陽炎の向こう側             浅井 キラリ

陽炎の向こう側   浅井 キラリ

優しく抱きしめて 16



母親が美奈の様子を見に来た。

「メールで麻紀が、ランチしようって。」

「そう?大丈夫?余り遠くまで行かないほうがいいんじゃないの?」

「大丈夫。ちょっと体がだるいだけだから。」

美奈は、麻紀に返信を送った。

『メールありがとう!今日、ランチ、オッケーだよ~。どこにする?11時半にいつも行く代官山のカフェでどう?』

麻紀は、まだ今の美奈の状況を知らない。

直ぐに麻紀から返信が来た。

『ありがとう~。そこでいいよう~。後でね!楽しみ~。』

窓の外を見ると雨が上がり、日が差してきている。

『何を来ていこうかな~?』

バックの中に携帯を入れた時、美奈は、バックの中に手帳がないのに気が付いた。

『あっ、あの時、ベンチで手帳を取り出した時に落としたのかもしれない。』

美奈は、着替えて、雨上がりの外へ出掛けて行った。

初夏の日差しが眩しかった。

駅の改札を通ってホームに下りて行こうとして、視界にホームが見えてきた時、美奈は、またしても体に異変を感じた。

『胸が、胸が痛い。』

急に、胸がドキドキし始め、呼吸が乱れ始めた。

『やっぱりダメ。頓服を飲まなくちゃ。』

美奈は、慌てて、階段を上り始めた。

上の売店でミネラルウォーターを買って、頓服を飲んだ。

ベンチに座り、頓服が効いてくるのを待った。

『待ち合わせの時間に遅れちゃう。うっ、胸が痛い。苦しい。』

美奈は、ハンカチで口を押さえた。

30分くらい、そこで座っていただろうか、漸く、薬が効き始め、症状が治まってきた。

『急がなくちゃ。』

時計を見ると、もう待ち合わせの時間になっていた。

でも、どうしてもホームへ下りて行く階段へ向かっていけない美奈だった。

美奈の携帯が鳴った。

「美奈?時間、間違えた~?」

「ゴメン。ちょっと、気分が悪くなっちゃって。今、まだ、駅なの。」

「えっ、大丈夫?」

「うん。薬飲んだから。」

「えっ、病気なの?だめじゃない。病気なのに。今日は、帰って休んだら。言ってくれなくちゃ。なんで言わないのよう。」

「大丈夫かなって思ったんだけど。」

「とにかく、今日は、家に帰りな。」

「ゴメンね。」

「いいよ。それより、あんたの体が心配だよ。大丈夫なの?」

「ちょっとね。」

美奈は、今、家に帰れば、両親から、その理由を聞かれるのが分かっていた。

それが嫌だった。

駅の近くのカフェに入った。

窓際の椅子に座った。

「何に致しますか?」

水を持って、20代前半のウエイターが注文を取りに来た。

後ろから、声を掛けられ、美奈は、ビクッとした。

「あっ、カフェオレを。」

注文をし終わると、美奈の携帯が鳴った。

麻紀からのメールだった。

「どうしたの?病気って。心配。もう、家に帰った?大丈夫?」

短い文面だが、美奈を心配しているのが伝わって来る。

自分が思っていない方向へどんどん進んでいくような感じがして、美奈は、不安になる。

「大丈夫。今、駅前のカフェでお茶している。」

直ぐに、返信した。

「そっちに行こうか?どうせ、暇だし。お昼食べられる?」

「うん。でも、悪い。」

「だって、暇だから。」

「じゃあ、待っている。ありがとう。」

30分ほどで、麻紀が来た。

「ゴメン。」

「ううん。ぜんぜん。どうせ、暇なんだし。久しぶりに会いたかったし。それより大丈夫?」

「ちょっとね。」

「どうしたの?顔色わるいよ。薬飲んだって言ってたじゃない?何ていう薬?」

「ワイパックス。麻紀なら、直ぐに分かっちゃうよね。何の薬か。」

「何があったの?」

「訳わかんないの。どうしてそうなちゃったか。自分でも、よくわからないの。どうなっちゃっているのか。」

「どういうこと?」

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