきたかった気持ち、わかる。







藤田さんのちょっとピントと外れた会話と





司の変な日本語は健在でいつもあたしを笑わす。






藤田さん、これからも、司のこと、よろしく。


そして、あたしのこともよろしくお願いします。





あの、ひとつ、いいかな? 




牧野様というのはやめて欲しいんだけどな…。





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