陽炎の向こう側             浅井 キラリ

陽炎の向こう側   浅井 キラリ

この空の下で 53




帰国し、彩子は、あらかじめ、隆が連絡を取っておいた大学病院へ入院した。

彩子と隆の両親と彩子の兄が病院へ来ていた。

彩子の母親は、気丈に振る舞っていたが、突然の娘の病気に心を痛め、少し痩せて見えた。

「先ず、改めて検査を行いましょう。それから、治療方針を話し合って決めていきましょう。出産もありますので、産婦人科と連携を取っていきます。」

40代半ばくらいの医師が彩子の主治医になった。

隆は、彩子の手を握り、二人は、医師の説明を聞いた。

彩子も今回は取り乱すことなく、医師の話を聞いていた。

彩子も隆も、立ち向かっていく気持ちになっていた。

黎は、彩子の両親の家で暮らすことになった。

そこから、近くの幼稚園へ通うことになった。

「黎、ごめんね。ママ、赤ちゃんを産んで黎とパパの所へ戻っていくから。それまで、おばあちゃまとおじいちゃまの所でいい子にしていてね。きっと迎えに行くよ。」

黎は、まだ母親の病気を理解するだけの年にはなっていなかった。

ただ、黎は、自分は、今、しっかりしなければならないと何となく感じていた。


検査を受ける


まず、超音波での検査を受けた。

左胸の17時の場所に確かに以前より少し大きくなったしこりがあった。

そして、胸骨のわきのリンパ(胸骨傍リンパ節)にもしこりが認められた。

次に、血液検査。

炎症反応が出ている。

そして、穿刺細胞診。

穿刺細胞診は、手で触れるしこりの中に細い針で極少量の組織を取って検査する。

次に、MRIで他の部位に転移していないかを調べた。

検査の結果、多臓器への転移は認められなかったものの、リンパ節への転移が認められた。

ステージIIIb期。

癌がかなり進行しているので、一般的には、化学療法、ホルモン療法、放射線療法が治療の中心となる。

しかし、彩子は、妊娠しているのでホルモン療法は出来ない。

妊娠16週から32週の間なら、手術も抗ガン剤を使った化学療法が出来るので、まず、手術することになった。

そして、抗ガン剤治療。

胎児が外に出ても生きていくことが出来るように機能が整ったら直ぐに、帝王切開で出産することになった。

手術では、胸と胸骨傍リンパ節に出来た腫瘍を取り除く。

「隆、もし私に何かあったら、黎のことお願い。あと、私より赤ちゃんを優先して。私は、もう30年以上生きたわ。幸せな時間を十分過ごしたわ。私の中にいるこの赤ちゃんを優先してね。きっとよ。」

「彩子。そんなこと言うのはよすんだ。考えるのも。ただ、病気と闘って、彩子も、赤ちゃんも生きることだけを考えるんだ。いいね。家族、4人の将来だけを見つめてくれ。」

「分かっている。私も、そうしたい。でも、もしものことがあった時・・・・・。」

彩子は、そこまで言うのがやっとだった。

隆は、彩子を抱きしめた。

強く強く。


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