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人生朝露
カフカと荘子。
めでたくもあり、めでたくもなく荘子です。
現在は、
フランツ・カフカ(Franz Kafka(1883~1924)と荘子です。
参照:Wikipedia フランツ・カフカ
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%83%84%E3%83%BB%E3%82%AB%E3%83%95%E3%82%AB
荘子と『変身』。
http://plaza.rakuten.co.jp/poetarin/5105
現在、カフカの書棚というのは、ネット上でも検索可能です。
参照:Franz Kafka's Library
http://www.pitt.edu/~kafka/k_s_bibII.html
この書棚の中に、
『中国の笛(Die chinesische Fl?te)』という本があります。『中国の笛-中国の叙情詩による模倣作』とは、ハンス・ベートゲという人が編集した漢詩のドイツ語訳集です。有名なのは、グスタフ・マーラー(Gustav Mahler(1860~1911)の『大地の歌』のネタ本としてです。カフカはこの本を持っています。
参照:Wikipedia 大地の歌
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A7%E5%9C%B0%E3%81%AE%E6%AD%8C
大地の歌 DAS LIED VON DER ERDE グスタフ・マーラー Gustav Mahler
http://www.youtube.com/watch?v=fjiUq6ZcfSA
サントリーウイスキー ローヤル - ♪ マーラー(大地の歌)
http://www.youtube.com/watch?v=NSlVsnMbZ48
前掲のカフカの書棚にもリヒャルト・ウィルヘルムの名前が挙がっています。
今から100年前、リヒャルト・ヴィルヘルムが翻訳した中国の古典のドイツ語版が、オイゲン・ディーデリヒスのディーデリヒス社から出版されています。このうち1910年に発行された『論語』は、ヘルマン・ヘッセも読んでいまして、同じドイツ語訳を森鴎外も読んでいる。そんな時代です。
≪しかし、ドクトル・カフカが賛嘆したのは古代支那の絵や木版画ばかりではなかった。彼をさらに魅惑したのは、古代支那の格言や比喩や、警抜な逸話--それに支那学者リヒアルト・ウィルヘルム=チェンタオの翻訳で知った宗教書などであった。
そのことが分かったのは、私が或るとき、老子の「道徳経」のチェコ初訳を傷害保険局に持っていたときのことである。ドクトル・カフカは興味深げに、粗末な紙に印刷した小型本を繰っていたが、それを机に置くとこう言った。「私は、翻訳でおよそ可能なかぎり--かなり永い間、道教に深入りしていました。イエナのディーデリヒスが出したこの方面のドイツ語訳は、殆ど全部持っています。」それを証明するため、彼は事務所机の脇棚を開いて、黒い模様を一面に施した、黄色い布表紙の本を五冊取り出し、それを私の前の机の上に置いた。
私は一冊ずつてにとってみた。孔子の「論語」「中庸」-節度と中間の大論-、老子の「意味と人生についての老人の書」、列子の「沖虚至徳真経」(沖は正しくは、にすい)、荘子の「南華真経」であった。
「実に豊富なものです」と私は事務机に返して言った。
「そう」とドクトル・カフカはうなづいた。「ドイツは徹底しています。何でも博物館に仕上げます。五冊でも全巻の半分に過ぎないのです。」
「残りは後からお取りになるのですね。」
「いいえ。ここにあるだけで私には充分です。これは、人が容易に溺れるであろうほどの大海です。孔子の言行録では、まだ固い大地の上にいるようです。しかし後になると、いよいよ深く暗黒の中に消えてしまいます。老子の言葉はおそろしく硬い胡桃です。私は魅惑されるのだが、その核は私には閉ざされたままです。私は何度も読みました。しかし、そこで気がついたことは、私は-子供が色とりどりのガラス玉で遊ぶように--頭の一方の片隅から片隅へと、それらを転じているにすぎず、しかも一方へは進んではいないということでした。私が格言のガラス玉によって発見したものは、実は老子のガラス玉を受け止め、受け入れることのできない、私の思想の受け皿に過ぎなかった。これはかなり憂鬱な発見でしたから、私はガラス玉遊びを止めました。私はこれらの書物を半分だけ理解し、愛したに過ぎない。これがその『花咲く南国の書(南華真経)』です。」(『カフカとの対話』G.ヤノーホ著 吉田仙太郎訳 筑摩叢書より≫
・・・友人のグスタフ・ヤノーホの手記にあるんですが、カフカも荘子も読んでいる、というよりハマってます。
≪ドクトル・カフカは、荘子という著者名のついた一冊を手にとって、ちょっと頁を繰ってこう言った。「何箇所かアンダーラインを引いてあります。例えば、『生によって死が生かされるのではない。死によって生が死ぬのではない。生と死は互いに制約されている。生と死は大きな連環のなかにある。』これはすべての宗教と人生智に共通な根本の主問題だ-そう思います。もとの時間の関連を把握し、自己の謎を解き明かし、自己の生成と消滅を全うするということです。
彼は本を開いたまま差し出したが、167頁に、力の籠った鉛筆の線が四本、次の箇所を囲んでいた。
「古代の男たちは外面的に変化したが、内部に変化はなかった。今日、人間は内面的に変化するが、外部に変化はない。もし環境に適合して変化し、しかも同じ人間であるならば、それは事実上変化ではない。変化するにせよ、変化せぬにせよ、常に平安を失わぬ。外界とのあらゆる接触に関わらず、常に平安を失わず、他面な活動に巻き込まれぬ。そのように、古の賢者の庭園と広間において、人々は身を持したのであった。しかし、種々なる学派に蝟集せる紳士諸侯は、各々主張と反論をもって戦った。しかるに今日にいたって事態はどうであろう。天来の聖者はこの世におわすが、しかし彼はこの世を傷つけはしない。」
私はカフカに開いたままの本を返し、注釈付きで説明してもらえるだろうと期待しながら、問いたげに彼を見た。彼はしかし黙って本を閉じ、他の黄色い布表紙本と一緒に事務机に戻したので、私はやや低めの声で言った。「僕には訳が分かりません。僕にはこの箇所は-正直言って-深すぎるのです。(同上)≫
カフカが引用したのは、おそらく、これです。
『物無非彼、物無非是。自彼則不見、自知則知之。故曰、彼出於是、是亦因彼、彼是方生之説也。雖然方生方死、方死方生。方可方不可、方不可方、可因是因非、因非因是亦彼也。 是以 聖人不由,而照之于天,亦因是也。彼亦是也、彼亦一是非、此亦一是非、果且有彼是乎哉、果且無彼是乎哉、彼是莫得其偶、謂之道枢、枢始得其環中、以応無窮、是亦一無窮、非亦一無窮也。故曰「若以明」。』(『荘子』斉物論 第二)
→物に「彼(あれ)」でないものはなく、「是(これ)」でないものもない。「彼(あれ)」であるとすると見えないものも「是(これ)」であるとすると見えてくる。『「彼」という概念は是という概念から生じて、是という概念も彼という概念から生じ、(すなわち「あれ」と「これ」、「我」と「彼」という概念は、相対化された中で)双方が並存している』と。これを「方生の説」という。しかし、あらゆる視点から見渡すと、生は死であり、死は生である。可は不可であり、不可は可である。肯定に因ることは否定に因ることであり、否定に因ることは肯定に因ることである。聖人と呼ばれる人は、人知によらず天に照らして由らしめる。彼もまた是であり、是もまた彼である。彼に一是非、是に一是非ある。果たして、是と彼に絶対的な区別など可能なのであろうか?是と彼を遇することのできない極限ものを「道枢」という(枢とは、扉の回転の真ん中にある一本の柱のこと)。その環の中にあって、初めて無限の世界に応じることができる。是もまた一無窮、非もまた一無窮。故に「明によるに若くはない」というのだ。
参照:共時性と老荘思想。
http://plaza.rakuten.co.jp/poetarin/5093
視点はユングと同じですね。
後半部分は外篇のラスト、知北遊篇です。
顏淵問乎仲尼曰:回嘗聞諸夫子曰「無有所將、無有所迎。」回敢問其遊。仲尼曰「古之人、外化而内不化、今之人、内化而外不化。與物化者、一不化者也。安化安不化、安與之相靡、必與之莫多。希韋氏之国,黄帝之圃、有虞氏之宮、湯武之室。君子之人、若儒、墨者師、故以是非相也、而況今之人乎。聖人處物不傷物。不傷物者、物亦不能傷也(『荘子』知北遊 第二十二)
→顔淵は、孔子に問うた。「先生は、『過去の事象に囚われず、未来を思い悩むこともない。全ての変化に応じて、引きとめることもない。』とおっしゃっていましたが、どういう意味ですか?」孔子はこう言った。「古の人は、外の世界の変化に順応しても、内面の変化はなかった。ところが、今の人は外の世界の変化に応じて、内面まで変えてしまう。しかし、そうやって内面を変えたところで、無常の世界に順応しているわけでもなく、外の世界とかみ合わなくなる。 聖人は変わるにせよ、変わらないにせよ自然のなりゆきに逆らわないのであり、しかもお互いに干渉することはない。かの希韋氏のときは国、黄帝は城の内、舜帝は宮殿、殷の湯王、周の武王は宮室と、時の変遷と共にふさわしいすみかを選んだ。世の儒者や墨者を見れば、是非の判断にとらわれて非難の応酬をするばかりだ。まして、今の世俗の人々など、ひどいものだ。聖人は事物を損なうことはなく、事物も聖人を損なうことはできない。」
参照:李白の逆旅と芭蕉と荘子。
http://plaza.rakuten.co.jp/poetarin/5047
≪するとカフカは身体をこわばらせた。彼はちょっと首をかしげて、しばらくじっと私を見つめると、徐に言った「それは正常です。真実は常に深淵です。人は-水練学校でやるように-狭い日常体験という不安定な飛込板から、敢えて身を躍らせ、深みに沈まねばなりません。そして-笑いながら苦しい荒い息づかいとともに-いまは二倍にも光に満ち溢れるものの表面に浮かび上がるのです。」(同上)≫
次もカフカで。
今日はこの辺で。
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